視覚のうち,形態覚,すなわち物を見分ける能力をいい,臨床的には2点を区別して認識できる最小の大きさで表す(最小分離閾(いき))。視力の単位は国際協定により決められ,視標とするランドルト環Landolt ring(太さ1.5mm,直径7.5mm)の切れ目(1.5mm角)を5m離れて見分けられる視力を〈1.0〉とする。この切れ目の視角visual angleはほぼ1分(1度の1/60)である。外界の1点と眼を結ぶ線を方向線というが,2本の方向線のはさむ角が視角であり,この逆数で視力が表される。そこで,この2倍の大きさ,あるいは半分の距離で見分けられるとき,視角は2分となり視力は〈0.5〉となる。視力は黄斑部中心窩(か)における中心視力central visionが最もよく,中心からはずれると視力は急激に低下する。中心外(周辺)視力は,生理的には視野visual fieldに相当する重要な部分である。
視力は通常片眼ずつ検査する。一定の照度をもった試視力表によって,一定の明るさの室内で検査する。遠方を見うる視力を遠見視力というが,遠見視力の場合,検査の距離は5m。試視力表は前記のランドルト環に従い,0.1~2.0の視標が配列されている。0.1~1.0の間は便宜上0.1間隔の等差級数である。ランドルト環だけではなく,ひらがな,かたかな,数字,絵などを併記したものも用いられている。0.1以下の視力では視標までの距離を近づけて測定し,眼前3mで0.1の視標が識別できるときは0.06,同じく50cmでは0.01となる。これ以下は順に指数弁(黒地前に指を出して数を数える),手動弁(眼前で手を動かす),光覚弁(フラッシュライトの光を眼に送って明暗を識別)といい,明暗がわからない状態で視力を0とする。片眼を遮へいすると潜伏眼振や過剰調節が現れることがある。この場合,両眼を開放し,かつ片眼ずつの視力検査を行う。また左右の視力に大きな差がない場合は両眼の同時視力による累加現象として約10%強,視力が上昇する。
視力は,眼鏡その他の矯正手段によらない裸眼視力と,眼鏡あるいはコンタクトレンズなどを装用して得た最良視力すなわち矯正視力とがあるが,単に裸眼視力だけでは視力の良否は判断できない。
遠見視力には検査の対象となる眼の調節をできるかぎり休止させた状態が必要であり,この矯正状態で屈折異常が測定できる。これに対し,読書距離とされる30cm付近においた視標(視角を遠見視力の場合と同じにする)による視力が近見視力であり,調節障害,老視の検査として裸眼視力と矯正視力をみる。多くは遠見視力と近見視力は並行するが,未発達な子どもの視力や心因性疾患のあるものには一致がみられない。
生まれて直後は黄斑部中心窩が解剖学的に未完成であり,視機能も多くは期待できないが,最近の実験では,胸に抱かれた人の顔の表情を見分ける程度の視力はあると考えられている。生後6ヵ月で0.1,3~5歳までにほぼ1.0まで視力が発達する。小児期あるいは弱視眼では,単一視標で測定できる視力が併記された試視力表上によっては測定できないことがある。これを読みわけ困難といい,正常児でも10歳前後までみられる現象である。年少者の視力測定および結果判定には慎重な注意が必要である。
点視標(夜空の星など)を認めうる最小視能(点視力)や,物体の輪郭のずれを認める副尺視力などがあり,最小分離視力より数倍の感度が必要である。
→検眼
執筆者:小林 義治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
目の解像力であり、実際には2点を2点として識別できる能力をいう。眼外の2点が眼球の光学的中心(結点)と結んでつくる角度を視角といい、目が見分けられる最小の2点がつくる視角は、最小視角とよばれる。したがって、視力は最小視角で表すことができるわけである。視力0.5とか1.2という値は、最小視角を角度の単位である分(ふん)で表した数字の逆数で表されている。視力検査に使われるランドルト環は、5メートルの距離から見たとき、環の切れ目の視角が10分のものが0.1、視角が1分のものが1.0といったようにつくられている。
正常者の視力は、視標の明るさや視標と背景とのコントラストなどによって変化する。したがって、視力測定には基準が設定されている。また一般に、視力というのは網膜の黄斑(おうはん)中心窩(か)の視力のことをさしており、この部の視力が最高で、中心窩を離れるにつれて視力が急激に低下する。
なお、最良の最小視角が得られるような照明と測定装置を使った実験によると、最小視角は30秒ないし1分、視力にして2.0ないし1.0であるという。これは視力のもっとも鋭い中心窩の錐(すい)(状)体の大きさによるものであり、2点によって網膜につくられる像の強度分布の山の間に一つの錐体がなければならない。いいかえれば、2点間には錐体2個分の視角に相当する距離がなければならないことになる。
[松井瑞夫]
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…本来は,眼が見えにくくなったときに,その原因をさぐるためにおこなわれる眼の検査一般を指す言葉であるが,現在では,(1)視力検査と眼鏡矯正のための検査,(2)眼底検査に用いる検眼鏡検査,の二つの意味に狭義に使われ,一般では(1)を指すことが多い。
[視力検査と眼鏡矯正]
視力を測定し,近視,遠視,乱視など屈折異常の有無を調べ,屈折異常や老視(老眼)のある場合は,最適の眼鏡の度数を決定するまでの検査。…
…水晶体が混濁した状態をいい,俗に〈しろそこひ〉ともいう。視力障害,失明の原因となる最も一般的な疾患である。水晶体は虹彩の後方,硝子体の前方に位置し,チン小帯によって眼内に保持された透明な組織であり,カメラでいえばちょうどレンズに相当する。…
…神経細胞からの神経繊維の集まる視神経乳頭があり,その耳側にある円形の部分が黄斑である。黄斑の中心は中心窩といい,最も視力がよい。視神経乳頭からは,神経のほか網膜の動脈と静脈が出入する。…
※「視力」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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