初子に女性が生まれた場合,のちに男子が生まれても初生女子に婿をとって家長としての地位や,家,屋敷,耕地,山林,墓地,位牌などの財産の世代的伝達を行う方式を一般に姉家督という。したがって姉家督は婿養子縁組という婚姻居住形態と不可分の相続制度であった。初生子として男子が生まれた場合には一般的な長男相続が行われることになり,したがって姉家督が行われている社会では男女いずれの場合にあっても子どもの中では最年長者である初生子が相続者となるところに特徴がある。こうした相続継承方式はかつて東北6県を中心に関東・北陸・東海の諸県でかなり広く行われていたことが確認されているが,明治以降一般的な長男相続に移行している例も多く,現在では姉家督は衰退してほとんど見られない。とくに長男相続を規定した明治民法の影響が大きく,一時は姉家督形態をとりながら,戸籍上は長男相続とみせかける処置をとった例も多かった。また,姉家督を予定して姉に婿をとっておきながら長男相続に転じて,姉夫婦を分家に出した例もしばしば見られ,岩手県ではこうした分家形態をとくにスネノバシ分家と呼んでいた。かつて姉家督が行われた地域でも初生子が女で下に男が出生という状況のもとで,すべて姉家督が行われたわけではなく,姉と下の男子との年齢差が著しい場合にこの相続形態がとられることが多かった。
姉家督という相続形態がとられた社会的条件のひとつは農家労働力の早期の調達の必要性であった。たとえば《全国民事慣例類集》(1880)に陸中国(岩手県)胆沢郡の例として〈農家ニテハ,長女アレバ婿ヲ迎ヘテ相続セシムルヲ例トス。力役ノ便利ニ従フナリ〉とある。いまひとつは家の相続継承者をとくに男のみに限定しない家族観念の存在である。この点において少なくとも姉家督慣行をとっていた地域の家族は父性家族ではなかった。結果として姉家督は親との年齢差の少ない子どもに相続させることによって比較的規模の大きい大家族を形成保持することに貢献することとなった。東北地方の家族の規模が他地域の家族に比べて大きいのは,このような相続形態の存在に関連している。
執筆者:上野 和男
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初生子が女子である場合、下に弟である長男がいてもそれに優先して家督の相続を行うもので、日本にみられる相続方式のうち非選定(決定)相続、すなわち長子相続の一つの型に属するものである。初生女子相続とよぶことも可能である。実際には姉自身が相続者となるわけではなく、その夫である婿養子がなる。姉家督の存在理由としては、早く婿をとって相続させたほうが労働力のプラスになり経済的であるからなどと考えられている。また明治時代の徴兵制施行に際し、それを逃れるために進んで養子にいくといったことも副次的な理由として存在したという。姉家督は、末子相続とともに、長男相続による家父長制的家族制度が普遍的な状況において、そのイデオロギーに固執しないところに特徴があると考えられる。この慣行は主として東北地方の農漁村に多く、商家の間にもみられるが、士族の家にはみられない。士族の間ではもっぱら長男相続が優先した。山形県あたりには「三代婿養子は長者のもと」という諺(ことわざ)があるが、これなどは婿養子を選ぶ場合、慎重に検討してまじめな働き手を選ぶということと関連するとみられる。分布は茨城県の旧新治(にいはり)郡地方が南限であるが、現在慣行としてはほとんど存在していない。
[野口武徳]
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…相続慣行としては,江戸時代初期は分割相続が盛んであったが,やがて先祖伝来の田畑家屋敷を家産として家相続人(通常は長男,長男が耕作能力を欠く時は二・三男,養子,弟などがなることも多い)に包括承継させ,被相続人の取得財産は他子にも分与する家産単独相続が,最も一般的な相続形態となった。しかしなお,分割相続,末子相続,姉家督,妻による相続(主として中継相続)なども見られた。一般的な単独相続化傾向が,分地制限令の結果であるかどうかは問題がある。…
※「姉家督」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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