改訂新版 世界大百科事典 「マーキュリー計画」の意味・わかりやすい解説
マーキュリー計画 (マーキュリーけいかく)
アメリカの最初の有人宇宙飛行計画。人工衛星による人間の軌道飛行を行い回収すること,新しい環境下での人間の能力を知ることを公式の目的として,人間が宇宙空間で生きられるかというもっとも基本的で深刻な問題を明らかにしなければならなかった。すなわち人間がロケットの打上げで加わる加速度とその後宇宙で受ける無重量状態,宇宙放射線の影響,孤独な環境下での精神状態など,当時はすべて未知のことで,この計画において初めて経験されるべきことであった。この研究はNASA(ナサ)の発足以前のアメリカの宇宙計画の揺籃(ようらん)期に始められたが,計画名としてマーキュリーMercuryの名前がつけられたのはNASA設立後の1958年末になってからである。飛行計画は,まず有人衛星カプセルで高度約180kmまで上がって落下する弾道飛行を実施し,その後人工衛星軌道で地球を回るという二つの段階に分けて行われた。この計画のために最初7人の宇宙飛行士が選ばれたことにちなんで,各有人飛行計画には〈7〉の字がつけられた。有人飛行の1回目フリーダム7(マーキュリー3)は61年5月5日に飛行,62年2月20日の3回目の有人飛行,J.グレンの乗ったフレンドシップ7(マーキュリー6)がアメリカ初の軌道飛行である。この計画は,63年5月15日の4回目の有人軌道飛行であるフェイス7によって34時間の飛行をしたのを最後に,ジェミニ計画へと引き継がれた。
執筆者:長友 信人
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報