日本大百科全書(ニッポニカ) 「三十三年の夢」の意味・わかりやすい解説
三十三年の夢
さんじゅうさんねんのゆめ
宮崎滔天(みやざきとうてん)著。1902年(明治35)国光書房刊。中国革命に情熱を注いだ滔天の数え年33歳までの波瀾(はらん)に富んだ自叙伝。本書は、熊本県に生まれ、長兄八郎の影響で自由民権論に心酔、また一時熱心なキリスト教徒であった彼が、二兄彌蔵の感化を受けて中国革命に全身を捧(ささ)げることを決意。上海(シャンハイ)、香港(ホンコン)、広州、タイ、シンガポールなどに渡航・潜入、また日本に亡命した孫文(そんぶん)と邂逅(かいこう)し、孫文をはじめ中国革命派の人々を支援して東奔西走する姿が描かれている。恵州挙兵(1900)の失敗後、身を引き、浪曲家の桃中軒雲右衛門(とうちゅうけんくもえもん)の弟子となり浪花節(なにわぶし)語りとなるところで本書は終わる。辛亥(しんがい)革命の成功は1911年のことであったが、本書は中国革命初期の実情を知るうえで貴重な文献である。また玄洋社系の国権主義的大陸浪人と様相を異にし、自由民権の立場からアジア解放の夢に憑(つ)かれた明治青年の理想主義とロマン主義的熱情と行動をのびやかな筆致で描いた書物としても興味深い。なお本書刊行の翌年には早くも2種類の中国語訳が公刊されるなど、中国人の間でも広く読まれた。
[和田 守]
『『三十三年の夢』(平凡社・東洋文庫)』