改訂新版 世界大百科事典 「スミレモ」の意味・わかりやすい解説
スミレモ
Trentepohlia
岩上,樹皮上または板塀上など空中に露出した場所に,橙色の薄いじゅうたんを敷いたように,または斑紋のように生育する緑藻の1属で,スミレモ科に所属する。一部をピンセットなどでつまみとって検鏡すると,藻体は多くの分枝をもつ単列糸状体であり,細胞内の葉緑体には多数の橙色の顆粒(かりゆう)が含まれることがわかる。糸状体の先端または側部に球形ないし楕円形の特別な形状の細胞がつくられるが,これは無性生殖器官で,中に多数の遊走子がつくられる。遊走子は前端に2本の鞭毛をもち,雨の降ったときなどに放出されて泳ぎ,基物につくと発芽して親と同様の体に生長する。この属の種の区別は,糸状体が円柱状細胞から成るか,楕円状細胞から成るか,毛状細胞をもつか,もたないかなどによる。代表的な種であるスミレモT.aurea(L.)Martiusは世界各地に分布し,日陰を好んで生育する。スミレモの和名は,藻体がスミレのにおいに似ることに由来するといわれるが,実際はそのようなにおいがないので,確かなことは不明である。
執筆者:千原 光雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報