血管炎症候群

内科学 第10版 「血管炎症候群」の解説

血管炎症候群(リウマチ性疾患)

概念
 血管炎症候群とは血管壁の炎症をきたす病態の総称である.この中には血管炎そのものを主病変とする独立した疾患(原発性血管炎)と,他疾患に血管炎を伴う病態(続発性血管炎)が含まれる.後者には,ほかの膠原病や炎症性腸疾患に伴うもの,ウイルスを含む感染症や薬物などに起因するもの,腫瘍に伴うもの,移植に伴うものなどがある.
分類
 原発性血管炎は罹患血管のサイズや罹患臓器の広がりに基づいて5つのカテゴリーに分類され,続発性血管炎は発症過程に基づき2つのカテゴリーに分類された(2012年)(新たなChapel Hill分類 CHCC 2012,表10-8-1).
1)大型血管炎(large vessel vasculitis:LVV)
大型動脈をほかの血管より高頻度に侵す血管炎である.大型動脈とは大動脈およびその主要な分枝と定義される.高安動脈炎(Takayasu arteritis)および巨細胞性動脈炎(giant cell arteritis)が含まれる.
2)中型血管炎(medium vessel vasculitis:MVV)
中型動脈を主として侵す血管炎で,炎症性動脈瘤や狭窄がよくみられる.中型動脈とは主要な内臓動脈とその分枝として定義される.結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa)および川崎病(Kawasaki disease)が含まれる.
3)小型血管炎(small vessel vasculitis:SVV)
主として小型血管を侵す血管炎であるが,中型の動脈や静脈が侵されることもある.小型血管とは実質内の小動脈,細動脈,毛細血管細静脈と定義される.2つのサブカテゴリーに分けられる.
 a)ANCA関連血管炎ANCA-associated vasculitis:AAV):壊死性血管炎で,免疫複合体沈着はみられないか,わずかにしかみられない.主として小型血管(毛細血管,細静脈,細動脈,小動脈)を侵す.抗好中球細胞質抗体ANCA(後述)と関連するが,すべての患者でANCAが認められるとは限らない.このサブカテゴリーには,顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis),多発血管炎性肉芽腫症(granulomatosis with polyangiitis:GPA)(旧名:Wegener肉芽腫症),および,好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilic granulomatosis with polyangiitis:EGPA)(旧名:アレルギー性肉芽腫性血管炎,Churg-Strauss症候群)の3疾患が含まれる.
 b)免疫複合体性血管炎(immune complex vasculitis):免疫グロブリンや補体成分が血管壁に中等度ないし高度に沈着する血管炎であり,主として小型血管(毛細血管,細静脈,細動脈,小動脈)を侵し,糸球体腎炎が頻繁にみられる.このサブカテゴリーには,抗GBM(glomerular basement membrane;糸球体基底膜)病(anti-GBM disease),クリオグロブリン血症性血管炎(cryoglobulinemic vasculitis:CV),IgA血管炎(IgA vasculitis:IgAV)(旧名:Henoch-Schönlein紫斑病),および,低補体血症性じんま疹様血管炎(hypocomplementemic urticarial vasculitis:HUV)(anti-C1q vasculitis)の4疾患が含まれる.
 抗GBM病は壊死性半月体形成性糸球体腎炎と肺出血を同時にきたすことがあり,そのときはGoodpasture症候群ともよばれる.HUVはじんま疹と低補体血症を伴う小型血管炎で,しばしば,糸球体腎炎,関節炎,閉塞性肺疾患,眼の炎症がみられる.HUVは抗C1q抗体と特徴的に関連することから,抗C1q血管炎という別称も提唱されている.
4)種々の血管を侵す血管炎(variable vessel vasculitis:VVV)
特定の罹患血管の偏りをもたない原発性血管炎であり,どのサイズ(小型,中型,大型)やタイプ(動脈,静脈,毛細血管)の血管をも傷害しうる.このカテゴリーにはBehçet病Cogan症候群の2疾患が含まれる.
5)単一臓器の血管炎(single organ vasculitis:SOV):
ある臓器に限局した原発性血管炎で,臓器内での血管炎の分布は単巣性でも多巣性でもよい.ここでは皮膚白血球破砕性血管炎(cutaneous leukocytoclastic angiitis)のように,臓器名と侵襲血管のサイズを付記する.そのほかに表10-8-1のような疾患が含まれる.ある時期にSOVと診断されたものが将来的に全身性血管炎へと進展した場合には,別のカテゴリーに再配分されることになる.
6)全身性疾患に続発する血管炎(vasculitis associated with systemic disease)
全身性疾患に関連しそれが原因となって発症した続発性血管炎を対象とし,疾患名には全身性疾患を指す接頭語が必要となる.たとえば,関節リウマチにおける血管炎(rheumatoid vasculitis),全身性エリテマトーデスにおける血管炎(lupus vasculitis),サルコイドーシスにおける血管炎(sarcoid vasculitis)などである.
7)誘因が推定される血管炎(vasculitis associated with probable etiology)
特定の病因と関連している続発性血管炎を対象とし,疾患名には病因との関連を指す接頭語をつける.たとえばHCV関連クリオグロブリン血症性血管炎(HCV-associated cryoglobulonemic vasculitis),HBV関連血管炎(HBV-associated vasculitis),梅毒関連血管炎(syphilis-associated aortitis)など表10-8-1に記載された疾患が含まれる.
病因・病態生理
1)遺伝素因と環境因子:
血管炎症候群の各疾患の多くは多因子疾患であり,その発症には遺伝因子と環境因子が関与する.遺伝因子としては主要組織適合抗原(HLA)が重要である.環境因子としてはウイルスなどの感染が推定されている.遺伝因子と環境因子の相互作用の結果,免疫異常が起き血管の障害に向かうが,いくつかの免疫異常が知られている.
2)血管障害を惹起する免疫異常:
大型〜中型血管炎では自己反応性T細胞による肉芽腫形成性組織傷害,小型血管炎ではANCAによる好中球の活性化,および免疫複合体沈着によるⅢ型アレルギーを介した組織傷害が主要な機序である.
 大型血管炎の組織像は巨細胞の浸潤を伴う肉芽腫性炎症である.高安動脈炎の病変局所に浸潤しているCD8T細胞,側頭動脈炎の病変局所のCD4T細胞およびCD83樹状細胞が重要とされる.
 抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)は,主として好中球細胞質のアズール顆粒中の抗原を認識する自己抗体である.ANCAはエタノール固定好中球を基質とした間接蛍光抗体法で検出され,その染色パターンから細胞質型(C-ANCA)と核周囲型(P-ANCA)とに分類される(図10-8-1).血管炎で重要な抗原はプロテイナーゼ3(PR3)およびミエロペルオキシダーゼ(MPO)であり,対応する抗体はPR3-ANCA,MPO-ANCAとよばれる.PR3-ANCAはC-ANCA,MPO-ANCAはP-ANCAに相当する.PR3-ANCAは多発血管炎性肉芽腫症(Wegener肉芽腫症)の80%以上に認められ,MPO-ANCAは顕微鏡的多発血管炎,好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(Churg-Strauss症候群/アレルギー性肉芽腫性血管炎)などの50~75%で陽性となる.ANCAが好中球を活性化して血管炎が発症すると考えられているが,ANCA関連血管炎では病変局所に免疫グロブリンや補体の沈着がみられない(これを寡免疫性pauci-immuneという).
 免疫複合体(immune complex:IC)は抗原と抗体の結合物であり,血管壁へ異常沈着して血管炎を惹起する.ICは補体を活性化し,その途上で形成されたC4a,C3a,C5aなどの走化因子が好中球や単球を集合させ炎症が進展する.血管炎のうちICが主として検出されるのは中・小型血管炎であり,大型血管炎ではほとんど検出されない.病因に関連したICに含まれる対応抗原として,B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスが知られている.IgA血管炎(Henoch-Schönlein紫斑病)ではIgA免疫複合体,クリオグロブリン血症性血管炎ではクリオグロブリンが検出される.
症候と診断—総論
 血管炎症候群では「血管」の「炎症」のために,多臓器の虚血や出血による症状とともに炎症所見を呈する.炎症による全身症状と局所の臓器症状に大別される.
1)全身症状:
 a)原因不明の発熱:発熱は38℃〜39℃の高度の発熱が多く,spike fever の型をとることが多い.
 b)全身症状:高度の発熱が持続するため,体重減少を伴う.6 kg/6カ月以上の体重減少が目安とされる.脱力感,全身倦怠感などの漠然とした症状を訴える.
2)局所の臓器症状:
全身の多臓器の症状が同時に,または,順次にみられるのが特徴である.臓器症状は罹患血管の障害による虚血や出血の結果であり,罹患血管のサイズにより差がみられる.
 a)小血管の障害による症状(表10-8-2-Ⅰ):皮疹では特に下腿に好発する,いわゆる触知可能な紫斑 (palpable purpura)が特徴的である.皮膚潰瘍も中〜小動脈の血管炎を疑わせる.多発性単神経炎は当該神経を養う中〜小動脈の血管炎の症状であり,初期には感覚障害としての知覚過敏知覚鈍麻などが出現するが,進行すると運動障害を併発し下垂手や下垂足となることがある.腎臓の小血管(小葉間動脈〜輸入細動脈〜糸球体係蹄〜輸出細動脈)の血管炎では,血尿,蛋白尿,円柱尿などの臨床像を呈する.肺における細動脈炎や毛細血管炎,細静脈炎の臨床像として肺胞出血があり,泡沫状の血痰が喀出される.
 b)大型〜中型の血管の障害による症状(表10-8-2-Ⅱ):動脈硬化の危険因子のない心筋梗塞や脳梗塞では血管炎を疑う.急性腹症や下血の原因として腸間膜動脈の血管炎が関与する場合がある.腎臓の中型以上の血管(腎動脈〜葉間動脈〜弓状動脈〜小葉間動脈)の障害では,急激に進行する高血圧と腎機能障害を呈する.その他,障害された特定の血管に応じて,脈なし病,咬筋跛行,失明を呈することもある.
3)診断へのアプローチ:
「一見脈絡のない多彩な全身症状を呈する発熱患者」では,まず血管炎を疑うことが重要である.鑑別疾患として,感染症,悪性腫瘍,および血管炎を伴う膠原病やその類縁疾患が重要である.罹患血管のサイズにより,診断へのアプローチが異なる.大型〜中型血管炎では血管造影が有用である.小型血管炎では免疫複合体の有無により疾患が大別される.免疫複合体陽性群ではIgA免疫複合体(IgA血管炎[Henoch-Schönlein紫斑病])やクリオグロブリン(クリオグロブリン血症性血管炎)の有無に注意する.免疫複合体陰性群にはANCA関連血管炎が含まれ,MPO-ANCAや PR3-ANCAに注意する.大動脈とその主要分枝を障害される高安動脈炎や冠動脈瘤をきたす川崎病以外では,罹患血管の生検が診断に有用である.[尾崎承一]
■文献
Falk RJ, et al: Granulomatosis with polyangiitis (Wegener's): An alternative name for Wegener's granulomatosis. Ann Rheum Dis, 70: 704, 2011.
Jennette JC, Falk RJ, et al: 2012 revised international Chapel Hill consensus conference nomenclature of vasculitides. Arthritis Rheum, 65: 1-11, 2013.
Mukhtyar CL, et al: EULAR recommendations for the management of primary small and medium vessel vasculitis. Ann Rheum Dis, 68: 310-317, 2009.

血管炎症候群(膠原病・炎症性疾患に伴う神経系障害)

(2)血管炎症候群【⇨10-8】
 血管炎を共通の病態とする多彩な症候群であり,障害血管のサイズにより病型分類されることが多い.血管病変による二次的な循環障害が原因で多臓器病変を生じる.全身的には,発熱,体重減少,赤沈亢進,血清CRP高値・補体低下などの急性炎症反応がみられる.全身所見を欠き血管炎性末梢神経障害を呈する場合もあり,非全身性血管炎性ニューロパチーといわれる.
a.結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa:PN)
 結節性多発動脈炎は中型・小型の血管にフィブリノイド変性と弾性板断裂を伴う炎症および血管壁周囲の炎症細胞浸潤を生じるものであり(壊死性血管炎),約60%に末梢神経障害を伴う.通常は多発単神経炎を呈し,罹患神経支配領域の電撃痛や麻痺で発症する.中枢神経障害は進行期にみられ,脳内血管の炎症により,頭痛,痙攣,意識障害,認知機能障害など,びまん性の脳機能障害を生じることが多い.急性の難聴,角膜炎を伴うものはCogan症候群とよばれる.診断は皮膚や筋の生検により壊死性血管炎の存在を証明する.プレドニゾロン60~100 mg/日,ステロイドパルス療法,シクロスポリンパルス療法などが行われる.
b.顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis)
 40~60歳代の男性に多く,全身の小血管の壊死性血管炎により腎・皮膚・肺・末梢神経(多発単神経炎や多発神経炎)などに障害を生じる.赤沈亢進,CRP陽性,血小板増加に加え,myeloperoxidase anti-neutrophil cytoplasmic antibody(MPO-ANCA)(60%)やproteinase3(PR3)-ANCA(C-ANCA)(40%)が陽性のことが多い.
c.側頭動脈炎(temporal arteriris:TA)
 浅側頭動脈・眼動脈を好発部位とする肉芽腫性血管炎であり,高齢者の高度かつ頑固な頭痛の鑑別に重要である.本症の最も重篤な合併症は眼動脈病変による視力障害で,5~10%は失明する.物を噛むと咀嚼筋の疼痛を生じる顎跛行がよく知られている.側頭動脈の発赤・腫脹・疼痛・索状肥厚が認められ,同血管の生検により確定診断に至る.リウマチ性多発筋痛症の合併が多く,また視力低下を防ぐ目的で発病早期から大量のステロイド薬の投与を行う.
d.多発血管炎性肉芽腫症(granulomatosis with polyangiitis,旧名Wegener肉芽腫症)
 耳・鼻・上気道・肺の壊死性肉芽腫,腎糸球体の壊死性半月体形成,全身の中・小血管の壊死性肉芽腫性血管炎を3徴とし,若年から中年期に発症する.疾患活動期には血清中のPR3-ANCAが特異的に高値を示す.副鼻腔病変が進展して視神経を障害する,肥厚性硬膜炎の合併により多発脳神経麻痺を生じる.大量ステロイド療法およびシクロホスファミドなどの免疫抑制薬の投与を行う.
e.好酸球性肉芽腫性多発血管炎(eosinophilic granulomatosis with polyangiitis,旧名アレルギー性肉芽腫性血管炎およびChurg-Strauss症候群)
 気管支喘息,末梢血好酸球増加,肉芽腫性血管炎を特徴とする.幅広い年齢層の男女に発症する.血管炎による多発単神経炎,多発神経炎を呈する.総腓骨神経(84%),尺骨神経(55%)障害が多い.間質性肺炎,皮膚病変,消化器病変,心病変などを合併するが,腎病変は少ない.末梢血の好酸球増加,血清中のIgE,CRP高値を認め,MPO-ANCAが70%の例で陽性である.ステロイド薬に反応し寛解に至る例が多いが,治療抵抗性の末梢神経障害には免疫グロブリンの大量静注療法(IVIg)が行われる.[池田修一]
■文献
膠原病に伴う神経・筋障害.日本内科学会雑誌,99(8), 2010.
膠原病と神経疾患—基礎から臨床まで.Clinical Neuroscience, 28(2), 2010.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「血管炎症候群」の解説

血管炎症候群
けっかんえんしょうこうぐん
Vasculitis syndrome
(膠原病と原因不明の全身疾患)

どんな病気か

 血管炎を原因とした多種多様の臨床症状ないし疾患群を総称して、血管炎症候群といいます。原疾患が血管炎である場合に「原発性血管炎」といい、膠原病(こうげんびょう)などの他の疾患に血管炎が合併した場合には「続発性血管炎」と呼ばれます。

 罹患(りかん)した血管の口径の太さや抗好中球(こうちゅうきゅう)細胞質抗体(ANCA)の有無などの観点から血管炎が分類されています。

症状の現れ方

 血管炎の一般的な症状は、発熱、体重の減少、関節痛・筋肉痛、倦怠感(けんたいかん)高血圧などの全身症状です。検査所見は白血球数増加、CRP高値、赤沈亢進など非特異的炎症所見(この病気に特有ではない所見)を示します。

 また、さまざまな症状を示すため、感染症、悪性リンパ腫、他の膠原病などと区別が難しいこともあります。

検査と診断

 確定診断には、画像診断(血管造影)や生検による所見が重要です。血管炎は一般的に罹患血管が支配する臓器の虚血(きょけつ)を起こすため、腎、肺、脳、心などの重要な臓器障害を起こし、生命維持に関わる危険性があります。

 また、急性期を脱しても腎不全や多発性単神経炎などの後遺症を残す可能性があります。さらに、再発が多いことも知られています。このため、早期発見・早期治療が必要です。

治療の方法

 治療はステロイドを中心とした免疫抑制療法のため、治療中に感染症、脊椎(せきつい)圧迫骨折、糖尿病脂質異常症高脂血症)、高血圧などの合併症が起こる可能性もあります。

 以下、代表的な血管炎について解説をしていきます。

小林 茂人

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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