民法旧規定には,養子となる男子が縁組と同時に養親の家女(娘または養女)と結婚する婿養子縁組の制度があった。この男養子が婿養子であり,女婿(じよせい)ともいう。養子縁組と結婚が同時に行われることが必要なので,養男子となった後に養親の家女と結婚しても婿養子ではない。
かつて家父長制的家督相続を目的とした諸種の養子制度が生じたが,その一つで封建法時代前期ごろからみられ,江戸時代には武家法はもちろん,庶民間でも労働力確保のためにも用いられた(姉家督など)。民法旧規定が〈家〉制度維持の必要性から継承したこの制度の内容は次のとおりである。(1)法定推定家督相続人である男子がいても,婿養子縁組ができる(旧839条但書)。(2)婿養子縁組では養子縁組と結婚は相互に他方が有効であることを必要とするので,一方が無効か取り消された場合は,他方も取消請求ができる(旧786条,858条)。さらに離縁を原因に離婚を,離婚を原因に離縁を請求できる(旧813条10号,866条9号),(3)婿養子は妻の家に入り(旧788条2項),妻の氏を称し,養親に対し妻と同等の相続権をもつ(旧973条)。したがって,婿養子は妻より優先順位の家督相続人がいない場合にのみ家督相続できる。この点において,養子となった後に養親の家女と結婚した養男子が,養子縁組後養親に実男子が生まれても家督相続できるのとは違ってくる。
他国例では,中華人民共和国成立前の中国における招贅(婿)婚の贅夫が類似の法的地位にあったが,養子とはいわない。韓国民法(1958)には婿養子制度(876条)があるが,日本の民法旧規定と異なり,妻に先順位相続人がなくても,同姓同本(姓と本貫を同じくする)者でない婿養子は戸主相続できず(877条),妻が戸主相続する(984条2号)。
日本の現行民法は〈家〉制度とともにこの制度を廃止したが,今日でも妻の氏を婚姻氏とする娘の夫を,婿養子とか女婿と呼ぶ者もあるが,法的地位は婿養子とはまったく違い,姻族1親等にすぎず親子関係はなく,相続権ももちろんない。
執筆者:加藤 美穂子
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明治民法の下では、法定の推定家督相続人である男子のある者(戸主(こしゅ))は、男子を養子とすることは許されなかったが、「女壻(じょせい)」すなわち娘の婿として(娘と結婚させ同時に)これを養子とすることは許されていた。明治民法上、婿養子は、家督相続については、普通の養子よりも弱い地位に置かれていたが、家の跡継ぎをつくるという、家族制度に基づくものであった。1948年(昭和23)の民法改正により、この制度は認められなくなったが、現実の養子縁組にはこの種の縁組がかなり多く行われており、わが国の縁組で成年養子が多いのもそのためであろう。明治民法では「壻(むこ)」の字が用いられているが、一般には「婿」を用いる。「聟(むこ)」は俗字。
[山本正憲]
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…初子に女性が生まれた場合,のちに男子が生まれても初生女子に婿をとって家長としての地位や,家,屋敷,耕地,山林,墓地,位牌などの財産の世代的伝達を行う方式を一般に姉家督という。したがって姉家督は婿養子縁組という婚姻居住形態と不可分の相続制度であった。初生子として男子が生まれた場合には一般的な長男相続が行われることになり,したがって姉家督が行われている社会では男女いずれの場合にあっても子どもの中では最年長者である初生子が相続者となるところに特徴がある。…
…
[日本]
日本には古来,生前養子のほか死後養子があり,継嗣養子のほか猶子,実子(実子貰受け)があり,縁組の種類は多様であった。明治民法は通常の養子のほか婿養子と遺言養子を認めていたが,第2次大戦後の改正で婿養子・遺言養子が廃され,養子の種類は単一になった。日本の養子制度の歴史で養子類型が単一になった最初である。…
※「婿養子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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