改訂新版 世界大百科事典 「セマウル運動」の意味・わかりやすい解説
セマウル運動 (セマウルうんどう)
1970年代に韓国で始められた新しい村づくり運動。朝鮮語でセマウルsae-maulは〈新しい村〉を意味し,農民の意識の活性化による遊休労働力の動員から出発し,社会資本を充実させ,農村の近代化,農家所得の増大,農業生産力の拡大を図ることをねらいとする。1970年,朴正煕大統領の指示に基づき,〈自助・自立・協同〉のスローガンのもとに主に農民の自己負担により農閑期の生活環境改善事業が開始された。72年に運動の推進機構が全国的に整備されるとともに,スローガンも〈勤勉・自助・協同〉と変更され,朴政権の〈維新体制〉を支える重要な柱となった。セマウル運動の背景として,工業化の進展と対照的な農村の停滞,朝鮮民主主義人民共和国との農業部門での対抗関係,〈維新体制〉への農民の結集の必要などがあげられるが,最後の国民統合の側面は都市セマウル運動,工場セマウル運動という形で農村から都市へ波及した。セマウル運動の結果,農村には生産と消費の両面から商品経済が急速に浸透し,農民の階層分化が進んでいる。
執筆者:金子 文夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報