ハイテク・スタートアップ(読み)はいてくすたーとあっぷ(英語表記)high tech start-ups

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ハイテク・スタートアップ
はいてくすたーとあっぷ
high tech start-ups

最先端の科学技術の成果を事業化することを目ざして設立された企業。アメリカ合衆国において、おもにビジネス、経済分野で使用される用語。new technology based firmsまたはhigh-growth tech companiesともいう。

 1960年代の終わりから1970年代にかけて、ボストン近郊の国道128号線(Route128)周辺に叢生(そうせい)したエレクトロニクス関連の新規創業企業や、シリコンバレー地域のコンピュータ関連の新規創業企業をさすことばとして使われるようになった。1990年代ころから、ハイテクスタートアップによる雇用創出や経済波及効果が評価され、再度注目を集めるようになった。おもに、医療、バイオテクノロジーIT(情報技術)、AI人工知能)、ロボット宇宙などの分野で、大学や研究機関等の研究成果に基づき、革新的な製品やサービスを創出し、それらを用いた事業を行う企業の創設が活発化している。著名な事例としては、IT分野では高度な情報検索技術をもとに起業したグーグルGoogle、バイオテクノロジー分野では遺伝子組換え技術や分子生物学的技術を使って医薬品や治療方法を開発しているアムジェンAmgen Inc.があげられる。

 2000年代に入り、ハイテク・スタートアップの創出はアメリカ合衆国だけではなく、ヨーロッパやアジアでも盛んになっている。とくに中国では、AIやドローン関連等のハイテク・スタートアップが急増している。インドにおいても、ITを活用した新サービス関連のハイテク・スタートアップが叢生し、世界中の投資家から注目されている。

 ハイテク・スタートアップの創業当初は、当該技術を開発した研究者が経営にあたることが多いが、製品化や事業化のめどがついた時点で、技術と経営のわかる専門経営者が経営を引き継ぐことが多い。また、研究開発から事業化までの期間が長いことや、事業化リスクがあるため、必要な資金融資ではなく出資で調達することが多い。大手企業が製品開発期間の短縮やリスク軽減のため、ハイテク・スタートアップを技術ごと買収する事例もみられる。とくに、創薬の分野は製品化まで10年以上、資金は100億円以上かかるといわれており、ハイテク・スタートアップが独自に製品化まで行うことは困難であるため、大手製薬メーカーによる買収が頻繁に行われている。ほかの分野においても、このようなハイテク・スタートアップを買収するオープン・イノベーションの動きがみられる。

[鹿住倫世 2022年12月12日]

『ジョン・L・ネシャイム著、エスゼインベスターズ訳『ITビジネス起業バイブル――シリコンバレー・勝者のセオリー』(2000・ハルアンドアーク)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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