心肺停止(読み)シンパイテイシ

  • 心肺停止(救急治療)

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

生命維持に欠かせない心機能と肺機能が停止した状態。心肺機能停止ともいう。心臓の自律的な血液拍出(ポンプ)機能の停止が心停止で、肺が自発的な外呼吸機能を失い換気ができなくなる状態が肺停止である。両者はどちらかが停止すればもう一方もほどなく停止し、放置すれば死に至る。
 山岳事故などで遭難者が実質的には死亡していると判断される状態で発見された場合でも、心肺停止という表現が使われるが、これは、死亡の判定は医師によってのみ行われ、心肺停止に加え、瞳孔(どうこう)拡大・対光反射消失が確認される必要があるためである。[編集部]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

内科学 第10版の解説

定義・概念
 何らかの原因により有効な心拍出と呼吸が突然に停止した状態で,直ちに有効な心肺蘇生法(cardiopulmonary resuscitation)を行わないと死に至る.心停止や窒息という生命の危機的状況に陥った患者や,これらが切迫している者を救命し社会復帰に導くためには救命の連鎖(①心停止の予防,②心停止の早期認識と通報,③一次救命処置,④二次救命処置と心拍再開後の集中治療)が必要となる.
原因
1)心原性心停止:
特に成人においては突然の心停止はおもに心疾患(あらゆる種類,特に急性冠症候群)が原因である.心原性心停止とは,急性冠症候群を主体とし,Brugada症候群,QT延長症候群,特発性心室細動などの不整脈,先天性心臓病,肥大型心筋症,心タンポナーデ,冠動脈形成術時や心臓手術後などに起こるものをいう.無脈性心停止(pulseless cardiac arrest) でみられる心電図波形は,心室細動(ventricular fibrillation:VF),無脈性心室頻拍(pulseless ventricular tachycardia:pulseless VT),無脈性電気活動(pulseless electrical activity:PEA),心静止(asystole)の4つに分類される.これらは電気ショックの適応の有無から,前2者と後2者に分けられる.傷病者に反応がなく,呼吸がないか異常な呼吸(死戦期呼吸:gasping)が認められる場合は心停止と判断する.成人では突然の心停止(sudden cardiac arrest:SCA)のほとんどが発症時点で心室細動を呈しているが,目撃者がいて早期に除細動できたケース(VF,pulseless VT)では心肺蘇生法の成功率が高い.院外心停止症例の生存に関する日本のデータからも,市民による自動体外式除細動器(automated external defibrillator:AED)(図3-2-1)を使用した早期除細動システム(public access defibrillation:PAD)の普及が重要であり,これによる1カ月後の生存率と神経学的後遺症がほとんどなかった症例数が増加した.
2)非心原性心停止(呼吸原性心停止):
19歳以下の心停止の83%が非心原性心停止と示した研究もある.溺水,銃創,脳卒中,肺血栓塞栓症,異物による気道閉塞(foreign-body airway obstruction:FBAO),致死的喘息,煙の吸入,感電,窒息,中毒,電解質異常,アナフィラキシー,妊婦,高度肥満,傷害などの種々の原因による.特殊な状況下の心停止に対する治療エビデンスは十分ではない.
治療
1)心肺蘇生法(cardiopulmonary resuscitation:CPR):
心肺蘇生法は心停止の早期の認識と救急システムへの通報,胸骨圧迫と人工呼吸による心肺蘇生とAEDの使用による迅速な除細動,二次救命処置(advanced life support:ALS)および心停止後のケアという「救命の連鎖」から成り立っている.
 a)一次救命処置(basic life support:BLS)の適応:成人におけるBLSのアルゴリズムを図3-2-2に示す.まず誰かが倒れるのを目撃した,あるいは倒れている傷病者を発見した場合には周囲の安全を確認した後に反応(意識)の有無を軽くたたくか優しく揺すって評価する.反応がなければ,その場で大声で叫んで周囲の注意を喚起する.周囲の者に頼んで救急システムへ通報しAEDの手配を依頼する.傷病者に反応がなければ呼吸の有無を確認する.市民救助者が呼吸の有無を確認する際には気道の確保を行う必要はないが,医療従事者や救急隊員などは気道確保を行う.呼吸の確認には10秒以上かけないようにし,呼吸がないか異常な呼吸(あえぎ呼吸,死戦期呼吸:gasping)が認められる場合には心停止と判断する.CPRに熟練した救助者の場合は傷病者の呼吸を確認しながら,同時に頸動脈の脈拍を確認してもよい.
 正常な呼吸がないと判断した場合は直ちに胸骨圧迫からCPRを開始する.胸骨圧迫部位は胸骨の下半分とする.その際の目安としては「胸の真ん中」とする.以前のガイドラインでは乳頭間線を目標としていたが信頼に欠けるとされた.胸骨圧迫は手掌の基部を用いて行い,胸骨以外の部位を圧迫しないように注意する.成人心停止傷病者では胸が少なくとも5 cm沈むように圧迫し,決して浅くならないように注意する.小児,乳児では胸の厚さの約1/3を圧迫する(小児,乳児のBLSについては成書を参照されたい).胸骨圧迫は連続的にリズミカルに1分間に少なくとも100回のテンポで行うが,この際胸壁が完全に元の位置に戻るように圧迫を解除することが重要である.中断により心停止の生存率が低下するのでできる限り中断はしない.複数の救助者がいる場合は,救助者が互いに胸骨圧迫の部位や深さ,テンポが適切かを確認する.
 人工呼吸ができる場合は胸骨圧迫と人工呼吸を30:2の比で行う.人工呼吸を行う際には頭部後屈あご先挙上法を用いて気道確保を行う.外傷による心肺停止などで頸椎損傷が疑われる場合は下顎挙上法を用いてもよいが頸椎保護よりも気道確保を優先しなければならない.すべての年齢において人工呼吸の目安は胸の上がりを確認できる程度としCPR中の過換気は避けなければならない.訓練を受けていない市民救助者は胸骨圧迫のみのCPR(hands-only CPR,後述)を行うべきである.訓練を受けた市民救助者であっても,気道を確保し人工呼吸する意思や技術に自信がない場合は胸骨圧迫のみのCPRを実施する.
 いかなる状況におけるCPRでもAEDが到着したら速やかに装着する.装着後AEDによるリズム解析が開始されたら,傷病者に触れないようにする.AEDの指示に従いショックの適応があればショックボタンを押し電気ショックを行う.ショックボタンを押す際にはだれも傷病者に触れていないかを確認する.電気ショック後は脈の確認やリズム解析を行うことなく胸骨圧迫からCPRを再開する.BLSは傷病者に十分な循環が回復し明確な体動がみられるか,あるいは救急隊などの二次救命処置を行うことのできる救助者に引き継ぐまで継続する.AEDを使用している際にはAEDの音声ガイドに従いリズム解析,指示があれば電気ショックを行う.電気ショックが必要ない場合や電気ショックを行った後には直ちに胸骨圧迫からCPRを再開する.心停止の原因が心室細動である場合には,何より電気的除細動が最優先される.心室細動ではより早期に除細動を行うことが除細動の成功に重要であり,AEDを用いた除細動を一次救命処置に位置づけ,一般人によるAED使用の啓発,教育が重視された.日本の31万人に及ぶ院外心停止患者のデータによると,一般人によるAED使用は軽度神経障害を有する1カ月生存率を向上させた.
 胸骨圧迫のみのCPR(hands-only CPR):突然の心停止をきたした傷病者では1分放置するごとに自己心拍の再開率が7〜10%低下し,また目の前で倒れた心原性心停止後の生存率は,胸骨圧迫のみのCPRの場合も胸骨圧迫と人工呼吸の両方を行うCPRのどちらも同様であることが知られている.胸骨圧迫のみのCPRは訓練を受けていない救助者にとっては実施がより容易である.なお,窒息,溺水,気道閉塞,目撃がない心停止,遷延する心停止状態,あるいは小児の心停止においては人工呼吸を組み合わせたCPRを実施することが望ましい.
 b)二次救命処置(advanced life support:ALS):一次救命処置に反応しない傷病者に対しては引き続き二次救命処置が行われるが,いかなる薬物,二次救命処置も質の高い一次救命処置と早期の除細動の効果には及ばないことに留意する.リズムチェック,脈の確認,電気的除細動,気管チューブなどの高度な気管確保器具の挿入,血管確保のための胸骨圧迫の中断は最小限にする.心停止アルゴリズムは質の高いCPRを継続しつつ2分ごとに心電図診断を行うことを基本とし,VF/無脈性VTと診断後は直ちに電気ショックを実施する.電気的除細動後もリズムチェックで持続する心室細動や心室頻拍を認めたら,電気的除細動の再実施とともにアドレナリン(通常1回1 mgを静脈内投与し,3~5分間隔で追加投与)やバソプレシンといった血管収縮作動薬,アミオダロン(300 mg静脈内投与),ニフェカラント(0.3 mg/kg静脈内投与)などの抗不整脈薬を二次救命処置のガイドラインに従って投与する.しかし,血管作働薬や抗不整脈薬の投与が生存率などを改善させる十分なエビデンスはない.VF/VTが続く場合は,電気ショックを繰り返す必要があり,薬剤投与や気道確保を行うにしても電気ショックを遅らせてはならない.無脈性電気活動と心静止の場合は心肺蘇生法の継続と原因検索,対処が重要である.
c)心停止蘇生後の治療:自己心拍再開(return of spontaneous circulation:ROSC)後に入院した心停止患者の生存率を向上するためには複数の専門分野にわたる蘇生後の治療が行われる必要がある.ROSC後に高体温を呈する患者の転帰は不良であり,高体温を予防・治療することは理にかなっている.院外でのVFによる心停止後,心拍が再開した昏睡状態の成人患者には,低体温療法(12~24時間,32~34℃)を施行すべきである.また,ROSC後に12誘導心電図でST上昇または新たな左脚ブロックを呈した院外心停止患者では早期の冠動脈造影とプライマリーPCI(経皮的冠動脈形成術)を考慮すべきである.自己心拍再開直後にはしばしば昏睡状態が認められるが有意な神経学的回復が見込めない患者を識別するのは困難であることに留意しなければならない.
2)学校,地域における緊急時対応プラン:
突然の心肺停止,心肺蘇生法,AEDプログラムに関する詳細な情報を提供する必要がある.生徒学童期からの心肺蘇生法の教育開始が望ましい.小児期の死亡原因は外因性のものが多いが,先天性心臓病,たとえばQT延長症候群,肥大型心筋症などによる内因性心停止も存在する.また若年者には胸部への急激な衝撃による心臓振盪とよばれる心室細動の発生も知られている.第一救助者としての一般市民が心肺蘇生法を行いAEDを使用することは,SCAの生存率を向上させる有効な方法である.
3)倫理的問題:
わが国では蘇生の適応,開始,中止に関する国民的コンセンサスはあいまいであり,医療界での議論も十分ではない.[朔 啓二郎]
■文献
JRC(日本版)ガイドライン作成合同委員会:JRC蘇生ガイドライン2010,へるす出版,東京,2011.
Kitamura T, Iwami T, et al: Nationwide public-access defibrillation in Japan. N Engl J Med, 362: 994-1004, 2010.
Yokoyama H, Nagao K, et al: Impact of therapeutic hypothermia in the treatment of patients with out-of-hospital cardiac arrest from the J-PULSE-HYPO study registry. Circ J, 75:1063-70, 2011.

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