全身疾患と冠動脈障害

内科学 第10版 「全身疾患と冠動脈障害」の解説

全身疾患と冠動脈障害(虚血性心疾患)

定義・概念
 全身疾患に起因する冠動脈障害としては血管炎症候群による冠動脈炎が代表的である.冠動脈炎は血管壁を炎症性に破壊,内膜炎による血栓形成,内膜肥厚性狭窄や閉塞,動脈瘤を形成する.冠動脈炎は無症候性に心筋虚血を進行させることが多く,前兆なく心筋梗塞や心不全,不整脈死など突然死を生じ,生命予後の大きな規定因子となる.
分類
 全身性血管炎は,形態学的に血管サイズで分類したChapel Hill Conference定義(1994年)により,大型血管炎,中型血管炎,小型血管炎に分けて扱われる(表5-7-14).さらに,小型血管炎は,抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophilic cytoplasmic antibody:ANCA)の有無で細分される.大型血管炎に高安動脈炎,巨細胞性血管炎(側頭動脈炎),中型血管炎に川崎病,結節性多発動脈炎(PN),また小型血管炎には顕微鏡的多発血管炎(MPA),Churg-Strauss症候群(CSS),Wegener肉芽腫症のANCA関連血管炎,本態性クリオグロブリン血管炎などが含まれ,それぞれ冠動脈炎を生じる.分類外で全身性エリテマトーデス(SLE),血管Beçhet病,悪性関節リウマチによる類似の冠動脈炎がある.現在,血管炎分類の再検討が提唱され,改定案の検証作業が進行している.  病理組織学的にはフィブリノイド壊死性血管炎と肉芽腫性血管炎の2つに大別され,血管炎の病態により異なり,PN,MPA,SLEやMRAなどの好中球やリンパ球の炎症細胞浸潤によるフィブリノイド壊死性血管炎と,おもにマクロファージや巨細胞浸潤による肉芽腫性血管炎を生じる高安動脈炎,巨細胞性血管炎,血管Beçhet病がある.また,Wegener肉芽腫は壊死性血管炎と肉芽腫性血管炎の混在型血管炎を呈し,CSSは著明な好酸球浸潤の壊死性血管炎をきたす.川崎病は,疾患独自の増殖性肉芽腫性の汎血管炎および浮腫状内膜炎を生じる.
(1)川崎病の冠動脈障害
原因・病因
 川崎病(Kawasaki disease)の原因はいまだ不明であるが,疫学的に大きな流行年がある.冬季に多く季節性や地域偏在性の発症を認めることから,細菌,ウイルスなどなんらかの感染源や,ある種のスーパー免疫反応の関与が疑われ,血管炎の発症に血中Tリンパ球の急激な増殖が誘因として考えられている.欧米に比べ日本で十数倍発症頻度が高く,川崎病に罹患した患児の同胞発症が一般より約10倍高く,川崎病既往の両親から出生した子供の罹患率が約2倍高いことなど,川崎病に罹りやすい素因に遺伝的な関与が示唆される.
疫学
 川崎病はわが国で毎年約1万数千人程度が新規に発症している.近年少子化傾向にもかかわらず,年々漸増し長期的な流行を認める.米国では毎年4000人程度の新規発症で,日本をはじめアジア諸国に多く欧米で少ない.男女比は約1.5:1で男児に多く,発症年齢は4歳以下が大半を占め,特に6カ月~1歳前後に多い.急性期にはほとんどが冠動脈炎を生じ,約16~20%程度が形態学的に認識できる冠動脈障害をきたす.約10%に冠動脈の拡大を認め,約1.5%が冠動脈瘤を形成し,約0.35%に巨大冠動脈瘤を認める.冠動脈の狭窄病変は約0.02%に生じ,その約半数が心筋梗塞を生じる.ほぼ毎年400~500人規模の川崎病罹患児が心後遺症を生じ,小児の虚血性心疾患として管理されている.最近,冠動脈後遺症を有する川崎病既往患者の約半数以上が成人になり,20~40歳代で再び心筋虚血を生じ成人の虚血性心疾患として扱われ始めている.
 川崎病が冠動脈瘤を後遺症として残す率は,アスピリン療法が治療法の主流であった1970~80年代は約20~25%と高かったが,その後免疫グロブリン大量療法の普及で 3~4%程度まで減少した.冠動脈障害が残った患児は生涯にわたり定期的な検査や服薬が必要であるが,自覚症状が乏しいことなどで,進学や就職,引っ越しなどを契機に通院が中断され,後に突然の失神,心肺停止,心筋梗塞を発症するドロップアウト例が問題化している.また,冠危険因子のない若年性の心筋梗塞や,冠動脈瘤を伴う冠動脈疾患を経験することがあるが,川崎病の急性期が見過ごされている可能性が考えられる.
病理
 川崎病冠動脈炎の急性期は,血管中膜の好中球の著しい浸潤に始まり炎症性の水腫状変化を生じ,数日で汎血管炎を生じる.その後,内膜にマクロファージ,リンパ球,形質細胞が浸潤して内膜炎をきたす.さらには毛細血管や線維芽細胞が増生し,マクロファージ集簇による増殖性肉芽腫性血管炎を呈する(図5-7-32).中膜は炎症性に破壊され,平滑筋細胞や内弾性板は断裂,消失して弾力性を損ない,血管壁は脆弱化し,拡張,瘤化する.その後も冠動脈瘤の近位部,遠位部では慢性的な内膜炎が持続し,求心性の内膜肥厚を生じ,狭窄,閉塞病変を形成する.炎症が消褪すると,血管壁の瘢痕化が始まり外膜は線維性に肥厚する.瘤内は血栓が形成されやすく血栓閉塞を生じる(図5-7-33A).血栓が器質化すると,しばしば再疎通し多数の小血管を新生することがある.新生血管はそれぞれ内弾性板を有し,川崎病特有の血管内血管の様相を呈する(図5-7-33B).
病態生理
 川崎病は全身性血管炎であり,まれに腎動脈,腹腔動脈腋窩動脈などにも動脈瘤を生じるが,冠動脈が本疾患の病変主座である.冠動脈炎は発症後7~8日目で始まり,直ちに全周,全層性の汎血管炎に至る.また,発症から10日前後で冠動脈の拡大が始まる.その後,炎症は徐々に消褪するが,内膜内に多数の炎症細胞が遺残し,症状回復後も内膜炎は長期に及ぶ.多くは一過性に拡大し,血管炎の消退とともに30日間以内に正常血管径に戻る「一過性拡大」となるが,一部は瘤を維持し,回復期以降も動脈瘤が残存する.この後遺症の瘤も,4~6 mm大までの小中型サイズのものの多くは,発症から1~2年以内に縮小し血管造影上正常径に戻る.これを「退縮(regression)」とよび,約30~50%の頻度で起こる.ただ,退縮部位は内膜肥厚病変や内皮機能障害が遺残し,若年性の冠硬化症に進展する可能性があり,長期的な経過観察を要する.一方,内径8 mm以上の大きな瘤は残存しやすく,瘤内の血流停滞や内皮機能障害による血栓形成や,遠隔期に瘤の前後で内膜肥厚性の狭窄を生じる.右冠動脈瘤は血栓閉塞をしやすく再疎通率(90%)も高い.左冠動脈瘤は狭窄しやすく,また瘤破裂のリスクが高い特徴がある.総じて10 mm大以上の巨大瘤は狭窄しやすい.しかし,冠動脈が血栓閉塞しても,その後多数の新生血管による再疎通が生じ,比較的良好な再灌流が得られて,重篤な虚血性心疾患のリスクが回避されることもある. 急性期は各種のサイトカインが産生され高サイトカイン血症状態と考えられる.T細胞リンパ球が過剰に活性化され,インターフェロン(IFN)-γ,腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor:TNF) -α,TGF(トランスフォーミング成長因子, transforming growth factor)-βやvascular endothelial growth factor (VG­EF)などの炎症性サイトカインが産生分泌され,酸化ストレスの産生とあいまって,血管透過性の亢進,血管内皮細胞の分化,遊走や増殖,血管新生を生じる.特に,VGEFは全身性に血管透過性を亢進させ,四肢の硬性浮腫をはじめ各臓器の浮腫性病変を生む.また, TNF-αは活性型のエラスチン分解酵素matrix metalloproteinases ( MMP-2, MMP-9 )を分泌させ,弾性線維の断裂化,平滑筋細胞の形質変化やアポトーシスをきたす.変性した弾性線維はカルシウム親和性が高く石灰化を誘導し,冠動脈瘤壁に石灰沈着を生じる.
臨床症状
 川崎病の典型例は6大症候が認められ,①少なくとも5日間以上持続する発熱,②両側眼球結膜の充血,③口腔咽頭粘膜のびまん性発赤,口唇の紅潮・亀裂・出血,イチゴ舌,④不定形発疹,⑤四肢末端の変化(手足の硬性浮腫,掌蹠指趾の紅斑および膜様の落屑),⑥大きな非化膿性頸部リンパ節腫脹を生じる.  川崎病の冠動脈病変は,急性期の瘤の大きさとその後の形態変化で重症度が分類される.瘤のサイズでは小動脈瘤(内径4 mm以下),中等瘤(内径4~8 mm大)および巨大瘤(内径8 mm大以上)に分類される.冠動脈障害の重症度は軽症群から,Ⅰ度:拡張性変化がなかった群,Ⅱ度:急性期に一過性拡大するも正常化した群,Ⅲ度:発症から第30病日以降も拡大や瘤を残したが1年以内に正常化した群,Ⅳ度:冠動脈瘤を残存するが狭窄病変がない群,Ⅴ度:冠動脈狭窄病変の形成群で,うち①心筋虚血なし群と,②心筋虚血を有する最重症群まで,段階的に5度に分類して扱われる.このほか,弁膜炎による僧帽弁閉鎖不全などの心臓弁膜症,心不全,重症不整脈を生じることがある.川崎病の心筋梗塞の多くは無症候性で,しばしば睡眠中や安静時に起こり,必ずしも運動や日常生活の労作に伴わず注意を要する.
検査成績
 川崎病の特異的な血清マーカーはなく,赤沈およびCRP高値,白血球数増加(特に好中球の左方移動を伴う)などの非特異的な炎症所見の変動,また貧血,低アルブミン血症などを生じる.急性期の冠動脈炎はほぼ必発で,心エコー検査で冠動脈血管壁のエコー輝度の増強を認め,冠動脈の拡大や瘤,瘤内血栓形成などを描出する.また,冠動脈の狭窄病変の診断に薬物負荷心筋SPECT核医学検査は有用で,狭窄病変の半定量評価には,冠動脈血管造影検査(CAG),冠動脈MDCTや心臓MRI検査が行われ,瘤,狭窄,閉塞病変や側副血行路の発達などを確認する(図5-7-34).巨大冠動脈瘤ではしばしば石灰化が著しく,X線透視下やCTなどで認める.卵の殻のような瘤壁の石灰化病変(eggshell-like calcification)が特徴的である.
診断
 川崎病の診断は特徴的な6大症候の診断基準に照らして行われる.6つの主要症状のうち5つ以上の症状を有するものを本症の診断基準とするが,4つ以下しか認められない場合も,経過で冠動脈の拡張や瘤形成が確認され, ほかの疾患が除外されれば,本症と診断する.川崎病の診断の手引きを満足しない川崎病不全型が一定の割合で存在する.川崎病不全型は決して川崎病の軽症型ではなく,心血管後遺症が発生する割合は完全型に比し高い.この不全型を迅速に診断治療することは心血管後遺症の発生予防上重要である.胸痛,不快感,動悸などの胸部症状がある場合は,安静時心電図,運動負荷心電図検査を行う.胸部X線検査では心陰影拡大や冠動脈石灰化陰影を認める.心筋梗塞発症時は,梗塞部位に一致したST-T変化,異常Q波の出現を認める.心エコー検査は冠動脈の拡張性病変や瘤病変の形態変化を経時的に評価でき,瘤内血栓の有無の診断ができる.しばしば無症候性で心筋梗塞,突然死を起こすため,定期的な心電図および心エコー評価が欠かせない.さらに必要に応じ,冠動脈造影CAG,心臓MRIやMDCT検査による詳細な画像診断を行う.CAGは冠動脈病変評価検査のゴールデンスタンダードで,中等度以上の冠動脈瘤を合併した症例には回復期にCAGを行い,以後心筋虚血発作の出現や進行の経過観察の際にCAGで再評価する.近年,CAGより侵襲度の低いMDCTやMRIによる冠動脈画像法MRCAが発達し,CAGを補完しつつある.MRCAの狭窄病変の描出率はMDCTのそれに劣るが,石灰化病変を伴うことが多い川崎病の冠動脈狭窄病変には,石灰化血管壁内の内腔描出を妨げないMRCAがすぐれている.
鑑別診断
 感染症,膠原病やその他類似疾患を除外する.発熱,皮疹,咽頭炎や眼球結膜充血など,症状が重なる猩紅熱や乳児型PNなどとの鑑別を要する.乳児型PNは,消化器病変,中枢神経病変,肺病変,高血圧,末梢病変など多臓器の血管炎症状を呈し,HBs抗原陽性や炎症を繰り返す特徴があり,病理学的にはフィブリノイド壊死性血管炎を呈し新旧病巣混在などで鑑別されるが,困難な場合もある.
経過・合併症・予後
 川崎病の冠動脈障害の予後および重症度は冠動脈造影所見で判定され,拡張性病変,狭窄性病変,閉塞,セグメント狭窄および局所性狭窄の5種類に分類される.冠動脈瘤は内膜炎もありしばしば血栓閉塞する.また急性期進行性に拡大する巨大冠動脈瘤は,破裂して心タンポナーデを生じることがある.また,冠動脈瘤に併発する狭窄病変で心筋梗塞を生じる.心筋梗塞は発症から第2病週以降,また回復期では第7病週以降に発症のピークを認める.川崎病の死因の多くが血栓閉塞性の心筋梗塞や突然死で,無症候性が多く,急性心筋梗塞をとらえることが少ない.また,血栓閉塞後に再疎通しやすいのも川崎病の特徴で,再疎通の新生血管を「セグメント狭窄」とよび,右冠動脈に多い.血管造影上のセグメント狭窄は病態,出現時期,予後が異なる3タイプの病変に分類され,血栓性閉塞した冠動脈内の新生血管束,閉塞瘤の栄養血管の発達,同一冠動脈内の既存血管連結による順行性副血流路がある.冠動脈障害を有する場合は,将来10~20年間に5~12%程度の確率で有意な狭窄病変が出現するとされ,左冠動脈主幹部や前下行枝近位部に生じやすく,また径が4 mm以上の瘤は内膜肥厚して狭窄病変へ進行する.冠動脈瘤の残存がなければ予後は良好であるが,冠動脈炎の既往は長期的には成人期の動脈硬化リスクファクターになる可能性があり,長期フォローアップが必要である.
治療・予防・リハビリテーション
 川崎病の急性期治療は,炎症および血栓形成の抑制を目的とした抗血小板薬のアスピリン大量投与(30~50 mg/kg/日)と炎症性サイトカインや増殖因子を抑制して冠動脈炎の発症予防および治療を目的とした免疫グロブリン大量静注療法(2 g/kg)が基本である.川崎病は血小板数が増加して血小板凝集能が亢進し,血管壁は炎症性に障害されやすく血栓性であり,発症後2~3カ月間は低用量アスピリン(5 mg/kg/日)を継続投与する.冠動脈瘤を合併する場合は,冠動脈瘤が消失するまでアスピリンとワルファリンを併用投与する.瘤内に血栓形成を認めるときはヘパリンを投与する.慢性期の巨大瘤にはアスピリンとワルファリンを長期投与するが,患児がインフルエンザや水疱瘡に罹患した際は,急性脳症や肝不全をきたすReye症候群の発症リスクを減らすため,一時的にアスピリンを休薬するかジピリダモールなどほかの抗血小板薬に切り替える. 急性期の治療上,免疫グロブリン療法不応例への治療戦略が重要な課題である.免疫グロブリン療法の実施後も,発熱,CRP高値,白血球数の高値など炎症活動が持続する場合は治療効果が不十分と判断し,免疫グロブリン追加投与,ステロイドパルス療法,経口ステロイド投与などを行う.ただし,ステロイド治療が瘤破裂リスクを高める懸念がある.また,狭心症や冠攣縮の予防目的で,カルシウム拮抗薬を投与し,虚血性の心筋障害を改善するためβ遮断薬やACE阻害薬を併用する.冠動脈狭窄病変を有する場合は,冠動脈インターベンションPCIや冠動脈バイパス術が行われ,石灰化が軽度な狭窄病変にはステント留置術,高度な例はロータブレーター治療がそれぞれ選択される.広範囲の狭窄,多枝病変や巨大冠動脈瘤など内科治療が困難な場合は,両内胸動脈や胃体網動脈グラフトを用いた冠動脈バイパス術,および瘤縫縮切除術が確実な治療法となる.川崎病罹患児の遠隔期の死亡のほとんどが心筋梗塞と突然死であり,適切なタイミングでのインターベンション治療が重要で,低侵襲バイパス術,PCIを適切に選択,組み合わせることで,より患者負担の少ない有益な治療ができる.
(2)膠原病の冠動脈障害
病因・病態
 種々の膠原病が頻度は少ないが冠動脈炎を生じる.なかでもPNは冠動脈炎を生じる代表的疾患で40~60歳代の男性に多く,血管炎は腎臓をはじめ,中枢神経,心臓,肺,消化管,末梢神経,皮膚や筋肉など広範囲な臓器に及び,症状は多彩となる.MPAはMPO-ANCA陽性が多く,小細血管から中型血管まで幅広く侵し,間質性肺炎,肺胞出血や急速進行性腎炎などを生じる.血管炎は血管全層性の好中球を主体とするフィブリノイド壊死性血管炎を特徴とする.全周性に血管壁は瘢痕化して内膜肥厚性の狭窄病変をきたし,内弾性板は破壊され比較的小さな冠動脈瘤を多発する. SLEは約10%程度で抗リン脂質抗体症候群を併発して血栓性血管炎を生じる.また抗原抗体複合物による血管炎を生じる.PN類似の冠動脈炎を起こす(図5-7-35).高安大動脈炎は,上行大動脈拡大による大動脈弁閉鎖不全を生じ,冠動脈炎を10%以下で生じ,冠動脈の起始部に限局性の狭窄,拡張性病変を生じ,狭心症や血栓形成性の心筋梗塞をきたす(図5-7-36左).外中膜および栄養血管周囲の単核細胞の炎症細胞浸潤から始まり,全層性の肉芽腫性動脈炎を起こす.中膜の弾性線維は断裂消失,中外膜の広範な線維化と内膜の無細胞性の線維性肥厚病変を生じ,血管壁が厚くなる.また,外膜の栄養血管(vasa vasorum)壁は肥厚し中外膜の石灰化を伴う(図5-7-36中右).また,側頭動脈炎はわが国で少なく欧米高齢者に多いが,冠動脈疾患を併発することがある.
 CSSは冠動脈の分枝を中心に好酸球に富む肉芽腫性血管炎と,小細動静脈に好発するフィブリノイド壊死血管炎を生じる.好酸球の著しい浸潤を伴い,中膜をおもに分節状の平滑筋細胞の壊死を生じ,組織球浸潤,間葉性細胞の増殖,多核巨細胞を伴う肉芽腫性血管炎を生じる.
 Wegener肉芽腫は壊死性血管炎と肉芽腫性血管炎の混在型の冠動脈炎を生じ,心筋梗塞を併発する.また心外膜炎,心膜液貯留をきたす.本態性クリオグロブリン血症は,血液の粘度亢進,血栓形成性または血管炎で無症候性の心筋梗塞を生じる.寒冷過敏,腎炎,C型肝炎ウイルス感染症のあるときは疑う.関節リウマチは約0.6~1.0%に血管炎を伴い悪性関節リウマチ(MRA)と分類され,男女比は1:2,60歳代に発症ピークを認め,約半数近くで冠動脈疾患が死因となる.全身の小・中動脈を主体に,壊死性血管炎,肉芽腫性血管炎,閉塞性内膜炎など多彩な血管炎をきたす.肝臓,消化管や泌尿生殖器,腎臓,肺に好発し,心臓は心外膜炎,心筋炎,冠動脈炎を生じる.フィブリノイド壊死性血管炎を生じ,リンパ球の機能異常,IgGリウマトイド因子や免疫複合体の形成による内皮機能障害がその発症機序に関与している.
臨床症状・診断
 一見脈絡のない多彩な全身症状を呈する発熱患者は,感染症や悪性腫瘍を除外した上で血管炎を疑うことが診断に重要である.発熱,倦怠感,体重減少,関節痛などの全身症状が数週間から数カ月続き,経過中虚血性の多臓器障害を呈する.白血球および血小板数の増加,赤沈亢進,CRP陽性,貧血を認める.また,リウマトイド因子,ANCA,抗核抗体,補体価,クリオグロブリンなどの有無を参考に診断を進める.最終的には組織生検,画像所見による血管炎の診断を基に,心電図,心エコー検査や血管造影検査などで虚血性心疾患の有無を検索する.特にPN血管造影検査で血管病変,特に腎内小動脈の多発性の小動脈瘤(2~3 mm大)や狭窄,閉塞病変を確認する.病変血管の組織生検にて中小動脈のフィブリノイド壊死性血管炎の存在が確かめられれば,診断は確定される. また,高安動脈炎は,心エコー,心臓カテーテル検査,大動脈造影CTやMRI検査などで,特徴的な大動脈の拡大およびその分枝起始部の狭窄病変や,大動脈弁閉鎖不全症などを確認して診断される.最近ではフッ素18(18F)標識フルオロデオキシグルコース(FDP)を用いたFDG-PET検査が血管炎の描出に有用である. 虚血性心疾患の治療はその血管炎の活動性によるが,通常標準的治療が行われる.冠動脈バイパス術施行の際は,血管炎罹患のないグラフトの選択が重要で,冠動脈入口病変には入口部内膜摘除やパッチ拡大術が有効なことがある.[鈴木宏昌・代田浩之]
■文献
小川俊一,他:川崎病心臓血管後遺症の診断と治療に関するガイドライン(2008年改訂版),日本循環器学会.http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2008_ogawasy_h.pdf
尾崎承一,他:血管炎症候群の診断ガイドライン(2008年),日本循環器学会.http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2008_ozaki_h.pdf
Ozen S, Ruperto N, et al: EULAR/PReS endorsed consensus criteria for the classification of childhood vasculitides. Ann Rheum Dis, 65: 936-941, 2006.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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