日本大百科全書(ニッポニカ) 「人間精神進歩の歴史」の意味・わかりやすい解説
人間精神進歩の歴史
にんげんせいしんしんぽのれきし
Esquisse d'un tableau historique des progrès de l'esprit humain
フランスの思想家で数学者コンドルセの主著。1795年刊。「人間の完成性は真に無限であること、またこの完成への進歩は……自然がわれわれを生ぜしめた地球そのものの滅亡以外には限界をもたないこと」、これを本書は事実と推理によって示そうとする。そのため、まず過去の歴史を九段階に分け、それぞれの段階における知識の進歩と社会の発展が述べられる。過去の暴虐と害悪の原因は、支配者と聖職者の定めた悪い制度と法律に求められる。ついで人類の歴史の結果から、未来の運命が探究される。コンドルセはそこに国家間の不平等の撤廃、社会における平等の確立、個人の肉体的、道徳的、知的改善をみる。このように過去から未来を推測することは、当然ある種の進歩の法則の存在を前提とする。ここに彼の功績を認めることもできるが、彼は未来の進歩を確保するものとして、歴史法則の必然性ではなく、教育と政治的改革と道徳的形成に期待していた。
本書は、1794年コンドルセが死に至るまでの短期間に執筆した「世紀の遺言書」であり、また啓蒙(けいもう)史観のもっとも直截(ちょくせつ)な表現でもある。
[坂井昭宏]
『渡辺誠訳『人間精神進歩史』全二冊(岩波文庫)』▽『前川貞次郎訳『人間精神進歩の歴史』(角川文庫)』▽『S・ポラード著、舟橋喜恵訳『進歩の思想』(1971・紀伊國屋書店)』