シロアリ(読み)しろあり(その他表記)termites

日本大百科全書(ニッポニカ) 「シロアリ」の意味・わかりやすい解説

シロアリ
しろあり / 白蟻
termites

昆虫綱シロアリ目(等翅(とうし)目)Isopteraの昆虫の総称。社会生活をする食材性の小形昆虫で、世界の熱帯地域を中心に約2100種が知られ、日本には15種が生息する。形態や生活様式がアリに似ているが、系統的にはゴキブリに近縁で、古生代石炭紀のころ共通の祖先から分化した古い昆虫である。有翅虫のはねは膜状で、前・後翅が同形同大であることから等翅類の名がある。はねは基部近くに切離線をもつのが特徴で、そこから先は容易に脱落する。

[森本 桂]

分類と日本の主要種

ムカシシロアリ科の種類は、オーストラリアに1種いるだけであるが、化石は世界中から出土している。形態や生態はゴキブリに似ている。レイビシロアリ科の種類には、サツマシロアリカタンシロアリナカジマシロアリなどが含まれるほか、アメリカカンザイシロアリはアメリカ産の材や家具とともに日本に入り、東京地方や神戸地方などから発見されている。この仲間は乾燥に強く、糞(ふん)は砂粒状で、蟻道(ありみち)や巣を加工できない。オオシロアリ科の種類には、オオシロアリが所属し、少数の種が温帯の湿った朽ち木の中にすむ。シュウカクシロアリ科の種類は、アフリカの草原にすみ、草を切り取って土中の巣に蓄える。ミゾガシラシロアリ科の種類には、ヤマトシロアリイエシロアリが含まれ、頭に額腺(がくせん)がある。この仲間は種類が多く、土中から建物へ侵入する害虫が大部分である。シロアリ科の種類は、シロアリ目の3分の2を占め、次の亜科に大別される。テングシロアリ亜科は、タカサゴシロアリを含み、兵アリの頭部はフラスコ状で額腺から粘液を水鉄砲状に放出する。キノコシロアリ亜科は、タイワンシロアリや熱帯地域で大きな塚(アリ塚)をつくる種を含み、巣の中にキノコを栽培する菌室がある。ツカシロアリ亜科には、腐植土を食べ、塚をつくる種があるが、菌室はない。シロアリ亜科には、ニトベシロアリが含まれ、兵アリの大あごは左右不相称で外敵をはじき飛ばす。

[森本 桂]

階級

シロアリの社会には次の段階があってみごとな分業を行っている。

(1)生殖階級 産卵に専念する階級で、一般に王(王アリ)と女王(女王アリ)とよばれ、つねに両者はいっしょに生活している。このうち有翅虫から王や女王になったものを生殖虫(第一次生殖虫)とよび胸部に翅根部が残っており、産卵能力が大きい。このどちらか、また両方が傷ついたり死んだ場合や、巣の一部が分断されたりすると、ニンフnymphから副生殖虫が分化してくる。翅芽(しが)のあるニンフから分化した副生殖虫を第二次生殖虫とよび、翅芽のない副生殖虫を第三次生殖虫とよぶことがある。

(2)兵アリ階級 頭部が特殊に発達し、大あごでかみついたり、発達した額腺から分泌する防御物質の放出や、大あごではじき飛ばす方法で外敵からコロニーを防衛する。兵アリはシロアリ個体数の2~4%を占める。

(3)働きアリ階級(職アリ階級) 巣の構築、清掃、食物の採集をはじめ、ほかの階級や幼虫に食物を与えたり世話を行う階級で、個体数の大部分を占める。階級の分化はフェロモンによって調節され、排出物をなめ合う習性によって、この行動は個体間を循環する。

[森本 桂]

食性

シロアリ類は木材を食べるが、食物として利用するのはそのなかに含まれるセルロースヘミセルロースで、リグニンの大部分はそのまま排出される。食物中のタンパク質は中腸で吸収され、セルロースなどは後腸に共生する多数の原生動物によって分解発酵されてシロアリに吸収される。卵から孵化(ふか)直後の個体や脱皮によって原生動物をもたない個体は木材を消化できないが、ほかの個体の背面を刺激して原生動物の多い液状物を排出させ、これを食べて消化管中に取り込むと同時に、その一部を消化してタンパク源として利用する。

[森本 桂]

下等なシロアリは蟻道や巣を加工できず、食害部がそのまま巣となるが、進化につれて巣の構造は複雑となり、温度、湿度、ガス濃度などを調節する高度に発達した巣をつくるものがあり、またキノコシロアリ類は巣の中に菌室があって、シロアリタケを栽培する。このキノコは食物として利用され、ビタミン剤的な作用がある。オーストラリアには、正確に南北をさす衝立(ついたて)状の巣をつくる種が知られている。

[森本 桂]

生活史

巣や木材加害部から種類ごとに決まった時期に有翅虫が群飛する。その時期は、イエシロアリでは6、7月の夕方で、ヤマトシロアリでは5月の日中に有翅虫が飛び出す。有翅虫は雌雄1対1で、しばらく飛んだのち、体の切離線からはねが切れると雌雄は対になり、湿った木などに穴を掘って交尾し、10~20日後に第1回の産卵を行う。この卵は少数で、孵化した幼虫には親が口移しで食物を与えて育てる。働きアリが分化して働きだすと、生殖階級は産卵に専念するようになり、卵巣の発育につれて雌の腹部は肥大してくる。成長したコロニーでは、雌(女王)は機械のように卵を産み続け、1日に8万個、一生に数千万個の卵を産んだ記録がある。

[森本 桂]

被害と防除法

シロアリ類のうち害虫として社会問題になる種類は50種ほどで、多くの種は物質循環や土壌の物理性をよくする益虫としての働きがあり、温帯地域のミミズに比較されている。

 シロアリの被害は、木材を加害するだけでなく、コンクリート、プラスチック、ゴム、鉛などにも穴をあけ、海底ケーブルが海岸でイエシロアリに加害された例もある。また、樹木やサトウキビなど生きた植物も南日本では食害される。シロアリは乾燥に弱く、巣や加害部はつねに湿っていることが必要であるが、イエシロアリのように、水をとって蟻道から運び、湿しながら加害するので、家屋の被害は建物全体にまで及ぶ。

 シロアリの被害を防ぐには次の方法がある。建物の乾燥を保つように床下の通気や排水をよくし、雨漏りにはとくに注意する。土台や台所、風呂場(ふろば)など湿気の多いところに使う材は予防剤で十分に処理し、基礎建材の周囲は土壌処理剤で処理する。材の表面に塗布や吹き付けを行う方法では、防蟻(ぼうぎ)剤は数ミリメートルしか浸透しないので、材の内部を食害された場合には、斜めにあけた穴から防蟻剤を内部に注入し、とくに基礎に接する部分や継手部分は十分に処理をする。的確な防除には、シロアリ、薬剤、建物に関する知識が必要で、社団法人日本しろあり対策協会か、そこの資格試験に合格した防除処理施工士に相談するとよい。

[森本 桂]

『山野勝次著『建築昆虫記――その被害と生態と防除』(1969・相模書房)』『松本忠夫著『社会性昆虫の生態・シロアリとアリの生物学』(1983・培風館)』『日本しろあり対策協会編・刊『しろあり詳説』(1980)』


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改訂新版 世界大百科事典 「シロアリ」の意味・わかりやすい解説

シロアリ (白蟻)
termite

社会生活をする不完全変態の昆虫で,シロアリ目(等翅類)Isopteraの総称。世界中から2050種,日本から16種が知られ,熱帯や亜熱帯に多い。形や生活様式などはアリに似ているがこれとは縁が遠く,ゴキブリに近縁である。

シロアリには次の階級があり,フェロモンによって制御されている。(1)生殖階級 産卵に専念する階級で,雄と雌は王と女王と呼ばれる。アリやミツバチでは1回の交尾で十分な精液を雌は蓄えるが,シロアリの雌にはその能力がないのでつねに雄といっしょに生活している。群飛後,対になった有翅虫(羽アリ)の雌雄を生殖虫,または第1次生殖虫と呼び,胸部に翅の基部が残っている。高等なシロアリほど女王の腹部は卵巣の発達で肥大し,タイワンシロアリでは6cm以上にもなるが,下等なシロアリでは肥大は少ない。生殖虫が死亡するか除かれた場合,幼虫から有翅虫になる過程のある段階のものが副生殖虫に分化する。一つのコロニーに生殖虫は1対であるが,構成員の多い種では数対の副生殖虫がいる。(2)兵アリ階級 コロニーを外敵から防衛する階級で,頭部は特殊に発達し,大あごの強大なもの,頭部の額腺が水鉄砲状に発達して粘液を放出するもの,大あごが不相称な形となり外敵をはじき飛ばすもの,頭部前面が盾状になって孔道をふさぐものなどがある。兵アリはコロニーの2~5%を占めるが,若いコロニーでは割合がやや高い傾向がある。(3)職アリ階級 いわゆる働きアリで,食物の採取運搬,生殖階級や幼虫,兵アリなどに食物を与えたり世話を行い,巣の構築,清掃などを行う。コロニーの90~95%を占める。

シロアリの食物の多くは木材などの植物質で,その主成分であるセルロースとヘミセルロースはなんらの変質も受けずに後腸に達する。そこは酸素圧の低い嫌気条件に保たれ,多数の原生動物が共生している。この原生動物はセルロースとヘミセルロースを分解吸収するとともにグルコースを発酵し,シロアリはこの発酵生産物を吸収して栄養にしている。高等なシロアリ科では共生原生動物の代りにバクテリアがこの役割をしているものがあり,また腐朽菌などで分解の進んだ植物質を食べるものも多い。キノコシロアリの仲間(日本ではタイワンシロアリ)は巣の中に菌室があり,オオシロアリタケを栽培して食物にしている。

土や排出物による巣やアリ道の構築,食物の採取,孔道の発達などによって熱帯地方では長期間に土壌に大きな影響があり,アフリカやオーストラリアでは特有の地層ができている。有機物の蓄積や塩類の沈着によって巣の付近は炭素,窒素,リン,カリウム,カルシウムなどが多くなり,塚を直接肥料として利用したり,外壁の粘土は焼物やテニスコートの材料に用いられている。網目状のアリ道は土壌の通気性や浸透性をよくし,これらの働きを通じてミミズ同様の働きをしている。熱帯地方にあるアリ塚には木がよく生育し,アフリカの草原ではシロアリがいなければ森林は再生しないといわれている。シロアリは食物の消費や巣への排出物などの蓄積,シロアリ自身を他の動物の食物とすることなどで物質循環に大きな役割を果たしている。タンザニアやケニアでは野生大型動物の生体重に匹敵するだけのシロアリが地下に生活している。

オオシロアリは足摺岬,佐多岬,屋久島~徳之島で朽木にすむ。コウシュンシロアリ(沖縄以南),カタンシロアリ(本州南岸以南),サツマシロアリ(足摺岬以南)およびナカジマシロアリ(四国と九州南岸)はタブ,シイ,カシなどの枯枝から樹幹に営巣し,枝折れや空洞の原因になる。タイワンシロアリは沖縄以南に分布し,土中に菌室をつくる。タカサゴシロアリは樹上や岩の上に球形の巣をつくり,ニトベシロアリは朽木や腐葉土の中にすみ,ともに石垣島以南に分布する。キアシシロアリとアマミシロアリは奄美諸島から知られ,生態はヤマトシロアリに似ている。ダイコクシロアリは奄美以南に分布し,家や家具など乾燥した材を加害する。アメリカカンザイシロアリはアメリカ原産で材とともに日本にもちこまれ,東京や大阪で被害の報告がある。

日本で建物を加害するのはヤマトシロアリイエシロアリであり,とくに前者は湿った材のみを加害するので,建物の構造材が湿らないように排水や床下の通気を十分にし,発生源となる伐根や木片なども建物の周囲から除去しておく。木材の予防剤と駆除剤および土壌処理剤は日本しろあり対策協会で認定した登録薬が市販されており,その使用法も製剤の形態,処理する木材や建物の構造,加害するシロアリの種類などによって規定されている。資料の入手や防除についてはこの協会か協会で資格審査をして登録したシロアリ防除士に相談するとよい。
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百科事典マイペディア 「シロアリ」の意味・わかりやすい解説

シロアリ(白蟻)【シロアリ】

シロアリ目(等翅(とうし)目とも)に属する昆虫の総称。社会生活を営むのでアリ類と混同されやすいが,完全変態をするアリ類とは異なり不完全変態をし,分類上はゴキブリ類に近い。全世界に2200余種あり,熱帯や亜熱帯に種類が多い。家屋を食害する著名な害虫も含まれるが,自然の生態系では植物遺体の分解者としてきわめて重要な役割をもつ。体は軟弱で,乳白色または薄茶色。体長5〜10mmのものが多い。一定の季節に有翅虫(羽アリ)が現れる点でアリの社会に似ているが,有翅虫の雌雄(女王,王)1対で適所に営巣する点はアリと異なる。女王は卵巣が肥大し,種類によっては数十年間も生存する。兵アリ,働きアリともに雌雄両性がある点もアリと異なるが,生殖能力のない点はアリと同様である。植物のセルロースを腸内に共生する原生動物トリコニンファの分泌する酵素で分解して栄養とする。木材内に直接巣を作るヤマトシロアリ型と,土中に営巣し,そこから地上の塔や木材に坑道で連絡するイエシロアリ型とがある。熱帯には生きた植物を食べる種類も少なくなく,大きなアリの塔を作るものも知られる。

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リフォーム用語集 「シロアリ」の解説

シロアリ

木造建造物の大害虫で、本巣や分巣をつくる。

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世界大百科事典(旧版)内のシロアリの言及

【共生栄養】より

…草食動物のほとんどは植物体の主要な成分であるセルロースを分解する消化酵素(セルラーゼ)をもたないが,消化管内にすむ微生物の働きによってセルロースを栄養として利用できる。木材を食べるシロアリは,その腸管内に共生する原生動物(鞭毛虫類)や細菌がセルロースを分解して嫌気的につくりだす脂肪酸を利用しており,もし人為的に原生動物を除くとシロアリは死ぬ。ウシ,シカ,キリン,ラクダなどの反芻(はんすう)動物には3~4室にわかれた大きな反芻胃があり,その第1番目のもっとも大きいルーメン(瘤胃(こぶい))と網胃はそこに存在する細菌や原生動物(繊毛虫類)の働きによってセルロースを分解する一種の発酵槽になっている。…

【社会性昆虫】より

…語感から一般に〈集団生活をしている昆虫〉ととられがちだが,実際はおもにアリ,シロアリおよび一部の集団性ハチ類(カリバチ類waspsのアシナガバチ,スズメバチやハナバチ類beesのミツバチ,ハリナシバチ,マルハナバチ,一部のコハナバチなど)に対して用いられるもので,以下この意味で解説する。これらの昆虫の特性は,集団(コロニー)がカースト制によって維持されている点にある(ヒトにおけるカースト制とは,表面的類似はあっても無関係)。…

※「シロアリ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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