日本大百科全書(ニッポニカ) 「クラスター化合物」の意味・わかりやすい解説
クラスター化合物
くらすたーかごうぶつ
cluster compound
同一元素あるいは類似した元素の原子が3個以上集まってひとかたまりに結合している構造をクラスター構造とよび、その構造をもつ化合物をクラスター化合物という。金属元素の原子の場合には金属クラスターということもある。クラスターは全体として正または負の電荷をもつこともあり、中性のこともある。金属結晶は巨大なクラスター構造であると考えられるため、逆に、金属元素のクラスター化合物は最小の金属粒子を含む化合物であると考えることができる。
いくつかの例をあげると、ドデカボラン(12)陰イオンB12H122-では、12個のホウ素原子が正二十面体骨格構造をつくる。見かけ上二塩化モリブデンMoCl2となるオクタクロロヘキサモリブデン(Ⅱ)塩化物は[Mo6Cl8]Cl4の式で示される錯体であり、その錯陽イオンの中に、6個のモリブデン(Ⅱ)イオンが正八面体骨格をつくるクラスター構造がある。クラスター化合物の研究が盛んに進められているのは、これら構造的な興味のほかに、有機合成の触媒としてよく用いられており、さらに各分野への発展が期待されるためである。
[岩本振武]