スギ(英語表記)Japanese cedar
Cryptomeria japonica D.Don

改訂新版 世界大百科事典 「スギ」の意味・わかりやすい解説

スギ (杉)
Japanese cedar
Cryptomeria japonica D.Don

スギ科の常緑高木で,日本で最も重要な林業樹種であり,生活とのつながりも深い。

樹幹がまっすぐに伸び,大きなものは高さ50m,胸高直径5mに達する。幹の樹皮は赤褐色または暗褐色の繊維質で縦に細長く裂けてはげる。密に分枝し,樹冠は楕円状円錐形で,若いときは梢端がとがっているが,老木では丸くなる。葉はらせん状に密集してつき,鎌状針形で,基部は太くなって枝との境がはっきりしない。雌雄同株で,春3~4月に開花する。雄花は楕円状球形で長さ約5mm,淡黄褐色,小枝端に穂状に群がってつく。おしべはらせん状に並び,葯室は4~5個ずつつく。雌花は球形で径5~6mm,緑色,短い枝の先に1個ずつつき,先のとがった包鱗と先端が4~6裂する種鱗が対になって螺生(らせい)し,各種鱗には2~5個の胚珠がつく。10月ころ径15~20mmの球形の球果を結ぶ。種子には両側に狭い翼がある。

青森県西津軽郡鰺ヶ沢町矢倉山から鹿児島県屋久島までの暖温帯と冷温帯に点々と天然分布がみられ,立山連峰劔岳の2050mと屋久島の1850mが,本州および九州での最高垂直分布標高である。有史以来の人為的な植栽の結果,真の天然分布域は必ずしも明らかではないが,秋田県米代川流域や高知県安芸郡馬路村の魚梁瀬(やなせ)地方などの各地には天然生のよい林がみられ,とくに秋田のそれは日本三大美林の一つに数えられる。屋久島の標高650m以上の高所には老木の林がみられ,現地では樹齢800~1000年を超えるものを屋久杉という。中には2000~4000年と推定されるものもあり,近年発見された縄文杉や大王杉はその代表的なものである。島津藩時代の伐根とみられるウィルソン株のように,地上2mで直径4.3mを超すものもある。すなわち,スギは日本産樹木の中では最大,最長寿の種である。

 スギは従来1属1種の日本特産種とされ,国外では,台湾,中国中・南部からヒマラヤまで広く植林されるものと同一種と考えられてきた。しかし,近年中国の浙江省(天目山),福建省北部,江西省(廬山)などに産するものは自生とみなされるようになり,中国の学者はこれをヤナギスギ(柳杉)C.fortunei Hooibrenk,日本産をニホンヤナギスギ(日本柳杉)として区別する。概して日本産より針葉が細く,種鱗の先端の歯牙があまりとがらず,また各種鱗上の種子数も2個と少ない点で異なるという。しかし,日本から持ち込まれたものの変異型とみなし,カワイスギC.japonica var.sinensis Sieb.et Zucc.と称する人もいる。スギは日本の鮮新世と更新世の地層から化石を出土するが,近縁種が広くヨーロッパと東アジアの第三紀層から知られているので,中国に自生種が見いだされても不思議はない。このように分布が広いために地方的な変異も多く,とくに日本の太平洋側のものと日本海側のものとでは生態,形態の差が大きい。後者では太い枝が曲がって地につき,そこから先端が立ち上がり,地についたところから発根する伏条性が強い。日本海側気候の多雪条件に適応したもので,これをアシウスギvar.radicans Nakaiという。一般に日本海側に自生ないし植林されるスギには,アシウスギに似て伏条性が強く挿木に適するものが多い。日本海側のスギはまた,梢端がとがり,太枝が下向きでしかも針葉が枝に鋭角につくという耐雪性の形態的特徴も示す。したがって,この系統のものを林業的にウラスギといって,積雪に比較的弱い太平洋側のオモテスギから区別する。両者は,その生態および生育適地も著しく異なるので,植林に用いる場合には厳密に区別する必要がある。

 スギは樹形の美しさが日本人の心情によく合うため,各地の社寺境内などに植えられ,また木材として使いやすいため日本では最も古い時代から広く植林されたので,多くの巨樹銘木や古い林が残っており,天然記念物指定のものも少なくない。中でも屋久島の縄文杉(高さ30m,目通り周囲16.1m),高知県大豊(おおとよ)町杉の大杉(高さ60m,周囲15m)が有名である。

スギの材は軽軟(平均比重0.38)で,辺材は白く,心材は淡紅色または赤褐色,ときに黒褐色(黒芯)となり,はっきりした境がある。木理はまっすぐで,春材と秋材の移行は急であり,割れやすく,春材部の風化による目やせも著しい。しかし,木材としての生産量の多さ,丸太がまっすぐで大材の得やすさ,木目の美しさなどの利点で,建築材としては柱,板材などほとんどあらゆる部分に用いられる。とくに広い板材で木目や杢(もく)の美しいものや磨き丸太は,天井板,欄間,床柱などの室内装飾材として重用される。また,足場丸太,橋梁などの土木用材,造船・車両材,電柱・家具・器具材,包装材のほか,経木,下駄,割りばしなど生活用材としても多量に用いられる。さらに心材の含有成分が酒に木香(きが)を与えるため,樽材としては欠くことができないものである。幹の樹皮は春季とくにはぎやすいので,古くから杉皮と称して屋根,下見あるいは垣根などに用いられた。針葉はタブノキの葉や樹皮とともに粉にして線香を作り,また材を抹香に用いる。庭木,生垣あるいは盆栽としても多く用いられ,枝に針葉の長い部分と短い部分が交互に現れるエンコウスギ(猿猴杉),針葉が枝によじれてつくヨレスギ,針葉が黄金色を呈するオウゴンスギなど園芸品種も多く,生花にも供される。

スギは日本の造林面積のうち40%以上を占め,ヒノキ,マツ類,カラマツ,トドマツを抜いて第1位の重要樹種である。木材の広い利用範囲,単位面積当りの生長量の大きさ,そして保育のやさしさなどの利点がその理由で,スギの育つ環境とあればまずその植林が考えられた。その結果,天竜(静岡県),吉野(奈良県),智頭(ちず)(鳥取県),日田(大分県)をはじめ有名林業地の多くはスギの植林で成り立っている。生育条件としては,年平均気温12~14℃,年降水量3000mm以上の気候が最適で,8℃以下あるいは16℃以上,2000mm以下の地域は不適となる。土壌中の水分および養分状態に敏感で,不適地での生長の減退が著しいため,おおむね斜面下部や堆積地などに植えられる。陽樹であるため,十分な受光量があるような植え方をし,幼時の凍霜害,寒害あるいは風雪害を避けるようなていねいな保育が必要である。育苗時には赤枯病が発生しやすく,スギカミキリスギタマバエなどの虫害もときに大被害をもたらす。

 スギには地理的な変異が多く,その中から数百に及ぶ林業品種が知られている。これらの品種は,生育地のさまざまな集団の中から,永い年代にわたる林業家の努力によって,あるいは実生で,あるいは挿木や伏条性利用の無性繁殖によって,選び出されてできたものが多い。実生系では,米代川流域の秋田杉,富山県立山の立山杉,吉野林業の吉野杉,高知県の魚梁瀬杉,屋久杉などが有名である。吉野杉は,鮮紅色で木理の通った材が柱や樽丸に適して有名となり,全国各地に植えられた。そのうち西川(埼玉県),天竜,木頭(徳島県),久万(愛媛県)などの各林業地は成功したが,日本海側ではみな失敗に終わった。この経験がスギの品種産地問題や育種を考える動機の一つになったといわれる。一方,挿木系では,千葉県旧山武(さんぶ)郡の山武杉,岐阜県郡上市の石徹白(いとしろ)杉,京都市北山の台杉林業に用いられる白杉(北山杉),智頭林業の沖ノ山杉,宮崎県日南市の飫肥(おび)杉などが有名で,それぞれ永い歴史がある。飫肥杉は約300年前に飫肥藩が造船用の弁甲材を作る目的で導入したものである。このほか九州各地では挿木林業が盛んで,本来自生のない九州本島が今日広く杉林業地で占められるほどである。

 なお,スギの名のつく樹木にはスギ科以外にもナンヨウスギナンヨウスギ科),ヒマラヤスギレバノンスギ(以上マツ科),ベイスギイトスギ(以上ヒノキ科)などがある。このような普通名の混用は英語のcedarについてもいえ,cedarそのものは,もともとヒマラヤスギ属の樹種ヒマラヤスギやレバノンスギを指すが,エンピツビャクシンred cedar,オニヒバincense cedar(以上ヒノキ科)などの,材に樹脂の多い針葉樹にも広く使われるようになった。また,中国で〈杉〉といえばスギ科のコウヨウザンをさすが,スギ科樹木のほかに冷杉,雲杉(以上マツ科)などのように語尾に杉の字のつくものは,たいてい針葉が松と柏(かしわ)の中間ぐらいの長さのものである。
執筆者:

《万葉集》に〈神奈備(かんなび)の三諸(みもろ)の山に斎(いわ)ふ杉〉とよまれているように,杉はまっすぐ高く伸びる目だつ木であるから,古くから神を祭る神聖な木とされた。大和の三輪明神の神杉や京都の伏見稲荷の験(しるし)の杉は神木として有名だが,このほか,大杉神社,老杉神社,杉山神社などの神社名や杉本,杉下などの地名に杉をちなんだものが多く,これらも杉を神木としたり杉のもとで祭りをしたなごりと考えられている。三輪や伏見に参った人は,杉の小枝や杉苗を持ち帰り,それが根づくと神の加護のあった印とする風があった。今でも,伏見稲荷では初午にシデをつけた験の杉を授けている。杉の枝は安産のお守や魔よけともされ,流行病や百日咳のときには〈過ぎ〉や〈過ぎてよし〉の語呂合せから杉とヨシを戸口につるしたり,家族分の餅を杉の葉につけて垣根にさし,後ろを見ずに帰る風習もある。また杉にははし(箸)やつえが成長したというはし杉やつえ杉の伝説のほか,峠などには弓を射て境を画定した跡とされる矢立杉の伝説もある。このほか,三十三回忌がすむと弔い上げに杉葉のついた生木の塔婆を墓にたて,死者が神になった印とする。杉は神聖視されたため,屋敷に植えたり垣を作ると,家が滅びるとか福が入らないといって嫌われ,また杉が立枯れしたりすると災難や変事が起こる前兆とみられた。酒と杉も関係が深く,三輪明神の助けで一夜で美酒をかもしたという伝承から,酒屋では杉葉を束ねた杉玉を軒につるして看板としたり,杉の香りを尊んで杉で酒樽を作ったりした。杉の脂は火傷,ひび,あかぎれ,吹出物などの薬として患部につけた。
執筆者:

裸子植物,球果目(松柏目)の針葉樹。葉はとげ状または線形,枝にマツ科に見られるような短枝はない。雌雄同株で単性花をつける。雄花は多数のおしべをらせん状に配列して球花をつくる。おしべ(小胞子葉)の下面に2~9個の花粉囊(小胞子囊)をつけ,花粉囊は互いに離生し,基部で合着している。花粉には気囊がなく,球形で先端がとがり,そこから発芽する。雌球花はらせん配列した果鱗複合体からなり,その包鱗と種鱗は合着し,先端の一部が離れているにすぎない。果鱗上面に2~9個の胚珠を生じ,球果は木質となり,種子の回りには狭い翼がある。近縁のマツ科と比較すると,球果はマツ科より小型で,種鱗と包鱗が合着しており,花粉にマツ科のような2個の前葉体細胞がつくられず,気囊も欠くなど,マツ科より進化したつくりをもっている。マツ科との中間型を示すのがコウヤマキSciadopitysで,コウヤマキ科を設けることもある。

 スギ科はヒノキ科と葉序以外に区別点がなく,ヒノキ科の1亜科として扱われることもある。ヒノキ科が十字対生葉序であるのに対して,スギ科は互生(らせん)葉序である。スギ科は白亜紀第三紀に多くの種属が知られているが,現在では9属15種が残存しているにすぎず,1属1種の単型属が多く,かつ,属間の類縁は希薄で,それぞれの属の独自性が強い。これは現生の属の中間的形質をもった種や属が絶滅したためと思われる。また分布も,タスマニアスギ属Athrotaxis(タスマニア),コウヨウザン属Cunninghamia(中国南部,台湾),スイショウ属Glyptostrobus(中国南東部),メタセコイアMetasequoia(中国中部),セコイアSequoia(北アメリカ西部),セコイアオスギSequoiadendron(北アメリカ西部),タイワンスギ属Taiwania(中国南西部,台湾),スギ属Cryptomeria(日本と中国南東部),ヌマスギTaxodium(北アメリカ南東部,メキシコ)と,それぞれ隔離的に分布している。

 タスマニアスギは包鱗上に多数の種鱗があり,タイワンスギでは種鱗が退化消失し,胚珠は包鱗上についている。またメタセコイアはヌマスギに似るが葉が対生し,ヒノキ科との類縁性を示している。
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スギ
Rachycentron canadum

スズキ目スギ科の海産魚。東部太平洋を除き,世界中の暖海に広く分布する。南日本近海でもしばしば見られるが量は少ない。そのため地方名も少なく,鹿児島県でスキサキ,福岡県の志賀島でタラという程度である。体が細長く棒状であり,頭部背面が平たく,第1背びれのとげがたいへん小さいなど,外見がコバンザメによく似ているため,和歌山県阿尾でコバンザメノコバンノトレタイオと呼ぶとの記録もある。全長2m近くになる。体色は褐色の地色に2本の淡色縦帯があり,幼魚では鮮明であるが,成魚になるとしだいに一様な灰褐色になってくる。また興奮時にはこの模様は鮮明になる。魚食性であるが,ほかに頭足類や甲殻類なども食べる。幼魚は他の大型魚について泳ぐ習性がある。定置網などでまれに漁獲されるが,不味であり,とれても練製品の原料となる程度である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「スギ」の意味・わかりやすい解説

スギ(杉)
すぎ / 杉

倭木
Japanese cedar
[学] Cryptomeria japonica (L.f.) D.Don

スギ科(分子系統に基づく分類:ヒノキ科)の常緑大高木。日本の特産種で、中国には変種の柳杉C. japonica var. sinensis Sieb.(C. fortunei Hooibrenk)がある。日本では本種に通常「杉」の字をあてるが、中国語の「杉」は本種ではなく、同じくスギ科のコウヨウザン(別名オランダモミ)をさしている。日本のスギに該当する中国語は日本柳杉である。幹はまっすぐに伸び、巨大なものは高さ68メートル、径7メートルに達する。枝や葉は密につき、円錐(えんすい)形の樹形をつくり、老樹では円形となる。樹皮は赤褐色で、縦に割れ、細長い薄片となって、はげ落ちる。葉は小形の鎌状(かまじょう)針形で螺旋(らせん)状に配列し、永続性で枯死しても脱落することはない。葉の横断面は長い菱(ひし)形をなし、樹脂溝は1個で中央に近く、維管束の下側に位置する。四面に気孔がある。雌雄同株で3~4月、開花する。雄花は前年の小枝の先の葉腋(ようえき)に穂状に集まってつき、黄色で楕円(だえん)形、長さ5~8ミリメートル。雌花は前年の小枝の先に1個ずつ下向きにつき、緑色で球形をなし、長さ4.5~5ミリメートル。球果は木質で卵状球形、長さ2~3センチメートル。初め緑色であるが、その年の10月ころ成熟し、裂開して褐色となる。種鱗(しゅりん)と包鱗は下半部が合着し、包鱗の上端は三角状でやや反曲し、種鱗の上端は4~6個の牙歯(がし)状をなす。種子は種鱗の茎部に2~6個つき、倒披針(とうひしん)形で両側に狭い翼がある。子葉は2~3枚、まれに4枚。染色体数はn=11、2n=22。

 なお、スギの花粉は、アレルギー性鼻炎の原因であるとして、近年話題になっている。

[林 弥栄 2018年6月19日]

種類

スギは、樹皮の色や裂け方、樹形、枝の出る角度、葉の色・形・長さ・曲がり方などが、生育地によって変異が多い。日本のスギは生育地によってウラスギ(裏杉)とオモテスギ(表杉)とに分類される。ウラスギは日本海側いわゆる裏日本型のスギの総称で、オモテスギは太平洋側いわゆる表日本型のスギの総称である。ウラスギの代表種はアシオスギ(芦生杉(あしおすぎ))である。これはおもに日本海側の多雪地帯に自生する変種で、中井猛之進(なかいたけのしん)が京都府下の芦生の山中に自生するスギに命名したものである。樹皮は赤褐色で縦に長く裂け、繊維質で細長く剥離(はくり)する。枝葉は密生し、狭い円錐形の樹冠をなすが、成長の衰えたものはやや円形となる。葉は小形の鎌状針形をなし、開く角度が狭い。球果は付属片は短く、丸くみえる。下枝は枯れ上がらず、下垂して地をはい、のち新しい株を形成する。成長力が旺盛(おうせい)で、小枝から盛んに小枝を出し、切り株からも萌芽(ほうが)する。このアシオスギは芦生産のスギのみでなく、ウラスギ一般に共通する特徴をもっている。磨(みがき)丸太や庭木用として有名なキタヤマダイスギ(北山台杉)はアシオスギから選抜育種された林業品種である。

 オモテスギは太平洋側に自生し、また広く植林されている基本形のスギで、このなかで、屋久島(やくしま)に自生するスギは、針葉は長く、幅も広く、先が鋭くとがり、また材の木目が非常に複雑となる性質がある。これは一般にヤクスギ(屋久杉)と称しているが、屋久島では樹齢約1000年以上の大木のみをヤクスギ、それ以下の小さいものをコスギ(小杉)と称している。ヤクスギの代表的なものはジョウモンスギ(縄文杉)とダイオウスギ(大王杉)で、最近の精密な調査の結果、いずれも樹齢3000~3500年以上と推定された。7000年以上とする説もあるが、これは疑わしい。

[林 弥栄 2018年6月19日]

品種

スギは園芸用や林業用など利用目的によってそれぞれ特別な品種が数多くある。

 園芸用の品種は十数種あるが、おもなものは以下のとおりである。エンコウスギ(猿猴杉)は、枝は多数出て著しく伸長し、長い針葉と短い針葉を交互に生じ、そのようすがテナガザルの腕に似る。ヨレスギ(縒杉)は葉が湾曲してとがり、枝の周囲に螺旋状に密に巻き付き、ヤワラスギ(柔杉)は葉は細長くて柔らかい。ムレスギ(叢杉)は枝が根元から多数出て叢生(そうせい)し、イカリスギ(錨杉)は枝が長く、屈曲し、葉が小さくて短い。セッカスギ(石化杉)は枝が帯状になり、オウゴンスギ(黄金杉)は若葉が黄金(こがね)色を呈し、ミドリスギ(緑杉)は葉が冬でも緑色である。チャボスギ(矮鶏杉)は枝葉が短小で密生し、樹冠が半円形となる。マンキチスギ(万吉杉)は枝が密生し、葉が著しく剛強で開き、鋭くとがる。シダレスギ(枝垂杉)は枝が細長く、下垂する。フイリスギ(斑入杉)は矮性(わいせい)で、葉に黄白色の斑(ふ)が入る。

 林業用品種は、実生(みしょう)でつくられたものと、天然林からの挿木によってつくられたものとに大別される。実生によるものは各地方別に特定の品種があり、アシオスギやヤクスギのほか、アキタスギ(秋田杉)、シソウスギ(宍粟杉)、ホウライスギ(鳳来杉)、ヨシノスギ(吉野杉)、タテヤマスギ(立山杉)、ハクサンスギ(白山杉)、ヤナセスギ(魚梁瀬杉)などがある。挿木によるものとしては、イトシロスギ(石徹白杉)、エンドウスギ(遠藤杉)、オキノヤマスギ(沖ノ山杉)、クマスギ(熊杉)、ハチロウスギ(八郎杉)などがある。

 また林業品種のなかには、特定の利用目的に沿って造林されるものがあり、オビアカ(飫肥赤)、ホンジロ(本白)、サンブスギ(山武杉)、ホンスギ(本杉)、アヤスギ(綾杉)、アオスギ(青杉)、ヤブクグリ(藪潜)、ウラセバル(裏瀬原)、メアサトミスギ(芽浅富杉)、ボカスギ(暈杉)などがある。

[林 弥栄 2018年6月19日]

分布

スギは古い時代から植林されていたので厳密な意味での自生地は決めにくいが、日本における天然分布は、青森県西津軽郡矢倉山を北限地とし、本州から九州に広く分布し、九州の屋久島を南限地とする。とくに秋田県や高知県の魚梁瀬(やなせ)地方には純林状の天然林がある。屋久島には広大な天然林と樹齢3000年以上といわれる巨樹があるので有名である。スギの垂直分布は、本州では海抜0~2050メートル、四国では海抜300~1400メートル、九州では海抜300~1850メートルである。天然生育地の最低は和歌山県新宮(しんぐう)市浮島の海抜0メートルであり、天然生育地の最高は富山県猫又山(ねこまたやま)の海抜2050メートルである。現在、網走(あばしり)、留萌(るもい)両地方以南の北海道、本州、伊豆七島、四国、九州、沖縄、および朝鮮半島、中国大陸、台湾からヒマラヤ地方まで広く植栽され、日本を除くとヒマラヤ地方がもっとも生育がよいといわれる。そのほかヨーロッパ、ハワイ、北アメリカ、ニュージーランドなどの植物園などに植えられ、育っている。

[林 弥栄 2018年6月19日]

栽培

繁殖は実生と挿木によるが、畑から山に植える苗は、全国的にみて75%くらいが実生苗で、25%くらいが挿木苗である。植林の場合、一般には1ヘクタール当り3000本植えが標準とされているが、生産の目標などによって相違がある。最適地は年平均気温12~14℃、年降水量3000ミリメートル以上の谷あいで、土壌はやや湿気の多い肥沃(ひよく)な砂質壌土、または埴質(しょくしつ)壌土がよい。土壌形からみると、湿潤性褐色森林土でもっとも生育がよい。また陽樹(日当りでよく育つ)であるので、全光線の70~80%が当たるようにするのが最適である。雪害や風害に弱く大きな被害を被ることが多いので、幼時から除伐や間伐、また枝打ちを施すとともに林縁の保護を十分しなくてはならない。病害虫には、スギノハダニ、スギハムシ、スギメムシガ、スギタマバエ、スギザイノタマバエ、スギカミキリなどの害虫や、赤枯病、枝枯病、癌腫(がんしゅ)病、心腐(しんぐされ)病などの病気がある。

[林 弥栄 2018年6月19日]

利用

スギは日本における木材利用の75%を占めるほどで、日本におけるもっとも有用な樹種である。材は辺材と心材の境界が明らかで、辺材は白色、心材は淡紅色または暗赤褐色で、黒褐色を帯びるものもある。木目はよく通り、特有の香りがある。乾燥は速く、割裂性は大で、切削その他の加工は容易である。用途は非常に広く、建築、土木、電柱、船舶、機械、箱、桶(おけ)、樽(たる)、器具、下駄(げた)などに用いる。樹林としての利用も多く、庭園樹、並木、寺社林などに広く植えられている。

 スギはもっとも寿命の長い樹木で、大きいものは天然記念物に指定、保護されている。山形県東田川郡の「羽黒山(はぐろさん)のスギ並木」、栃木県日光市の「日光杉並木街道」、高知県長岡郡大豊(おおとよ)町八坂神社の「杉の大スギ」、岐阜県郡上(ぐじょう)市白鳥町石徹白(いとしろ)の「石徹白のスギ」、鹿児島県熊毛郡の「屋久島スギ原始林」などは著名で、特別天然記念物に指定されている。

[林 弥栄 2018年6月19日]

民俗

マツとともに日本の代表的な樹木であるスギは、建築用材として広く用いられるほか、古代から船材として利用されていた。工芸用材としての用途も広く、樽丸(たるまる)(酒樽の用材)に用いられる吉野杉はよく知られている。変わったものでは造酒屋(つくりざかや)のしるしとして、杉の葉を丸く集めたものを軒先に掲げる風習が各地にみられる。スギを神木とする例は全国を通じて多く、古来有名なものに京都市稲荷山(いなりやま)の「験(しるし)の杉」がある。稲荷山の杉の木を抜いて家に持ち帰り、それを植えて地に蘇生(そせい)すれば福を得、反対に枯れれば福がないという。奈良県桜井市の三輪山(みわやま)の杉は『万葉集』や『古今集』に歌われて有名だが、このほか三重県伊勢(いせ)市の豊受大神宮(とようけだいじんぐう)の五百枝(いおえ)の杉、福岡市香椎宮(かしいぐう)の綾杉(あやすぎ)、茨城県の鹿島神宮(かしまじんぐう)の神木杉なども知られている。

 スギについての伝説はいろいろあるが、武将が矢を射立てたスギの幹から古鏃(こやじり)が出てくるという「矢立杉」が各地にみられる。宮城県名取市のものは、藤原秀衡(ふじわらのひでひら)が上洛(じょうらく)のおり、門出を祝して路傍の古杉を射、前途を祝したといい、山梨県大月市の杉は、源頼朝(みなもとのよりとも)が富士の巻狩(まきがり)のときに放った矢が当たったものという。

 古来日本では、人の死後三十三回忌に「弔(とむら)い上げ」といって、それ以後仏は神になるという信仰があり、そのとき墓地に杉卒塔婆(そとば)または梢付塔婆(うれつきとうば)といって、スギの小枝を立てる風習がある。

[大藤時彦 2018年6月19日]

文学

神木として『万葉集』から詠まれ、三輪(みわ)神社の「味酒(うまさけ)を三輪の祝(はふり)がいはふ杉手触(てふ)れし罪か君に逢(あ)ひがたき」(巻4・丹波大女娘子(たにわのおおめおとめ))、石上布留(いそのかみふる)神社の「石上布留の神杉神(かむすぎかむ)びにし我(あれ)やさらさら恋に逢ひにける」(巻10・作者未詳)などとある。平安時代に入って、『古今集』の「我が庵(いほ)は三輪の山もと恋しくはとぶらひ来ませ杉立てる門」(雑下・よみ人しらず)がよく知られ、三輪明神の神婚説話と結び付いて明神の歌と伝承されるようになった。伏見(ふしみ)の稲荷(いなり)神社の杉も幸福をもたらすものとして有名で(『山城国風土記(やましろのくにふどき)』逸文)、『蜻蛉日記(かげろうにっき)』や『更級日記(さらしなにっき)』にも「しるしの杉」が現れる。板屋根にも用いられ、「杉板もて葺(ふ)ける板間のあはざらばいかにせむとて我寝そめけむ」(『拾遺集』恋2・柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ))のように、粗末な家の形容となった。

[小町谷照彦 2018年6月19日]



スギ(海水魚)
すぎ / 須義
cobia
sergeant fish
crab-eater
[学] Rachycentron canadum

硬骨魚綱スズキ目スギ科に属する海水魚。北海道南部以南の日本周辺海域、小笠原(おがさわら)諸島、東シナ海、朝鮮半島、台湾、遼寧(りょうねい)省や山東(さんとう)省など中国沿岸、ピョートル大帝湾など、東太平洋を除く、西太平洋、インド洋、大西洋に広く分布する。体は紡錘形で、頭の背面はほとんど平坦(へいたん)。吻(ふん)は長く、とがる。吻長は眼径のおよそ3倍。目は小さい。上顎(じょうがく)の後端は目の前縁下に達し、下顎は上顎より突出する。上下両顎、口蓋骨(こうがいこつ)および鋤骨(じょこつ)(頭蓋床の最前端にある骨)に幅広い絨毛(じゅうもう)状の歯帯がある。体は微小な円鱗(えんりん)で覆われる。背びれの前方には6~9本の著しく短くて太い遊離棘(きょく)と、それを収める溝がある。その後ろから軟条が尾びれの基底前近くまで続き、その前部軟条は長い。臀(しり)びれは体の中央部下から始まり、形は背びれに似る。胸びれと腹びれは小さく、腹びれ基底は胸びれ基部下端下方にある。尾びれの後縁は湾入するが、幼魚では丸い。体色は背部が暗褐色で、目の上縁から体の背側面を通って尾柄(びへい)に達する白色縦帯と、胸びれの基底から尾びれの基底の中央のすこし下方に達する白色縦帯がある。大きい個体では白い腹側面を除いて一様に暗褐色になる。沿岸から沖合いにかけて生息し、おもに甲殻類、小形魚類、イカ類などを食べる。定置網や底引網で漁獲されるが、まとまってはとれない。最大全長1.2メートルに達する。沖縄、台湾、東南アジア、パナマなどで養殖され、輸入されたものはコビアの名前で売られている。刺身、煮つけ、塩焼き、フライなどにすると美味である。

 幼魚期のスギは、吸着していないときのコバンザメ類のように船舶やマダラエイTaeniurops meyeniなどほかの大形の魚に寄り添って泳ぐ習性があることから、両種の近縁性が示唆されている。スギ科には本種しか知られていない。

[鈴木 清・尼岡邦夫 2023年11月17日]

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百科事典マイペディア 「スギ」の意味・わかりやすい解説

スギ(杉)【スギ】

スギ科の常緑高木。本州〜九州の山地に自生し,また重要な林木として,日本各地に広く造林され,生産量は最も多い。幹は直立し,枝葉が密生。葉は長さ4〜12mm,針状で少し曲がり,らせん状に並ぶ。雌雄同株。3〜4月開花。雄花は淡黄色で楕円形,枝端に群生する。雌花は緑色で球形をなし,小枝の先につく。果実は球形で木質となり,10月に褐色に熟す。日本産樹木のなかでは最長寿の種といわれ,屋久杉には2000〜4000年と推定されるものもある。材は柔軟できめがあらく建材,器具材,土木材,船舶材,酒樽(だる)など幅広く使われ,樹は庭園木,生垣にする。エンコウスギなど園芸品種も多い。なお,屋久島のスギ原始林,日光杉並木羽黒山杉並木などは特別天然記念物。風媒花で春,多量の花粉を飛ばし,近年はこれが花粉症を引きおこして問題となっている。
→関連項目ヒノキ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「スギ」の意味・わかりやすい解説

スギ(杉)
スギ
Cryptomeria japonica; Japanese cedar

スギ科の常緑高木で日本特産。本州北端から屋久島まで分布し,いたるところに植林され,また庭園,生垣,盆栽などによく用いられる。幹は直立し,大きなものでは直径 5m,高さ 50mに達する。樹皮は赤褐色で細長い薄片になってはげる。葉は枝に螺旋状になって密生し,1~2cmの針状でやや湾曲し,質が硬く先端はとがる。雌雄同株で,春に開花して秋には結実する。雄花序は淡黄色,長さ 5mmほどの楕円形で枝の先端に密に多数集ってつく。雌花序は球形で 6mm内外,やはり枝の先端につき,熟すると径2~3cmで褐色木質の球果となる。材は柔らかく細工がしやすいうえ直幹が得やすいため,日本では建築,船,橋,電柱,器具材,また樽,下駄などの細工物用に最も広く利用される。樹皮は屋根ふき用に,葉は線香や抹香の原料となる。秋田,伊豆天城山,天竜川流域,紀伊半島 (吉野,熊野) ,高知,宮崎 (飫肥) などが有名な産地で,年輪の幅や材質などに微妙な差があるといわれ,用材としては秋田杉,吉野杉,屋久杉などが区別される。

スギ
Rachycentron canadum; cobia

スズキ目スギ科の海水魚。全長 2m内外。体は延長した紡錘形。背鰭棘は著しく短くて相互に分離し,各棘間に皮膜はない。体色は背面が暗褐色,腹面は青みを帯びた白色。幼魚は体側の縦帯が鮮明で,尾鰭の先端が丸い。成魚も興奮すると黒色縦帯がよく現れる。若魚には他の大型魚にくっついて泳ぐ習性がある。アメリカ西岸を除く世界中の暖海に分布する。

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リフォーム用語集 「スギ」の解説

スギ

スギ科スギ属の常緑針葉樹。漢字では杉、英語では「Japanses cedar」と表記される。椙、秋田杉、吉野杉、屋久杉(薩摩杉、本屋久杉)、神代杉(茶神代、黒神代)、天竜杉、日田杉、飫肥杉、春日杉、土佐杉(魚梁瀬杉)、霧島杉など、様々な呼び名がある。かつてはマキとも呼ばれた。材の性質としては、木理は通直であり、肌目は粗い。堅さはやや柔らかいため摩耗耐久性は無いが、腐食耐久性はある。木目に沿って縦に割れやすい、耐水性がそれほどない、特有の匂いがある、脂気が少ない、といった特徴がある。材質は天然木であるか否かによってかなり違ってき、またそれぞれの成長過程や産地によって随分左右される。柾目から見て細かくて細い平行線がたくさん並んだような材は年輪が密であり、堅くて均一で良い材と評価され「糸柾」と呼ばれる。構造材から、家具、床柱まで、用途は様々である。

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世界大百科事典(旧版)内のスギの言及

【熊野杉】より

…和歌山県熊野川河口の新宮を輸送基地とする杉材の称であるが,主産地は上流の北山郷(現,奈良県吉野郡上北山村,下北山村)である。杉,ヒノキ天然林の蓄積豊かな北山地方の林業開発は,同地方が江戸幕府領となった近世初期に始まるが,その当時から幕府は北山郷14ヵ村に〈木年貢〉制を敷き,本年貢代りに収納する杉,ヒノキ材(長さ3間半の1尺2寸角木)のほか,材木前渡金に当たる〈拝借銀〉を融資し,併せて年800本を超える良材を上納させた。…

【吉野杉】より

…大和国(奈良県)吉野郡の吉野川上流地帯を主産地とする杉。奥地の川上郷に代表されるこの地方一帯は,杉の造林に好適な立地条件に恵まれていたため植林の歴史は古い。大和の三輪山,春日山に生育する神代杉の苗木を移植したのは文亀年間(1501‐04)と伝えられ,江戸時代中期には屋久島の杉種を移入して品種の改良を図ったとされている。そのころから吉野杉の声価は一段と高まり,現地でのすぐれた杉の植栽法は独特な運材技術とともに広範囲に普及した。…

※「スギ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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