日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニューヨーク・サン」の意味・わかりやすい解説
ニューヨーク・サン
にゅーよーくさん
The New York Sun
アメリカの近代新聞の原型といわれる大衆向けの廉価新聞。ニューヨーク市の印刷業者だったベンジャミン・デイBenjamin H. Day(1810―1889)によって1833年に同市で創刊された。従来の新聞が1部6セントと高価だったのに対して、『ニューヨーク・サン』はわずかに1セント(俗称ペニー)、ここから「ペニー・ペーパー」と称されるようになった。低価格を可能にした秘密は、広告収入の拡大と大規模な読者層の確保にあった。それまでアメリカの新聞界で一般的だった収入とニュースを政党に依存する党派新聞としての経営をやめ、一般大衆向けに事件・事故、裁判、ゴシップ、娯楽等々の記事を載せて大部数を確保し、それによって広告媒体としての価値を高めていく手法が採用された。この経営システムが現代の新聞経営の源流となり、『ニューヨーク・サン』はその方式の創始者として名を残す。部数は創刊数か月後で1万部、3年後には1万9000部に達し、当時としては大部数を記録、この前後に誕生したいくつかのペニー・ペーパーのなかで初めて経営的に成功した。しかしその後の同紙の運命には有為転変がある。1868年にはチャールズ・デーナに、1916年にはフランク・アンドリュー・マンセイFrank Andrew Munsey(1854―1925)に、そして1950年にはスクリップス・ハワード・グループに買収され、1966年には他の新聞との併合により「サン」の文字が消えた(合併後の『ワールド・ジャーナル・トリビューン』は1967年廃刊)。しかし、2002年5月、ニューヨークで創刊された日刊紙は、その名を『ニューヨーク・サン』といい、由緒ある紙名がよみがえった。同紙は経営難から2008年に休刊となったが、2009年4月28日、ウェブ版でふたたび復活し、不定期で更新されている。
[橋本 直]