日本大百科全書(ニッポニカ) 「プリチェット」の意味・わかりやすい解説
プリチェット
ぷりちぇっと
Sir Victor Sawdon Pritchett
(1900―1997)
イギリスの短編小説家、文学批評家。外交販売員の子として生まれ、ロンドン郊外で育つ。ダリッジ・カレッジを出て16歳から店員、販売員として働き、やがて『クリスチャン・サイエンス・モニター』の通信員となり、アイルランド、スペインに行き、その経験をもとに『スペインを行く』(1928)を処女出版。1920年より20年間『ニュー・ステーツマン』誌に寄稿し、同誌の看板批評家となる。小説として、南米の奥地探検者の物語『死者にひかれて』(1937)や、敬愛するディケンズの作品中の楽天家ミコーバー的な人物を中心に、ロンドン郊外の下層中産階級の生活を描いた『ミスター・ベランクル』(1951)が代表作。一方、短編小説では、庶民の日常的な生活から特異な印象的事象を浮かび上がらせる冴(さ)えた筆と、コミカルな味を特徴とし、短編の名手とされる。小説批評はイギリス、ロシア、フランスなど古今東西に及び、『生きている小説』(新版1966)、『活躍中の作家』(1965)、『伝記バルザック』(1973)など、鋭い鑑賞眼に基づく柔軟な批評で名高い。
[佐野 晃]
『加納秀夫訳『プリチェット短編集』(1990・研究社出版)』