日本大百科全書(ニッポニカ) 「保有水平耐力」の意味・わかりやすい解説
保有水平耐力
ほゆうすいへいたいりょく
1981年(昭和56)に改正された建築基準法(いわゆる新耐震設計法)において導入された地震外力に対する建築構造物の限界耐力を表す指標で、層せん断力(ある層に存在する柱や壁に作用するせん断力の総和)を用いて表される。建築構造物が負担することのできる最大の力で、これよりも大きな外力が作用すると構造物は崩壊する。新耐震設計法では、それまでに行われていた許容応力度設計から部材の塑性変形を許容した塑性設計へと大きな転換がなされた。その際に、地震動に対する荷重レベルも中小地震用と大地震用の2段階のものが設定され、荷重レベルと許容応答レベルの両者が変更された。保有水平耐力の算定法には種々のものがある。現在用いられている代表的なものとしては、プッシュオーバー解析、メカニズム法(機構法)、節点モーメント分割法(節点モーメント振り分け法)、層モーメント分割法などがある。メカニズム法、節点モーメント分割法、層モーメント分割法は、20世紀半ば以降に発展した塑性極限解析の基本定理に基づいて提案された方法であり、メカニズム法は上界定理(真の崩壊荷重の上界を与えるもの)に基づき、節点モーメント分割法、層モーメント分割法は下界定理(真の崩壊荷重の下界を与えるもの)に基づいている。これらの塑性極限解析に関連する方法では、種々の荷重レベルに対する骨組の応答を議論するのではなく、最終的な荷重条件に対応する骨組内部の応力状態を議論するのに対して、プッシュオーバー解析では、荷重を漸増させた時の骨組内部の応力状態や骨組全体の変形状態を把握しつつ最終的な変形状態での耐力を求めることになる。したがって、プッシュオーバー解析では、部材や骨組の変形能力を直接反映させた検討が可能となる。
[上谷宏二・竹脇 出]
『日本建築学会編・刊『建築耐震設計における保有耐力と変形性能(1990)』(1990)』