敵を攻撃したり、防御するのに使う器材の総称。狭義には加害力をもつ器材をさし、広義には各種の電子戦兵器やC4I(Command, Control, Communication, Computer and intelligence=指揮・管制・通信・コンピュータおよび情報)システムなど、直接の加害力をもたない器材も含む。前者を武器とよぶこともあるが後者は武器とはよばない。現代の兵器は核エネルギーなど、あらゆる物理、化学の成果を導入して破壊力、殺傷力を高めて一連の攻撃・防御システムを形成し、精密化、高速化しているだけでなく、地形照合誘導装置をもつ巡航ミサイルのトマホークにみられるように、コンピュータの応用による自動化やロボット化が進み、いまではコンピュータやセンサーが兵器、航空機、艦船のコストのほぼ半分を占め、情報処理能力が兵器体系の能力を支配するようになった。
[高榎 堯]
現代の兵器は応用する物理・化学現象やエネルギーの種類や使用目的によってさまざまに分類することができるが、もっとも一般的な分類としては、大量破壊兵器と通常兵器(非核兵器)がある。
(1)大量破壊兵器 破壊力がとくに強大で使用の影響が大きく、核兵器、放射能(放射線)兵器、化学兵器、生物(細菌)毒素兵器があり、これらは長距離弾道ミサイルなどで運搬されることが多い。核兵器としては各種の原水爆や核弾頭、放射能兵器としては中性子爆弾(放射線強化爆弾)や大量に死の灰を発生する冷戦初期の「汚い水爆」や構想にとどまったコバルト爆弾、化学兵器としては古くからの窒息性、びらん性のガスやサリン、VXなどの神経ガスがある。化学兵器は1972年4月の生物毒素兵器禁止条約に続いて、93年1月の化学兵器禁止条約で開発、生産、貯蔵、使用を禁止し、10年以内に廃棄することが決まった。
(2)通常兵器 空では各種の攻撃機、爆撃機、偵察機、空中早期警戒管制機(AWACS(エーワックス))や各種の防空ミサイルシステム、海では原子動力そのほかの航空母艦や潜水艦、ミサイル搭載の巡洋艦、駆逐艦、フリゲート艦、各種の対艦ミサイル攻撃に対応するイージス艦、陸では戦車、装甲戦闘車両、多連装ロケットシステム、対戦車誘導兵器、攻撃ヘリコプターなど、種類が多い。その多くがC4Iのもとで一個の複雑なシステムとして運用され、直接の攻撃・防御には各種のミサイルシステムが使われる。
現代の兵器体系は複雑で、すっきりと分類することは不可能だが、光学兵器としては赤外線などによる各種のホーミング(追尾)・ミサイルやレーザー誘導、テレビ誘導の爆弾やミサイルがある。ベトナム戦争のときに登場したレーザー誘導爆弾(これは利口な爆弾という意味で「スマート兵器」などとよばれる)は命中精度が高く、その後のこうした精密誘導兵器(PGM=Precision Guided Munitions)の著しい発達を促した。電波兵器・電子兵器としては各種のレーダーや対電子戦機器(ECM)がある。電気兵器・磁気兵器としては対潜磁気探知器や磁気機雷があり、音響兵器としては対潜ソナーがある。1980年代にアメリカで構想されたSDI(戦略防衛構想)用のX線レーザー砲や、物理学研究に使うような粒子加速器で粒子を加速してミサイルを迎撃する粒子ビーム兵器(これらは一括して指向性エネルギー兵器とよばれる)は、実現の可能性は別として、物理兵器といえそうである。91年の湾岸戦争で戦車などの装甲貫徹用に初めて大量に使われた劣化ウラン弾もある意味では物理兵器に含めうる。環境破壊兵器としてはベトナム戦争で大量に使われた枯れ葉剤などがあげられるが、1977年5月の環境破壊兵器禁止条約で使用が禁止された。光学兵器については95年10月に相手の兵士を攻撃して恒久的に失明させる目的のレーザー兵器(銃)が、ある種の集束爆弾や地雷、ブービートラップ(仕掛け爆弾)、焼夷(しょうい)兵器に続いて特定通常兵器使用禁止条約第4議定書に取り上げられて、使用が禁止されることになった。
(3)兵器はまた使用目的によって戦略兵器、戦域兵器、戦術兵器、対空兵器、対潜兵器などに、また使用場所によって陸戦兵器、海戦兵器、航空兵器、水中兵器、海底兵器、宇宙兵器などに分けることができる。
戦略兵器は攻撃や抑止の目的で相手の国全体を荒廃させる能力をもつ兵器で、長射程の核ICBM(大陸間弾道ミサイル)やSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)、戦略爆撃機などからなる。戦域兵器はたとえばヨーロッパなど一定の地域内での戦闘を想定した兵器で、冷戦中に各種の中距離弾道ミサイル(IRBM)が開発され、配備されたが、米ソは1987年の中距離核戦力(INF)全廃条約で、それらのミサイルを廃棄した。戦術兵器は戦場で使用される兵器で、「通常兵器」の項で述べたようなさまざまなものがあり、冷戦期の初期にはその多くは小型の核弾頭が装備され、原子砲もつくられたが、その使用が全面的な核戦争にエスカレートする可能性があり、ほとんど撤去された。巡航ミサイルのトマホークは核弾頭を装備して戦略・戦域兵器に、また通常弾頭を装備して戦術兵器として使われる。対空兵器としては空中早期警戒管制機(AWACS)や各種の対空ミサイル(SAM)、対空火砲があり、弾道ミサイル防衛兵器としては日米が研究開発中のBMD(弾道ミサイル防衛)システムなどがある。BMDは弾道ミサイルの飛行経路である「ブースト段階」「ミッドコース段階」「ターミナル段階」の3部門に分かれており、各段階に適した迎撃システムが研究開発されている。対潜兵器としては各種の電子機器を満載した対潜哨戒(しょうかい)機や対潜ソナー、対潜ロケット、爆雷などがある。海底兵器は現実にはまだ実在せず、1971年2月の海底軍事利用禁止条約で海底に核兵器そのほかの大量破壊兵器を敷設することが禁止された。
宇宙兵器は宇宙空間で使用される兵器で1950年代末から各種の写真偵察衛星や電子偵察衛星(スパイ衛星)、軍事通信衛星、潜水艦などに位置を知らせるGPS(全地球測位システム)、相手のミサイルからの赤外線をとらえてその発射を早期に探知する早期警戒衛星などが打ち上げられ、なかでも写真偵察衛星は地上の物体の解像力が数十センチメートルといわれ、世界的な軍事情報の収集に革命をもたらした。80年代にはそれらの脆弱(ぜいじゃく)な軍事衛星を攻撃する兵器として、対衛星攻撃兵器(ASAT(エーサット))がテストされ、米ソの核戦略体系を不安定にさせ、核戦争の危険を高めることが懸念された。代表的な宇宙兵器体系であるSDI(戦略防衛構想)は冷戦の終結や技術的困難で棚上げの形になったが、1972年に米ソの大気圏外で相手を迎撃するABM(弾道弾迎撃ミサイル)の配備を制限するABM制限条約を締結したことは、宇宙空間での軍備競争のエスカレーションを防ぐものとして、いまでも重要な意味をもっている。
[高榎 堯]
冷戦期には核兵器の陰に隠れてあまり目だたなかったが、通常兵器もその間に破壊力や殺傷力を限りなく高め、はるかに広く拡散し、数限りない戦争で国際法に違反するような方法で実際に使われて、多くの犠牲者を出してきた。その例の一つが1960年代のベトナム戦争で、この戦争では各種の攻撃ヘリコプターや高速ライフルをはじめ殺傷力の高い集束爆弾や気化爆弾、レーザー誘導爆弾、対人地雷、各種のセンサー、C3Iシステムがテストされ、実用化された。レーザー誘導爆弾は航空機上からレーザービームで目標を照射し、その反射光をとらえて目標に正確に落下する。爆弾やミサイルにテレビカメラを装備し、機上でこのイメージを見て目標に正確に誘導して着弾誤差を事実上ゼロにして、破壊力や殺傷力を高めるシステムもある。巡航ミサイルのトマホークは、最初は慣性誘導装置で飛行し、のちに低空をジグザグに飛行して相手のレーダーをかわし、TERCOM(ターカム)とよぶ地形照合誘導装置のカメラで地形を走査し、そのコンピュータ像を記憶している像と照合して飛行コースを修正し、最終的にはホーミング・レーダーを使って目標に突入するが、着弾誤差は30メートル以内といわれている。
現代の高度にハイテク化した戦争では自動化、ロボット化されたそれらの高性能の兵器が各種の軍事的要請に応じてさまざまに組み合わされて一つの攻撃システムを構成し、全体を指揮するC4Iシステムのもとでほとんど自動的に使用され、このプロセスにはたとえば各種のセンサーでの情報収集による敵の位置の確認や識別、コンピュータを使っての意思決定、それに基づく各種の誘導兵器の投入、効果の評価の各段階が含まれる。こうした戦争のやり方は1991年の湾岸戦争で多国籍軍によって大規模に実証された。また、この戦争では敵のレーダーなどに探知されないようにするステルス技術をもったF‐117ステルス戦闘機も投入された。ステルス性が考慮されている軍用機としては、ほかにB‐2ステルス爆撃機がある。
[高榎 堯]
大量破壊兵器だけでなく通常兵器の規制についても、特定通常兵器使用禁止条約(1980年調印)のころから少しずつ話し合いが行われるようになり、ヨーロッパではヨーロッパ安全保障協力会議(CSCE)のプロセスに関連して、90年秋にNATO(ナトー)(北大西洋条約機構)とワルシャワ条約機構加盟国がヨーロッパ通常戦力(CFE)条約に調印し、その後の交渉で戦車、装甲戦闘車、火砲、戦闘用航空機、攻撃ヘリコプターについて、各国が配備できる上限を決めた。この条約は通常兵器についても、過剰な攻撃力が逆に双方の安全を損なうので、むしろ防御的な兵器を重視すべきだという考え方に基づいている。
他方では冷戦後も米ロなど工業国からの大規模な武器輸出が続き、第三世界の国々の軍備競争を促進し、開発途上国に安価な小火器や地雷があふれて紛争をあおっている。おもな通常兵器の輸出額は1990年代に入っても、知られているだけで毎年200億米ドルを超えている。92年には日本やEC(ヨーロッパ共同体)の提案で通常兵器移転登録制度が発足し、戦車、装甲戦闘車、大口径火砲、戦闘用航空機、攻撃ヘリコプター、軍艦、ミサイルの移転が国連に登録されることになったが、登録はまだ各国の自主性にまかされたままである。
[高榎 堯]
特定通常兵器使用禁止条約の第2議定書(いわゆる地雷議定書)で地雷の使用が禁止されたにもかかわらず、冷戦後第三世界で国内紛争が増えたこともあって、国際連合の推定では1997年現在、カンボジア、アンゴラ、ソマリア、アフガニスタンなど、世界の60以上の国に1億1000万個もの輸入地雷が敷設されたままになり、紛争が終わってからも毎年2万人以上の人々を死傷させ(その半分が好奇心の強い子供)、農耕を妨げ、開発を遅らせている。その多くが人間に障害を負わせるための対人地雷で、対人地雷は簡単でハイテク兵器とはいえないが、種類が多く、なかには強い衝撃には反応しないで人間が踏んだようなときにだけ爆発するなど、さまざまな工夫がこらされているものもある。1990年代のなかばでは、35か国が地雷を輸出していることがわかっており、97年12月、人道的見地から対人地雷の使用、貯蔵、生産、輸入を禁止し、条約の発効から10年以内に埋設地雷を除去するという対人地雷全面禁止条約が結ばれた。だがアメリカなど大国はいろいろな理由で調印を拒み、また金属部分の少ない小型のプラスチック製の対人地雷などはとくに探知がむずかしく、除去はいまのところ人海戦術に頼るほかはなく、1個3米ドルの地雷を除去するのに1000米ドルもかかることがある。97年現在、毎年10万個ほどが除去されているが、このペースのままだと新たに地雷が敷設されなくても、対人地雷を完全に除去するのに1000年以上もかかる計算になり、除去や増える一方の犠牲者に対する国際的支援が必要になっている。
[高榎 堯]
『アルバ・ミュルダール著、豊田利幸、高榎堯訳『正気への道』(1978・岩波書店)』▽『ストックホルム国際平和研究所編、服部学訳『核時代の軍備と軍縮』(1979・時事通信社)』▽『斎藤直樹著『戦略兵器削減交渉――冷戦の終焉と新たな戦略関係の構築』(1994・慶応通信)』▽『江畑謙介著『使える兵器 使えない兵器』上下(1997・並木書房)』▽『江畑謙介著『兵器の常識・非常識』上下(1998・並木書房)』▽『三野正洋・深川孝行著『現代兵器事典』(1998・朝日ソノラマ)』▽『木俣滋郎著『大図解 空中戦兵器発達史――第一次世界大戦から湾岸戦争まで』(1998・グリーンアロー出版社)』▽『納家政嗣・梅本哲也編『大量破壊兵器不拡散の国際政治学』(2000・有信堂高文社)』▽『坂本明著『大図解 世界のミサイル・ロケット兵器』(2001・グリーンアロー出版社)』▽『村上和巳著『化学兵器の全貌――再燃する大量破壊兵器の脅威』(2004・アリアドネ企画、三修社発売)』▽『黒沢満編『大量破壊兵器の軍縮論』(2004・信山社出版、大学図書発売)』▽『小都元著『核兵器事典』(2005・新紀元社)』▽『高榎堯著『現代の核兵器』(岩波新書)』▽『Strategic Weapons(1995, Janes Information Group)』▽『Stokholm International Peace Research Institute:Sipri Yearbook 1998 Armaments, Disarmament and International Security(1998, Oxford University Press)』▽『Paul Jackson:Jane's All the World's Aircraft 1998-99(1998, Janes Information Group)』▽『Richard Sharpe:Jane's Fighting Ships 1998-99(1998, Jane's Information Group)』▽『Non-Lethal Weapons(1999, Janes Information Group)』▽『Terry Gander:Jane's Infantry Weapons 1999-2000(1999, Janes Information Group)』
狭義には戦闘で敵の人員や物,施設などを殺傷破壊する機械,器具,装置等の総称。広義にはこのほか,戦力を直接戦闘のため移動し,防護し,運用統制するものを含む。自衛隊では狭義のそれのみを武器と称し,兵器の語は使っていない。
刀や銃剣等の白兵,銃・砲等の発射火器のほか,地雷,焼夷,化学,生物,放射線等の兵器に区分されるが,広義ではさらに移動用として輸送用車両・航空機・艦艇・交通器材等,防護用として鉄帽・防弾衣や各種防毒資材等,運用統制用として通信連絡・情報収集・射撃統制・電子戦等の器材に区分される。また戦争目的達成の分担により戦略兵器,戦術兵器に分けることもあるが,交戦国の境遇によりこの兵器の規模は異なる。なお,核反応を爆発物に使用する兵器をとくに核兵器と呼ぶことが多い。さらに軍用機,戦車等のような直接戦闘に参加するほか移動,防護,運用統制など各種の要素を複合してもつ兵器は,通常,独立した兵器体系weapon systemとして分類される。築城(防御用の構築物)建設器材等も広義の兵器であるが,その構築物は兵器とはいわない。
発射火器は,人が携帯して使用する小火器と火砲とに区分され,小火器の中で拳銃,短機関銃や手榴弾等は白兵とともに近接戦闘兵器ともいう。火砲には砲身砲,ロケットと,両者の中間的な無反動砲等があり,ロケットのうち,目標に対し外部またはみずからの誘導により飛行を規正追跡するものを誘導ミサイル(通常,単にミサイルと呼ぶ),無誘導のものをロケット砲と呼ぶ。しかしこれらの兵器の境界は厳密なものではなく,たとえば自走砲と戦車の区分は必ずしも明確でなく,砲身砲の弾丸にロケット噴射を併用したり誘導装置をつけて命中を確実にする等のことがすでに実用化されている。
射撃管制装置としては,暗視装置,レーザー測距機,無人観測機,自動射撃指揮装置,対砲(迫)レーダー装置等が現在実用化されている。本項では,以下で近代以降の主として陸上戦闘における兵器の発展と,戦略・戦術の変化について述べる。これ以前については〈武器〉の項を,近代以降についても,核兵器,ミサイル,軍用機,軍艦については,それぞれの項を参照されたい。また,核兵器体系の変化については〈核戦略〉の項を参照されたい。
兵器はその進歩につれ戦略・戦術を変化させ,勝敗を左右し,ときには軍の主兵を交代させてきた。前装施条銃とミニエー銃弾が1840年ころより実用化されたとき,いち早くこれを採用したフランス軍歩兵はクリミア戦争(1854-55)で滑腔銃砲のロシア軍を圧倒し,また日本でも早く前装施条銃を採用した長州藩兵は,火縄銃・甲冑(かつちゆう)の幕府側諸藩兵を潰走させ(1866),明治維新の主導藩の地位を確保した。普仏戦争(1870)では優秀な小銃を装備したフランス軍が局地の歩兵戦闘では有利だったが,新式の施条砲を採用したプロイセン軍がその砲兵をもって,小銃の射程外でフランス軍歩兵を撃破したのがフランス軍敗北の有力な一因となった。
防者は甲冑に代わる防護力として野戦でも胸墻(きようしよう)(胸の高さに積んだ土堤),後には塹壕(ざんごう)陣地を構築するようになった。日露戦争(1904-05)では,鉄条網をめぐらし掩蓋(えんがい)機関銃を配置した塹壕陣地を攻撃した日本軍は,その野・山砲では陣地を破壊できず,多くの死傷者を出した銃剣突撃でも攻略は困難だった。しかもロシア軍砲兵は戦争途中からそれまでの暴露陣地・直接照準射撃をやめ,遮蔽陣地・間接照準射撃に変わった。この射法は命中率を低下させたが砲列陣地の安全性を大いに高めたので,日本軍は終始敵の砲撃にさらされ砲弾破片による損害が多発した。このため遼陽や奉天の陣地攻撃正面の日本軍は,築城と火力の壁をほとんど突破できなかった。
日露戦争の状況を見たドイツ軍は破壊力強化の必要を認め,10cm榴弾砲を加え15cm榴弾砲を強化し,重機関銃を重視し野戦築城に努力を惜しまなかった。フランス軍は依然として小銃歩兵の優越を信じ,攻勢万能・銃剣突撃重視の下に,移動力を重視し破壊力は野砲で十分とし,軽機関銃を好み野戦築城を嫌った。この結果,第1次大戦(1914-18)の国境会戦は再びフランス軍の惨敗となった。マルヌの反撃成功後の陣地戦では,日露戦争当時同様,相互に築城と火力の壁をめぐり,攻者の砲兵強化による破壊の努力と防者の築城強化の努力の競争になったが,勝負がつかず消耗戦に陥った。そして最後にドイツ軍は砲兵による毒ガス弾の大地域集中使用に,連合軍は戦車の多数大規模使用にそれぞれ打開の希望をかけたが,ドイツ軍はガス弾の補給不足,連合軍は戦車の機動性能の不十分のため,ともに突破に結びつかなかった。
第1次大戦後,ドイツ軍は〈主兵は戦車〉とし突破も戦果拡張も戦車で行うとの方針で,機動戦を想定して軍を再編した。フランス軍は〈主兵は歩兵・戦車は支援〉という大戦末期の方針を継続し,マジノ線を頼り陣地戦を想定して軍を編成し,イギリス軍,ソ連軍もほぼフランス軍同様の考え方だった。
第2次大戦の独仏会戦(1940)では,歩兵中心で動きが遅く対戦車砲が弱体だったフランス軍は,ドイツ軍の戦車とこれを支援する急降下爆撃機に完全にかきまわされ,三たび惨敗した。独ソ戦(1941-45)も当初はドイツ軍戦車の独壇場だったが,ソ連軍はモスクワ前面に76ミリ新式野砲を集中し対戦車砲として使用,ドイツ軍戦車の突進を食い止めた。その後は有力な対戦車砲を中心に自走砲,戦車を増強した対戦車地区を連ねたソ連軍歩兵陣地を,砲兵力の少ないドイツ軍戦車は容易に突破できなくなり,スターリングラード攻防戦とクルスク戦車戦で敗退した。その後は大量の砲兵支援射撃の下に,戦車と同行した歩兵の第一線陣地の攻略とそれに続く戦車の投入というソ連軍の戦車主体の反撃が戦勢を支配したが,これも一挙突破に結びつかず,消耗は大きかった。なお,独ソ戦のときから野戦ロケット砲と対戦車榴弾砲,そして連合軍はまもなくバズーカ(対戦車ロケット砲)を使用しはじめた。西部戦線での連合軍の攻撃要領もソ連軍のそれとほぼ同じだったが,敵陣地破壊のため砲兵に代り大型爆撃機を集中使用し,数千tのじゅうたん爆撃を行って成功し,対戦車戦闘にも航空機を多数使用した。
日本軍は〈歩兵主兵,戦車は支援〉とし,攻勢第一・銃剣突撃優先の方針で,近代戦に応ずる兵器整備に熱意を示さなかった。そのため太平洋戦争中期以降各地に進撃してきたアメリカ軍戦車に対し,有効な対抗兵器をほとんど持たないままに撃破されてしまった。ヨーロッパでも開戦時の対戦車砲は弱体で役に立たず,各国とも新式野砲が当初の唯一有効な対戦車砲になったが,日本軍は重量を軽くするため砲身の短い新式野砲を採用したため対戦車砲にならなかった。
第2次大戦では,従来の歩兵主兵の時代に殺傷破壊の主役だった間接照準砲兵の威力が,戦車に対する命中率が低いため一気に低落し,直接照準砲兵が活躍したのが注目された。また軍用機は大きく発達し,地上攻撃,情報,輸送,指揮連絡等で強力な役割を果たしたが,天候,夜暗等に左右される不安定性はまだ克服されなかった。軍用機の行動が活発だったのは,第1次大戦当時より開発の始まった高射砲の進歩が,軍用機のそれに及ばぬためでもあった。低空の軍用機に対しては高射機関銃・砲が有効で,またレーダーや近接信管の使用は画期的に効果を高めたが,中・高空を飛行するものに対する中・重高射砲弾の命中は至難で,妨害効果が期待される程度に終わり,砲身砲型式の高射砲は能力の限界に達した感があった。
朝鮮戦争(1950-53)の釜山橋頭堡(きようとうほ)にいたるまでの退却戦から米韓軍が立ち直れたのは,T34戦車の対抗火器を持たず総崩れになっていたとき,アメリカ本土から有効なロケット弾と対戦車榴弾が空輸補給されたことと,米軍機の徹底した地上火力支援が大きな原因だった。鴨緑江(おうりよつこう)に向け敗走した北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)軍を救援した中国軍は,従来の損耗を大きく上回る大量の銃剣突撃力を投入して勝利を得て南進したが,米韓軍がさらに上回る砲兵射撃を加えたときに銃剣突撃力は欠乏し,戦線は旧境界線付近に押し上げられて固定して停戦となった。またベトナム戦争(1960-75)では,北ベトナム側の巧妙な政治的策略を含むゲリラ軍事戦略が成功し,アメリカ軍は優越した兵器の力を浪費して敗北するにいたった。
一連の中東戦争は米ソ等より供給された兵器の実験場でもあり,その威力は供給国の国家戦略にも影響を与えた。第2次中東戦争(1956)では英仏軍は空母等からのヘリコプターによる上陸作戦をスエズ運河地帯に行って成功したが,核兵器使用を示唆するソ連の介入もあり停戦した。第3次中東戦争(1967)ではレーダー監視網をくぐったイスラエルの航空機の奇襲攻撃と,砂漠での機動戦能力に優れたその戦車攻撃の成功が注目された。第4次中東戦争(1973)ではエジプトのソ連製対空・対戦車誘導ミサイルにより,イスラエルの航空機,戦車が緒戦で大打撃をうけた。しかし,エジプト軍が陣地より出撃したときミサイル火網が追随できず,結局,優秀なイスラエル戦車と航空機の勝利に終わったが,ミサイルが初めて有効に活躍した戦例として注目される。
現在,急激に発達している電子技術を使用し兵器の全面的な改良が進んでおり,とくに航空機,戦車とミサイルの性能の競争が激しいが,現在その優劣は判定できない。さらに間接照準火砲が自走・自動・誘導砲弾化で戦車に対抗し,往時の優位の回復に努力している。もし戦車,軍用機の性能向上が対抗兵器のそれよりも割高で採算がとれなくなったとしたら,競争は限界に達し,過去に装甲騎兵が対抗兵器の威力に敗れ退陣したような,主役交代の現象が起こるかもしれない。
執筆者:金子 常規
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