写真を使用するアメリカの美術作家。ニュー・ジャージー州グレンリッジに生まれ、ニューヨークのロング・アイランドで幼少期を過ごす。1976年ニューヨーク州立大学バッファロー校(絵画専攻)卒業。在学中クラスメイトの画家ロバート・ロンゴRobert Longo(1953― )と出会い、現代美術に開眼。翌年ロンゴとニューヨーク市に移住。その年末より自分自身を撮影した白黒写真の連作「アンタイトルド・フィルム・スティル」を開始。80年ニューヨークの画廊メトロ・ピクチャーズで個展を開催。82年ドイツ、カッセルの国際美術展ドクメンタおよびベネチア・ビエンナーレに出品。このころより国際的な注目を集める。「アンタイトルド・フィルム・スティル」は、大衆映画やソープ・オペラのステレオタイプなヒロインを連想させる人物に自ら扮装し撮影したもの。80年に手がけた「リア・スクリーン・プロジェクション」は最初のカラー作品で、スライド写真をスクリーンに投影しその前に扮装した作者が立つセルフ・ポートレートで、つづく81年のパノラマのカラー作品「センター・フォールド」は、美術雑誌に掲載される際の見開きの形式を想定して制作され、作者の身体を俯瞰する男性的、抑圧的な視線が際だっている。著しく作品サイズが拡大し、映画のシネマスコープ・サイズを思わせるこの二つの連作を通じてシャーマンは、巨大な展示物としての写真というあり方を一般に定着させ、結果的に写真の提示形式に革新をもたらした。
80年代前半までの作品は、既存のメディアに登場する女性像をコスチューム・プレーによって反復、提示している。あえて男性側の視線をなぞり、性的衝動を喚起する戦略には、フェミニズム批評家の一部から批判が起こった。しかしシャーマンの写真は、意味内容ではなく記号的な力学に重きをおいており、むしろ男性・女性間の固定した支配、隷属関係そのものを顕在化させつつ、さらにその関係を不鮮明なものにして社会的な文脈とは微妙にずれた新しい物語のなかに置きなおしている。こうした特徴をもつシャーマンの作品は、85~89年に制作された連作「ディザスター」と「フェアリー・テイル」において新たな段階を迎える。これらの連作では、それまでのソープ・オペラ的、メロドラマ的な場面設定にグロテスクなホラー映画を思わせる設定がとって代わる。シャーマンは、自ら汚物や腐敗物の支配する風景のなかの死体を演じ、また異形の動物や怪物に扮装することで、恐怖、病、死といったネガティブな観念を自己像の解体過程と見事に結びつけた。
また88年に開始された「ヒストリー・ポートレート」では、美術史上の肖像画の傑作に、主に複製画を下敷きにしながら自ら扮し、それを自由に翻案した。このセルフ・ポートレートの連作は、同時期に同様の主題に取り組んだ森村泰昌(やすまさ)(1951― )の作品とは異なり、起源となる図像が直接的には特定しがたいものである。それまでの彼女のセルフ・ポートレート同様、「ヒストリー・ポートレート」もまた、起源を欠いたシミュラクル(模造)という特徴が顕著である。こうした特徴によってシャーマンは、美術が歴史的に価値をおいてきたオリジナリティーや作者の権威を批判する、ポスト・モダニズムの思潮を代表する作家の一人と目されている。
医療用器具店で入手したマネキンを撮影した連作「セックス・ピクチャー」(1992~ )ではセルフ・ポートレートという枠組みから離れ、性表現に関わるジェンダーの問題はもちろん、身体性や検閲といったさまざまな問題を提起した。以降、「ホラー」(1994)、「マスク」(1996)でも人形を用いた連作を続けて発表。彼女の作品はすべて「無題(アンタイトルド)」というタイトルに番号が付され、上記連作のタイトルは通称である。なお「ファニーなホラー」をテーマにしたという劇場用映画に『オフィス・キラー』(1997)がある。
[倉石信乃]
『「特集シンディ・シャーマン」(『美術手帖』1996年10月号・美術出版社)』▽『Rosalind Krauss, Norman BrysonCindy Sherman 1975-1993 (1993, Rizzoli, New York)』▽『「シンディ・シャーマン展図録」(カタログ。1996・朝日新聞社)』
神や精霊との直接接触からその力能を得、神や精霊との直接交流によって託宣、予言、治病、祭儀などを行う呪術(じゅじゅつ)・宗教的職能者。役割を果たす際に、トランスtrance(意識の例外状態)のような異常心理状態になることが多い。男女あるが、地域や民族により比率が異なる。シャーマンになるのには大別して二つの方法がある。一つは、神霊や精霊が特定の人物を選んで試練を課し、強制的にシャーマンに仕上げるもので、召命型といわれる。他は、いろいろな理由から個人が意図的にシャーマンになることを志し、多くは先輩シャーマンの指導により、学習・修行を続けて一人前になるもので、修行型とよばれる。いずれの場合も、神や精霊との直接接触・交流の力能の把握が中心となる。わが国では巫者(ふしゃ)とか巫女あるいは巫覡(ふげき)とよばれる。
[佐々木宏幹]
『佐々木宏幹著『シャーマニズム――エクスタシーと憑霊の文化』(1980・中央公論社)』
アメリカの軍人。陸軍士官学校卒業(1840)。メキシコ戦争に従軍(1846~1847)後、サンフランシスコで銀行業に失敗。弁護士を経てルイジアナ州のミリタリー・アカデミーの校長に就任(1859~1861)。南北戦争勃発(ぼっぱつ)で連邦軍(北軍)に復帰、1862年に少将に昇進。将軍として、1864年、テネシー州チャタヌーガを起点に、6万余の兵士への補給を受けず現地徴発により、有名な「海への行軍」を行い、南軍を二分し、アトランタ、サバナを占領。4万世帯の解放黒人に沿岸沖の海上群島(シー・アイランズ)を解放し、1世帯につき40エーカーの土地を割り当てた。敵兵を倒すより、補給路を断ち、公共建築物や鉄道、工場を破壊する近代的作戦をとった最初の将軍として知られる。
[竹中興慈]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
アメリカの南北戦争時代の連邦陸軍将軍。1840年ウェスト・ポイント陸軍士官学校卒業,米墨戦争に参加。南北戦争の際,ブル・ラン,シャイロ,ビクスバーグ,チャタヌーガの戦で活躍し,64年グラントの後を継いでミシシッピ方面軍司令官となった。その年9月アトランタ攻略後,6万2000の軍を率いて有名な破壊作戦〈海への進軍〉を開始し,ジョージア,そしてさらに南・北カロライナを席巻した。
執筆者:井出 義光
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 占い学校 アカデメイア・カレッジ占い用語集について 情報
…テナガザル類の中ではもっとも大型で,のどに大きな鳴きぶくろをもつことからこの名がある。別名シャーマン。かつてはよくフクロテナガザル属として別属に分類されたが,現在では他のテナガザルとともにテナガザル属に含められるのがふつうである。…
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[メディアの歴史]
その語源でもあるように,人間が神や霊魂などと意思を交流するためには,特別の資質や才能をもった仲介者が必要である。シャーマンshaman,呪医magic‐doctor,巫女,古代中国の天子,あるいは殷(いん)(前17世紀ころ~前11世紀)の時代に亀甲を焼いて天意を占った卜人などが超自然的コミュニケーションのメディアであった。 人間のコミュニケーションにおいては言語がきわめて重要な役割を担うが,言語の成立以前から,人間は表情や身ぶりで意思や感情を伝え合ってきた。…
…シャマニズムとは通常,トランスのような異常心理状態において超自然的存在(神霊,精霊,死霊など)と直接に接触・交流し,この間に予言,託宣,卜占,治病,祭儀などを行う人物(シャーマン)を中心とする呪術・宗教的形態である。〈シャーマン〉の語はツングース系諸族において呪術師を意味する〈サマンšaman,saman〉に由来するとする説が有力である。…
…日本の氏神,産土(うぶすな)神,鎮守神は家や土地の,天満天神は学問,教育,文化の,稲荷神は農工商の,八幡神は軍事,武道の守護神として知られる。 守護霊の典型的な例は各地のシャーマンに見られる。一般にシャーマンは守護霊の援助と指示により役割をはたす職能者だからである。…
…いずれも,人間の日常的判断を超える難問の解決に,神の意志が求められる場合に限られる。こうした神託にたずさわる者としては,シャーマンとよばれる呪術―宗教的職能者がいる。シャーマンとは,脱魂,憑依(ひようい)などのトランス状態において,神あるいは神的霊と直接的に交通し,その意志を彼あるいは彼女自身の言葉と行為を通して第三者に伝達する特殊能力の持主をいうのであり,女性の場合は巫女(みこ),男性の場合は覡(げき)ともよばれる。…
…16世紀毒使いとして非難を浴びたパラケルススが毒は薬でもあることを述べているが,その量によってトリカブトが神経痛の薬になったり,ほかにも強心剤,血圧降下剤となるものも多く,部族社会でもその使用がみられる。部族社会で呪医(じゆい)として活動するシャーマンは,敵を〈毒殺〉する一方で,味方の治療をするためにしばしば毒キノコや幻覚作用のある植物を口にし,霊的世界と往来する例がみられる。これらの幻覚薬は新大陸でよく知られており,カリフォルニアからメキシコにかけてのインディオが使うペヨーテ,南アメリカにまで広がるチョウセンアサガオ(ともにアルカロイド毒),アマゾン流域のキントラノウ科の植物(Banisteriopsis caapi),メキシコや東北アジアにみられるシビレタケ(シロサイビン毒),テングタケ(ムスカリン毒)がその代表であろう。…
…催眠によって表面の意識が消失し,心の内部の自律的な思考や感情があらわれる場合や,ヒステリー,カタレプシーによる意識の消失,狐やその他の霊に憑(つ)かれたとされるとき,または外界との接触を絶つ宗教的修行による忘我・法悦状態などを指す。このトランス状態に入って,超自然的存在である神や精霊,死霊などと接触し,卜占,予言,治療,祭儀を行う呪術‐宗教的職能者をシャーマンというが,シャーマンのトランスには霊魂が身体から離れて異界に移動し,神や霊と接触する脱魂(エクスタシーecstasy)と,超自然的存在がシャーマンを訪ねる憑依(ポゼッションpossession)との,2種類の神秘体験があるといわれる。日本におけるシャーマン的行為は主として憑依による。…
※「シャーマン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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