デジタル大辞泉
「高安動脈炎」の意味・読み・例文・類語
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高安動脈炎
たかやすどうみゃくえん
Takayasu's arteritis (TA)
(膠原病と原因不明の全身疾患)
1908年に眼科医の高安右人によって報告された病気で、大動脈炎症候群ともいわれます。大動脈およびその分枝の血管が損なわれます。このためさまざまな症状が現れます。日本、東南アジアに多く、20~50歳の女性に多い(男女比1対9)ことが特徴です。
原因はわかりませんが、女性ホルモン、ウイルス、遺伝要因(HLAB52、B39)などが考えられています。
発熱、めまい、失神発作、頸部痛、脈拍が触れにくくなる、血圧の左右差、間欠性跛行(片足が正常に動かず、引きずるようにして歩く)などの症状があります。
臨床症状および血液検査の所見から診断します。診断の確定は画像診断(血管造影、シンチグラフィ、CT、MRA)などによって行います。
動脈硬化、血管ベーチェット病、巨細胞性動脈炎、炎症性腹部大動脈瘤(りゅう)などを区別します。
副腎皮質ステロイドであるプレドニゾロン20~30㎎/日から治療を始め、徐々に減らしていきます。抗血小板療法を併用することもあります。外科的には、血管再建術、大動脈弁置換術、動脈瘤置換術などが行われます。予後は改善し、5年生存率は90%前後です。
循環器内科、膠原病内科などを受診してください。とくに血圧に注意し、減塩食を行い、高脂血症、糖尿病、骨粗鬆症など合併症の併発を予防することが重要です。
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
高安動脈炎(大動脈炎症候群)(大動脈疾患)
定義・概念
原因不明の大血管の血管炎.組織所見は,一般に中膜に初発し,内膜,外膜に進行する.白血球とリンパ球の浸潤像とともに弾性線維の乱れ,崩壊が認められる.それとともに内膜の肥厚と線維化,血栓形成が起こる.女性が約10倍の頻度で発症する.
病態生理
動脈狭窄による臓器虚血,大動脈解離,あるいは大動脈瘤形成,特に上行大動脈の拡張により大動脈弁閉鎖不全が起こる.大動脈弁閉鎖不全は本症でみられる高血圧の原因として重要であるが,その他,腎血管性高血圧も頻度が高い.
臨床症状
1)自覚症状
: めまい,視力障害,動悸,脈がない,高血圧,易疲労感,微熱などが初診時の主訴であるが,無症状のこともしばしばある.
2)身体所見
: 片側(左側が多い)または両側の上腕動脈,橈骨動脈,尺骨動脈の拍動を触れない例が多い.胸部大動脈の狭窄が著しい場合,上半身の拍動が増強し,側副循環としての内胸動脈の拍動が観察されることがある. 高血圧,血管雑音(bruit)を認める.bruitは血管の狭窄,動脈瘤形成によって生じる.大動脈弁閉鎖不全による拡張期雑音が聴取される.
検査成績
胸部X線写真にて,大動脈の石灰化,上行大動脈の拡張が認められる.特に若年女性でこの所見があれば,まず本疾患を疑う.血沈亢進,CRP陽性,ガンマグロブリン増加,白血球増加は炎症の活動性をある程度,反映する.慢性炎症が続くと貧血を生じる.CTやMRAは,大血管の狭窄や拡張を観察する上で有用である.MRAでは,ガドリニウム造影剤の遅延造影が肥厚した血管壁に認められることが多く,線維化の存在を示唆する.また,FDG-PET(fluorodeoxyglucose positron emission tomography)は,炎症組織を描出することが可能で,高安動脈炎の早期診断に有用である.
診断・鑑別診断
血管造影は診断・治療方針の決定に重要である.上行大動脈,弓部,その分枝,胸部大動脈,腹部大動脈,総腸骨動脈まで注意深くチェックする.また,腎機能低下がなく,造影剤の量に問題がなければ,大動脈閉鎖不全の評価のため,左室造影を行う.また,腎動脈狭窄の評価も重要である.
治療
炎症の急性期にはステロイド剤が有効である.一般に活動性に応じて,副腎皮質ホルモン(プレドニゾロン 20〜30 mg/日)を投与し,血沈,CRP,自覚症状を指標にして漸減していく.抗血小板薬としてアスピリン,シロスタゾール,チクロピジンを用いる.[倉林正彦]
■文献
髙本眞一,他:大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2006年改訂版),Circ j, 70 Suppl Ⅳ, 1569-1646, 2006, 日本循環器学会.
Isselbacher EM: Disease of the aorta. In: Heart Disease: A textbook of cardiovascular medicine 8th ed (Braunwald E, Zipes DP, et al), pp1457-1489. WB Saunders Company, Philadelphia, 2008.
高安動脈炎(大動脈炎症候群)(血管炎症候群)
(2)高安動脈炎
(大動脈炎症候群)【⇨5-13】[尾崎承一]
■文献
Falk RJ, et al: Granulomatosis with polyangiitis (Wegener's): An alternative name for Wegener's granulomatosis. Ann Rheum Dis, 70: 704, 2011.
Jennette JC, Falk RJ, et al: 2012 revised international Chapel Hill consensus conference nomenclature of vasculitides. Arthritis Rheum, 65: 1-11, 2013.
Mukhtyar CL, et al: EULAR recommendations for the management of primary small and medium vessel vasculitis. Ann Rheum Dis, 68: 310-317, 2009.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
高安動脈炎
たかやすどうみゃくえん
大動脈炎症候群ともいわれ、以前は脈なし病ともいわれた。しかし、高安動脈炎は単に眼底変化や橈骨(とうこつ)動脈拍動(手首の親指側で触れる脈拍)の触知不能ばかりでなく、胸部や腹部の動脈などにも多彩な症状が発現することがわかるにしたがって高安症候群ともよばれた。現在は高安動脈炎とよぶのが正しい。
高安動脈炎は、大動脈およびその主幹分岐動脈に狭窄(きょうさく)ないしは閉塞(へいそく)をきたす疾患の総称である。1908年(明治41)に日本の眼科医高安右人(みきと)(1860―1938)が初めて報告した疾患で、高安病あるいは脈なし病として知られた。主としてアジア諸国でみられ、20~35歳の比較的若い女性に好発する。成因はなお明らかでないが、免疫学的機序が関与するとする見解が有力である。ホルモン分泌異常を重視する意見もある。特定疾患(難病)に指定されている。
症状として頸(けい)動脈および鎖骨下動脈の狭窄ないしは閉塞による脳、目、上肢の阻血症状、異型大動脈縮窄による下肢の血圧下降と上肢の血圧上昇、腎(じん)動脈狭窄による高血圧、頸動脈洞反射亢進(こうしん)などである。炎症の進行そのものに対しては副腎皮質ホルモン、抗凝血剤などの内科的治療を行い、固定した病変としての動脈閉塞ないし動脈瘤(りゅう)の発生に対しては外科的治療を行うのが、治療の根本方針である。
[竹内慶治]
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