〈ようらん〉とも呼ぶ。古くは麻袋を天井から吊り下げて,その中に幼児を寝かせる形式のものがみられた。麻袋の代りに籠,あるいは尻の部分に穴をあけた板なども用いられた。しかし一般には木製の箱形や籠形のものが多く,中世には今日みられる二つの基本タイプが現れている。一つは架脚式の台座で支持された2本の柱の間に箱(または籠)形の揺籃を吊るす形式であり,他の一つは安楽椅子の脚部にあるような揺り子(ロッカー)を揺籃の脚につけた形式である。後者の場合は,揺籃の縦軸を中心にして左右に揺れるものと,横軸を中心にして前後に揺れるものが,それぞれ地域的な偏りをもって分布していることが知られている。この揺り子形式のものは,とくにルネサンス期から流行するようになり,頭部にアーチ形などのフードをつけるようになった。
揺籃の装飾は時代とともに豪華さを増し,ことにナポレオン1世の息子のための揺籃は,全面に金めっきがほどこされ,アンピール様式で統一されている。18世紀のフランスやドイツの地方地主が用いた揺籃は,素朴な彫刻や草花の絵模様で飾られ,独特な個性美をあらわしている。幼児は悪魔などの魔法にかかりやすいと考えられていたため,揺籃には魔よけの象徴である星形や十字架などを彫りこんだり,描いたりしたものも多くみられた。しかし,20世紀になると機能的なベビー・ベッドの出現によって,揺籃の使用は急速に衰勢に向かった。
執筆者:鍵和田 務+藤島 高志 日本の農村では保育用具として,多くつぐら(ツグラ)とかエジコ,イヅミとよばれるわら製のかごが用いられた。埼玉県では竹製のユリカゴやテゴを用いる。仙台地方ではエジコに紐をつけて梁から吊るしゆする。吐噶喇列島では木製の四角な浅い箱をイサといい,四隅に紐をつけて天井から吊るして中に幼児を入れ,泣くと遠くから紐をひいて揺すり寝かしつけた。イサに入れておくとネズミにかまれないという。また6日めの名付けの日に,名付親がイサを揺すりながら大きな声で,生児の名前を告げたという。揺することによって幼児の魂を落ち着かせることができると考えられたのである。おんぶは日本の子育ての伝統的な方法の一つであるが,赤ん坊がはいはじめツグラに入れておかれぬようになると子守をつけておぶわせる。子守をつけるのは4~5歳ころまでとするのがふつうで,負うには負い紐やねんねこばんてんを用いる。埼玉・新潟県地方で昔はハダッコに負うといって,きものと肌の間にじかに子を負う風があった。沖縄県与那国島ではクミャーといって白天竺で作った単衣に子を入れて負う。
執筆者:大藤 ゆき
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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