日本大百科全書(ニッポニカ) 「副腎白質ジストロフィー」の意味・わかりやすい解説
副腎白質ジストロフィー
ふくじんはくしつじすとろふぃー
髄鞘(ずいしょう)の崩壊、神経細胞の変性と、ホルモンを産生している副腎の機能が不全になる疾患。略称ALD(adrenoleukodystrophy)。医療費助成対象疾病(指定難病)に指定されている。X連鎖性潜性遺伝病で、保因者の母親から病因遺伝子をもつX染色体を遺伝した男性が発症する。患者の細胞内には極長鎖脂肪酸(炭素数24~30の脂肪酸)が蓄積し、障害が生ずる。患者の血中の極長鎖脂肪酸濃度が健常者の2~3倍に上昇することが診断に利用されている。
この病気には(1)小児大脳型、(2)思春期大脳型、(3)成人大脳型、(4)小脳脳幹型、(5)副腎脊髄ニューロパシー(AMN:adrenomyeloneuropathy)、(6)アジソンAddison型などの病型がみられる。病型の違いには、同じ遺伝子の変異の違いのほか、異なる遺伝子変異の関与も考えられている。
(1)小児大脳型は患者の30~35%を占める。多くは5~10歳に、視力や聴力の障害、知能の遅れ、足を引きずって歩くなどの症状が出現し、急速に進行する。
(2)思春期大脳型は4~9%を占める。思春期に小児大脳型と似た症状が出現するが、進行はゆっくりで、進行しない場合もある。
(3)成人大脳型は20%を占め、成人期に発症する。性格の変化、知能の低さ、精神症状などがみられ、病気は進行する。
(4)小脳脳幹型は8%を占める。協調的動作や運動などの障害(小脳症状)がみられる。
(5)AMNは思春期から成人期以降に発症する。歩行障害があり、知覚障害、インポテンス、尿失禁などの症状がみられ、副腎不全症状を伴うこともある。進行はゆっくりで、大脳型へ移行する例もある。
(6)アジソン型の発症は2歳から成人までみられる。元気のなさ、体重減少、皮膚の色素沈着等の副腎不全症状で発見され、その後大脳型やAMNに移行する。
治療は、低極長鎖脂肪酸食とローレンツォLorenzo油の服用による食事療法や造血細胞移植が行われる。造血幹細胞に遺伝子を組み込む遺伝子治療も試みられている。痙性対麻痺(けいせいついまひ)に対しては薬物療法と理学療法が、副腎不全に対してはステロイド治療が行われる。
[大久保昭行 2016年6月20日]