ピロン(古代ギリシア哲学者)(読み)ぴろん(英語表記)Pyrrhōn

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ピロン(古代ギリシア哲学者)
ぴろん
Pyrrhōn
(前360ころ―前270ころ)

エリス出身の古代ギリシア懐疑派の創始者。ピュロンともいう。彼の思想によってピロニズム(ピュロニズム)という懐疑論呼称が生まれた。当時の哲学者、学派の見解対立、およびアレクサンドロス大王死後の政治的・社会的混乱、新しい習慣と法律の登場がその背景にあった。(1)ものの本性は何か、(2)われわれの態度はどうあるべきか、(3)その結果は何であるか、の問いをたてた。相互に矛盾する感覚経験があるとおり、われわれはものの本性それ自体を知るのでなく、その現れを受容するだけである。そこで、ものについての判断を中止すべきであり、そこから何事が起こっても心の平静を保ち、なにものにも心を煩わされないことが帰結する。ピロンはこの平常不動心を知恵とよび、そこに人生最終目標としての幸福を据えた。そして自分の哲学に従って静かで穏健禁欲的な生涯を過ごした。弟子ティモンによって懐疑主義の生きたモデルとして描かれた。したがって彼の懐疑論は、後のアカデメイア懐疑派のように理論的・弁証論的でなく、本質的に生き方、人生態度であった。

山本 巍 2015年1月20日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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