改訂新版 世界大百科事典 「公債の負担」の意味・わかりやすい解説
公債の負担 (こうさいのふたん)
burden of national debt
財政支出を租税ではなく公債によって賄った場合,その負担はどの時点で生ずるか,というのが〈公債の負担〉に関する議論であり,古くから経済学の大きな論争点の一つであった。
最も素朴な立場からすれば,利子支払や償還の際に財政支出が必要とされるから,その時点に負担が発生すると主張される。つまり,国の債務も,家計や企業の債務と同じく,負担を後年度に延期する効果をもつというのである。しかし,公債が内国債である限り,利子支払や償還を受けるのは国民であるから,国全体としてみれば,その時点で負担が生じているとはいえない。逆に,公債を発行した時点で,国全体として利用可能な資源総量が増加することにもならない。つまり,公債の発行は,財政支出と民間支出との間の資源配分には影響を与えるが,異なる時点間の資源配分には影響を与えないことになる。しかし,より詳細にみれば,次のような議論も成立しうる。公債発行は利子率を上昇させるから,民間支出のうちでもとくに設備投資を削減すると考えられる。これによって,資本蓄積量が減少し,したがって将来時点の生産性が低下する。こうして,公債発行は後年度に負担を残すことになる。このような議論は,モディリアニFranco Modigliani(1918-2003)によってなされた。
ところが,この議論には次のような反論もある。公債はいずれは償還されねばならぬことを考えると,公債発行は単に課税の時点を将来に繰り延べる効果しかもたない。仮に人々がこのことを正しく認識するなら,彼らは消費計画を変更しないはずである。そこで,財源調達方式を租税から公債に変更すると,それによって増加した可処分所得は,すべて貯蓄にまわされることとなり,これによって公債が購入される。したがって利子率は上昇しないから,上のような効果も生じない。こうした考え方は,それがD.リカードの著作中にみられることから,しばしば〈リカードの等価定理〉と呼ばれる。
執筆者:野口 悠紀雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報