ウラル語族サモエード語群に属する民族。サモディーともいう。現在、サモエードは、ネネツ(ユラク・サモエード)、エネツ(エニセイ・サモエード)、ガナサン(タウギ・サモエード)、セルクープ(オスチャーク・サモエード)の4民族からなる。
ネネツは、エニセイ川からウラル山脈以西のドビナ川までの北極海沿岸のツンドラと森林地帯、つまり、ロシア連邦のタイミル、ヤマロ・ネネツ、ネネツの各自治管区とコミ共和国北部に分布する。人口は約3万4190(1989)で、もっとも多い。ツンドラでの大規模なトナカイ遊牧を主生業とし、生活のほとんどをトナカイに依存している。しかし、狩猟・漁労も重要で、とくに森林地帯に分布するネネツはあまり大きな飼養は行わず、もっぱら狩猟・漁労に依存している。
エネツは、エニセイ川河口付近、ガナサンはタイミル半島(ともにタイミル自治管区に含まれている)に分布する。両者とも人口はきわめて少なく、エネツは198人(1989)、ガナサンは1262人(1989)ほどである。ネネツと同様にツンドラでのトナカイ飼養を行うが、タイミル半島がまだ野生トナカイの宝庫であるため、狩猟の比重がきわめて高い。
セルクープは、エニセイ川とオビ川の中間地帯(ヤマロ・ネネツ、ハンティ・マンシ両自治管区とトムスク州)に分布し、人口は3564(1989)ほどである。分布域は、オビ川とエニセイ川の支流が多く交錯しているため、漁労が盛んであるが、森林地帯での狩猟も重要である。トナカイ飼養の規模は小さい。これらの4民族のほかにも、かつてサヤン山脈周辺にカマス、カラガス、コイバル、ソヨート、モトルといったサモエード系の言語を話す諸民族がいたが、彼らの言語は19世紀前半までにトルコ化、ロシア化され、1920年代にまったく消滅した。
サモエードの社会は、いずれも外婚的父系氏族が基本であるが、所有するトナカイの量で貧富の差ができていた(とくにネネツ)。早くからロシア人の影響でギリシア正教が入っていたが、シャマニズム(シャーマニズム)を中心とした自然崇拝も強く、とくにエネツ、セルクープには強力なシャマン(シャーマン)が残っていた。
[佐々木史郎]
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