俱舎宗(読み)くしゃしゅう(その他表記)Jù shě zōng

改訂新版 世界大百科事典 「俱舎宗」の意味・わかりやすい解説

俱舎宗 (くしゃしゅう)
Jù shě zōng

世親の《阿毘達磨俱舎論》(アビダルマコーシャAbhidharmakośa)およびその注疏中心として諸経論を研究・講義し,師資相承する学僧たちの学団をいう。俱舎衆,薩婆多(サツバタ)宗とも呼ばれた。インドやチベットにおいて《俱舎論》は,仏教教理学の必修科目としてさかんに研究・講義され,中国においても真諦しんだい)三蔵によって《摂大乗論(しようだいじようろん)》などとともに漢訳され(566-567),さらに玄奘(げんじよう)三蔵によって多数の唯識学系統の経論とともに再訳されて(654)以後,それぞれ摂論学派と法相唯識学派の学統において研究・講義され,いくつかの重要な注疏がつくられた。日本においては遅くとも道昭(661年帰朝,元興寺禅院の開祖)によって《俱舎論》および注疏が伝来されたであろうが,〈俱舎宗〉という学団が公的に制定されるのは,天平勝宝年間(749-757)の東大寺においてではないかと考えられる。そのころ,この学団が大仏開眼供養にちなんで南都六宗の一つとして自宗関係の多数の経論を転読講説していることが知られる。奈良時代以後は元興寺(南寺)と興福寺北寺)を中心とする法相宗の付宗として学問的伝統が伝えられるにとどまった。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の俱舎宗の言及

【南都六宗】より

…奈良六宗ともいう。8世紀に官大寺などで研究されていた三論宗,成実(じようじつ)宗,法相(ほつそう)宗俱舎(くしや)宗華厳(けごん)宗律宗の六宗を指す。六宗の成立以前に華厳宗を除く五宗が成立していたことは,718年(養老2)10月の太政官符に〈五宗の学,三蔵の教〉とあることからもうかがわれ,藤原氏祖先の伝記である《家伝》(鎌足伝)も藤原鎌足が飛鳥元興(がんごう)寺に五宗の研究の費用を寄付したと伝えている。…

※「俱舎宗」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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