仮想仕事の原理(読み)かそうしごとのげんり

日本大百科全書(ニッポニカ) 「仮想仕事の原理」の意味・わかりやすい解説

仮想仕事の原理
かそうしごとのげんり

質点の集まり、すなわち質点系が平衡な状態にあるとき、各質点に働く力の関係を与える力学原理。J・ベルヌーイが1717年にニュートン運動法則を用いて導いた。

 質点が重力の作用を受けて水平面上を運動しているときには、この質点には重力のほかに鉛直上方に向く力が働いている。この力は、質点の運動を平面上に束縛する働きをしており、束縛力という。一般に質点系の質点には、外からの力Fiのほかに、束縛力F'iが作用している。ここでiは各質点を表す添え字である。いま、各質点に働く力FiF'iとを変えないで、小さな力をさらに加えた結果、各質点は、xyz方向にわずかだけ変位したと考えることにする。この変位を仮想変位という。このとき質点系が受ける仕事全体はゼロである。また、束縛力は平面であり、したがって変位に垂直なので、質点系に対し仕事をしない。この結果、外力の仕事の総和がゼロであるという、外力のみの関係式が得られる。この関係式が仮想仕事の原理である。平衡各質点の仮想変位をΔxi,Δyi,Δzi、また、質点数をnとすれば、仮想仕事の原理は

で与えられる。

田中 一]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「仮想仕事の原理」の意味・わかりやすい解説

仮想仕事の原理
かそうしごとのげんり
principle of virtual work

仮想変位の原理ともいう。力学系が平衡であるための必要かつ十分な条件は系の各部分に仮想変位を与えたときになされる仮想仕事 δW が δW≦0 であるという判定原理。 1717年 J.ベルヌーイが導き出した。系がなめらかな拘束条件に従うとき,仮想変位に対し拘束力は仕事をしないから,仮想仕事をなす力に拘束力を含めなくてよい。したがって,この原理によれば,拘束力を考慮しないで力学系の平衡を論じることができて都合がよい。仮想変位として δri とともに -δri も許されるときには平衡条件が δW=0 となり,また拘束条件によって一方の仮想変位だけが許されるときには平衡条件が δW<0 となる。なおダランベールの原理によれば,動力学運動方程式は見かけの力を考慮すると平衡の問題とみなすことができるから,仮想仕事の原理は動力学の問題にも適用することができる。

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法則の辞典 「仮想仕事の原理」の解説

仮想仕事の原理【principle of virtual work】

仮想仕事の法則」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の仮想仕事の原理の言及

【仮想変位の原理】より

…ここで各質点の変位δxiは運動法則とは無関係に与えられた束縛条件に合致する範囲でまったく任意に取り得るものとしており,これを仮想変位と呼んでいる。またそれに対応して(1)のδWは仮想仕事といい,仮想変位の原理は仮想仕事の原理とも呼ばれる。仮想変位すべての成分が互いに独立にとれる,すなわち束縛条件なしの場合,(1)はFi=0,すなわち質点に働く力の各成分が0ということである。…

【平衡】より

…てんびんの二つの皿のそれぞれに物体と分銅をのせて重さを測るとき,分銅の質量がちょうど物体のそれと一致するときに限りてんびんの腕が水平の位置に静止し続ける。これがてんびんによる質量測定の手段であるが,その理由を力学上の原理に求めるならば,〈質点系の各部分に働く力によって生ずべき各質点の変位に対し,この力がなす仕事の総和が0に保たれるような配置がこの質点系の静止の位置を決める〉という仮想仕事の原理がそれに相当する(仮想変位の原理)。このように,運動しうる力学的体系が時間的に変化を受けない持続状態にあることを平衡またはつりあいといい,空間(あるいは相空間)におけるその静止位置をこの力学系の平衡点と呼ぶ。…

※「仮想仕事の原理」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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