ドンブロフスキー(英語表記)Yurii Osipovich Dombrovskii

改訂新版 世界大百科事典 「ドンブロフスキー」の意味・わかりやすい解説

ドンブロフスキー
Yurii Osipovich Dombrovskii
生没年:1909-78

ソ連邦の作家。モスクワの弁護士の家の生れ。9歳のとき家族とともにサマラに移ったが,1920年に父が死亡,サマラ大学で生物学を講じていた母に養育された。22年一家とともにモスクワへ戻り,7年制の学校を卒業して,ブリューソフ記念文芸大学へ入学した。32年に政治的理由で逮捕され,アルマ・アタ(現アルマトゥイ)市に追放され,同地で図書館員,教師などを経て,カザフスタン中央博物館の館員になった。

 39年から執筆活動を始め,59年に《猿が自分の頭蓋骨を取りにくる》を,66年に《古代保存官》を刊行した。後者インテリゲンチャと革命,文化と政治といった重い主題を描いた長編で,ソ連内外できわめて高く評価された。このほか,シェークスピアを描いた《浅黒い貴婦人--シェークスピアに関する三つの物語》や,《古代保存官》の続編ともいうべき《無用な事柄学部》を発表したが,〈雪どけ〉の凍てつき以来,ソ連での評価は大きく後退した。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ドンブロフスキー」の意味・わかりやすい解説

ドンブロフスキー
どんぶろふすきー
Юрий Осипович Домбровский/Yuriy Osipovich Dombrovskiy
(1909―1978)

ソ連の小説家。ブリューソフ文学大学卒業。1932年に逮捕され、カザフ共和国(現カザフスタン共和国)のアルマ・アタ(アルマトイ)市に追放される。『帝国の転覆』(1938)、『デルジャービン』(1939)などの歴史小説で出発、長編『猿は自分の頭蓋骨(ずがいこつ)を取りにくる』(1959)では、ベルリンを舞台にナチス・ドイツの人種政策を糾弾した。スターリン批判後に発表された長編『古代保存官』(1965)は、中央アジアの考古学博物館を舞台に、スターリン粛清下の知識人たちの運命を政治と文化の永遠の相克の視点からきわめてユニークに描き出し、「古代」と対置される現代の状況の無気味さをえぐった。『浅黒いレディ・シェークスピアについての三つのノベラ』(1969)は、パロディー手法を用いて芸術家の内面を描いた佳編。遺作となった長編『無用物学部』(1978)は、『古代保存官』とほぼ同じ舞台を用いて、「スターリン生誕58年、キリスト生誕1937年」のソ連での人間的信頼の崩壊、モラルの混乱を前作よりもさらに鋭く追求した力作。ソ連では刊行を許されず、死後パリで発表された。

江川 卓]

『工藤幸雄訳『古代保存官』(『新しいソビエトの文学3』所収・1968・勁草書房)』

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