日本大百科全書(ニッポニカ) 「コイン語族」の意味・わかりやすい解説
コイン語族
こいんごぞく
字義的にはコイ人(従来ホッテントットとよばれた)の諸言語(ナマ語など)のことであるが、内容的にはサン人(従来ブッシュマンとよばれた)の諸言語をもこれに含めるのが普通である。コイサン語族ともいう。アンゴラ、ボツワナ、ナミビア、南アフリカ共和国などに分布し、さらに、タンザニアで話されるサンダウェ語とハツァ語を含めるのが一般的である。
これらの諸言語の共通点としては、吸着音(クリック)とよばれる音が、通常の子音と同様に用いられるということがあげられる。吸着音は、奥舌面を軟口蓋(なんこうがい)もしくはそれより後部に密着させ、さらにその前のどこかで閉鎖を形成し、その間の空間の気圧を低めたのちに、その閉鎖箇所を急速に開き、前方から空気を一気に流入させて発する音で、舌打ちの音などがそれであるが、こうした音を普通の子音同様に用いる言語は、アフリカ以外にはみいだされていない。コイン諸語のなかで吸着音の種類が多いものは、両唇音、歯音、歯茎硬口蓋音、硬口蓋音、側面音の5種類を用いると報告されている。コイン諸語に隣接する若干のバントゥ(バントゥー)系言語にも吸着音を用いるものがあるが、これはコイン諸語の影響によるものと考えられる。コイン諸語の比較研究はまだ十分でなく、そのすべてを一つの語族としてまとめてよいかどうか疑問である。
[湯川恭敏]