マリードフランス(その他表記)Marie de France

改訂新版 世界大百科事典 「マリードフランス」の意味・わかりやすい解説

マリー・ド・フランス
Marie de France

12世紀後半に活躍した中世フランスの女流詩人。生没年不詳。名前が示すようにイル・ド・フランス地方の出身。イギリスに住みその宮廷の保護を受けたと推定されているが,生涯についてはほとんど知られていない。最初の,最も重要な作品はブルトン人の間に伝わる口承詩に取材したといわれる短編物語詩《レー》12編(1170ころ)である。8音綴詩句118行のごく短い物語から長いものでも1184行を超えない伝奇物語集。多くは宿命的情熱恋愛の様相を帯びた男女の結びつきを,超自然的道具立て(魔法の舟・城,秘薬,妖精,狼人間,白鹿,他界など)と民話的・妖精物語的雰囲気の中で描く。愛は別離の後幸福な再会で終わったり,不幸な死の結末を迎えるが,とくに作者は人間存在の不気味さ,愛の苦悩,不安,喜びを好んで描く。短い物語のため心理を深く掘り下げることはなく,人物の多くは平板であるが,枝葉描写に走らずすべて本筋のみを追う簡潔でテンポの早い文体はみごとに場面や人物を造形する。背景は宮廷,騎士社会であるが,流行の遊戯的宮廷風恋愛ではなく,より自然でひたむきな愛を描いている。これによって作者は13,14世紀の短編物語隆盛の出発点となる。ほか古英語寓話集フランス語訳(1189以前)し,独自の寓意を付加して風刺の才を示し,ソールズベリーのヘンリーによるラテン語本文からケルト伝承の聖人伝《聖パトリスの煉獄》(1189以後)をフランス語訳している。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のマリードフランスの言及

【寓話】より

…イソップ寓話はギリシア時代から修辞学の教材となり,ラテン語訳,翻案,模倣作品等が加わって,多様な形で継承されることになる イソップ以後では,1世紀のファイドロス,アウィアヌスのラテン語寓話が知られている。ヨーロッパ各国語のものにはフランス中世の《イゾペ(小イソップ)集》があり,なかでも12世紀マリー・ド・フランスの103編が注目に値する。寓話の教訓は伝統的に処世の知恵を説く現世的なものだが,中世の教会で説教に引用されることも多く,教科書としての役割とあいまって広く親しまれた。…

※「マリードフランス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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