『新約聖書』のなかの書簡の一つ。「ヤコブの手紙」ともいう。宛先(あてさき)が教会全般であるという意味で、「ペテロ書」「ヨハネ書」「ユダ書」とともに古くから公同の手紙とよばれる。手紙の形をとっているが、内容は5章からなり、試練、分け隔て、ことば、富、誓いなどに関する一般的勧告と教訓の書である。本書は、信仰による救いを強調するパウロとは対照的に、救いは「行いによるのであって、信仰だけによるのではない」(2章24)と主張している。著者は、伝統的には、イエスの兄弟でエルサレム教会の指導者となったヤコブとされている。しかし本書の内容と背景から実際は紀元100年前後に、パレスチナあるいはシリアの教会のユダヤ人教師が、その文書に権威をもたせるために、イエスの兄弟の名前を借りて書いたものと考えられる。
[川島貞雄]