日本大百科全書(ニッポニカ) 「入り婿」の意味・わかりやすい解説
入り婿
いりむこ
男子が女戸主と婚姻してその家に入ること、またその夫たる男子。男子が娘の親と養子縁組を行い、そのうえで娘と婚姻するもの。婿養子、養子婿、入夫(にゅうふ)ともいう。1947年(昭和22)5月の民法改制によって家の制度がなくなり、婚姻と同時に新戸籍を創立することになったから、法律上は入り婿、入夫の呼称は廃止された。養子縁組と婚姻とを同時にするものはいまも存続する。一般には子が娘ばかりの家庭で、家を相続させるために入り婿を迎えるのであるが、東北地方や関東地方に点在する姉家督(長子相続)のように、男女にかかわりなく長子に相続させ、長子が女子の場合は入り婿を迎える例があり、徳島県の仕分(しわ)け養子のように、初めから分家させる計画で娘に婿をとる場合もあった。昔の入り婿はしゅうとに仕え、小じゅうとに監視され、奉公人のような立場であったようで、「小糠(こぬか)三合あったら婿に行くな」などともいわれた。家庭のなかばかりでなく、他村からきた入り婿の場合は、ムラのなかでも他所者(よそもの)扱いを受け、年齢が上でも若者組に入って使い走りをさせられたり、重い太鼓を担ぐ役目をあてられたり、寄合いの末席に座らせられるなどの差別を受けることが多かった。
[井之口章次]