かつて日本では物療,理療などとも呼ばれ,物理的な手段を用いて治療するという意味をもっていた。歴史的にマッサージが多く用いられ,そのほかに温熱や電気を利用し,どちらかといえば内科的疾患を対象としたものが物療と呼ばれ,これに対して整形外科疾患を対象に手術後のいわゆる後療法や変形矯正のための徒手訓練を理療と呼ぶ傾向があった。以上はすべて今日の理学療法に含まれるが,さらにリハビリテーション医学において運動機能を回復させる,運動の再教育という目標も加わることになった。すなわち理学療法は,物理療法と運動療法を組み合わせて,運動障害の改善,治療の分野に確固たる地位を占めるに至ったのである。
理学療法の原理は,(1)組織,循環の維持および改善,(2)関節可動域の維持および改善,(3)筋力の維持および改善,(4)痛みや浮腫,痙攣(けいれん)などの緩和をめざした緩解治療,(5)原疾患の合併症として栄養障害や萎縮,癒着や拘縮などの予防,(6)全身状態の改善,(7)種々の器械や装具,自助具の使用による運動性の維持および改善,である。
物理療法のうちの温熱療法には,伝導熱としてのホットパックやパラフィン浴,温泉などの全身浴があるが,そのほかに赤外線などの光線,超短波や極超短波などのジアテルミーdiathermyが用いられる。逆に寒冷療法も疼痛に対する治療としてときどき用いられる。
運動療法は,筋力増強,麻痺回復促進訓練,関節拘縮改善,歩行訓練などを含んでいる。たとえば筋力増強のためには最大筋力に近い筋収縮を繰り返すことが効果的で,そのために,筋収縮のうちの等張性収縮(重い物を重力に抗して持ち上げる動作のような関節運動)よりも等尺性収縮(動かせない物体に抵抗して最大の力を発揮するような関節運動のない筋収縮)を用いている。また中枢神経のコントロールが障害されている患者に対しても,積極的に刺激を加えて運動反応をひき出す方法が用いられている。近年ファシリテーション・テクニックfacilitation technicが神経生理学的原理をふまえて運動能力の改善に有効であると報告されている。これは,実際には運動制御機構の乱れに対して種々の手技を用いて,知覚と運動の相互反応を繰り返しつつ制御機構を再統合するもので,実際には促通facilitationのほかに抑制inhibitionの技法をも用いており,その体系は諸説によりそれぞれかなり異なる。
執筆者:岩倉 博光
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
原則として理学療法士によって行われる療法をいい、「理学療法士及び作業療法士法」によれば、理学療法とは、身体に障害のある者に対し、主としてその基本的動作能力の回復を図るため、治療体操などの運動を行わせたり、電気刺激、マッサージ、温熱その他の物理的手段を加えることをいう、と定義されている。かつて日本では物理療法とよばれ、物理的手段を用いることに重点を置いた療法をさし、物療とか理療と略称されていた。そして、内科的疾患に対して行う場合に物療(物理療法)といい、整形外科的疾患に対して行う場合には理療(理学療法)とよんで漠然と区別していたが、現在では主としてリハビリテーション医学の領域で用いられ、理学療法は運動療法と物理療法を併用するものとなり、診療科目名として理学診療科が認められていたが、1996年(平成8)の医療法施行細則の改正に基づいて廃止され、「リハビリテーション科」が標榜診療科として認められることになった。
理学療法の重要な要素となる運動療法は、関節可動域の維持や拡大、筋力の増強に役だつ治療体操などから歩行訓練のような目的をもった運動まで含み、障害に応じて多目的の運動療法が処方される。すなわち、長期臥床(がしょう)や四肢の固定、麻痺(まひ)などによって引き起こされる関節拘縮や筋萎縮(いしゅく)などの低運動疾患に対し、運動機能低下の予防および機能維持のために行われる。したがって、理学療法における物理的手段を用いる物理療法は、運動療法の補助手段として行われることが多い。
[永井 隆]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…最も古くから行われてきた治療法の一つで,東洋医学でもあんまや指圧療法などで行われてきた。西洋医学で行われる理学療法の一つとしてのマッサージは,フランス,ドイツなどで発達し,日本へは明治中期に伝えられた。 マッサージは運動療法とともに行われることが多いが,この両者は区別すべきである。…
… 第2次大戦中,アメリカ空軍の軍医であったラスクHoward A.Rusk(1901‐89)は,軍病院に放置されていた多数の戦傷兵に回復訓練をし,独立した生活を可能にさせ,さらに労働に復帰させた。彼は多数の理学療法士,作業療法士とともに努力して医学的リハビリテーションの体系を確立していった。戦後アメリカの影響を強く受けた日本の医学面にも,こうしたリハビリテーション医学が浸透してきた。…
※「理学療法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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