尿失禁(読み)ニョウシッキン

大辞林 第三版の解説

にょうしっきん【尿失禁】

尿を無意識に漏らしてしまう状態。括約筋そのものに異常がある場合、大脳中枢の機能障害や深い眠りで大脳の抑制がきかない場合、腹圧が急に上昇した場合などに起こる。おもらし。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

尿失禁
にょうしっきん

尿が不随意に排出する状態をいい、次のような種類がある。
(1)真性尿失禁 排尿と無関係に絶えず尿が流出してしまうものをいい、尿管が外陰部に開口する先天性の形態異常や尿路と腹壁あるいは腟(ちつ)との間に瘻孔(ろうこう)ができている場合にみられる。神経因性膀胱(ぼうこう)のうちの反射性膀胱の場合は、膀胱に尿があまりためられないために真性尿失禁をおこす。
(2)腹圧性尿失禁 咳(せき)、くしゃみ、重いものを持ち上げたときに少量の尿が不随意的に漏れる状態をいう。若い時期におこることもあるが、一般には分娩(ぶんべん)、婦人科手術および月経閉止後、泌尿器周辺の手術後など、後天的に尿道の緊張が減少した場合に多い。スポーツの運動中にもおこる。原因不明のものもある。
(3)切迫性尿失禁 尿意を感ずるとがまんできず、便所に行く前に漏らしてしまうものをいう。脳卒中、神経因性膀胱などで大脳の膀胱に対する抑制作用が減退したとき多くみられる。また、膀胱炎などで、尿が非常に近くなるとがまんできずに漏らしてしまうことがある。
(4)溢流(いつりゅう)性尿失禁 膀胱に過剰の尿がたまって尿道からあふれ出てくる状態をいい、前立腺(せん)肥大症など慢性尿道通過障害のあるときにおこる。
(5)機能性尿失禁 排尿機能に異常がなくても、運動障害(足などが不自由になる)や大脳の機能障害により、トイレに行くまでに尿を漏らしてしまうものをいう。高齢者に多くみられる。
(6)反射性尿失禁 膀胱内に尿がたまると膀胱収縮反射が不随意に引き起こされ、尿が漏れるものをいう。
(7)遺尿症 膀胱に尿はたまるが無意識のうちに排尿がおこるもので、一般には無意識排尿が夜間におこる夜尿症を意味する。これは、4歳以上の年齢で、昼間の排尿調節は完全であるのに就寝中排尿を自覚できず漏らすものをいう。排尿に関する大脳調節機構がまだ成熟していないのが原因と考えられている。また、精神心理的ストレスなどが原因となっておこる場合もある。思春期になり身体的に成熟してくると、大部分は自然治癒する。なお、ごくまれではあるが、先天的な膀胱・尿道の形態異常を合併しているものがある。
 日本では、60歳以上の高齢者の5割以上に尿失禁があるとされる。尿失禁は、それ自体は生命にかかわる重篤な疾患ではないが、クオリティ・オブ・ライフquality of life=QOL(生活の質)には大きな影響がある。また、高齢化が進行する社会において、尿失禁にかかる費用も増大している。こうした状況のなか、尿失禁の受診・診断から軽快あるいは治癒させて日常生活を快適に過ごすためのシステムが必要とされ、2004年(平成16)厚生労働省が尿失禁ガイドラインを策定した。科学的な根拠に基づく尿失禁の基礎知識、適正な診断、治療、生活指導、介護方法などが示されている。[土田正義]

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精選版 日本国語大辞典の解説

にょう‐しっきん ネウ‥【尿失禁】

〘名〙 無意識のうちに尿を排出すること。失禁。

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EBM 正しい治療がわかる本の解説

尿失禁

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 自分の意思とは関係なく、尿が漏れてしまうことを尿失禁(にょうしっきん)といいます。せきやくしゃみ、重い物を持ち上げたときなどにおこる「腹圧性(ふくあつせい)」、トイレに行こうとして間に合わずにおこる「切迫性(せっぱくせい)」、なんらかの病気が原因で膀胱(ぼうこう)に尿がたまったままになっていて溢(あふ)れでてしまう「溢流性(いつりゅうせい)」、排尿機能には異常がないけれど認知症や身体運動障害のためトイレまでたどり着けない「機能性」、排尿にかかわる筋肉が脊髄損傷(せきずいそんしょう)などによって過活動となり反射性に失禁してしまう「反射性」、腹圧性と切迫性の症状が混合した「混合性」など、さまざまなタイプがあります。
 尿失禁があると、羞恥心(しゅうちしん)にさいなまれたり、自尊心が傷ついたりすることが多く、社会参加に消極的になるなどの問題が生じがちです。適切な治療やケアで日常生活に支障がでないようにすることが大切です。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 腹圧性尿失禁は尿道括約筋(にょうどうかつやくきん)のゆるみが原因でおこります。尿道括約筋はふだん膀胱の出口を締めつけて尿が漏れないように働いていて、排尿時にだけ締めつけをゆるめます。女性は男性に比べて尿道が短いことや、男性ほど尿道括約筋が発達していないために、締めつけがゆるみやすくなっています。さらに、尿道括約筋のコントロールに関係する女性ホルモンの分泌(ぶんぴつ)が閉経(へいけい)で低下したり、出産や加齢のために骨盤の筋肉が弱ったりしている場合も、腹圧性尿失禁をおこしやすいといえます。
 切迫性尿失禁は膀胱が意思に反して勝手に収縮しておこるものです。脳血管障害のために切迫性尿失禁となることもしばしばあります。
 混合性の尿失禁では前述の二つの尿失禁の症状がいろいろな程度でみられます。
 溢流性尿失禁は、なんらかの病気が原因で膀胱の収縮力が低下し、膀胱内にいつも尿がたまった状態となり、尿が溢れて少しずつ漏れるためにおこります。おもな病気として、糖尿病性ニューロパチー、脳梗塞(のうこうそく)脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)パーキンソン病前立腺肥大症(ぜんりつせんひだいしょう)、それに神経因性膀胱(しんけいいんせいぼうこう)などがあげられます。
 機能性尿失禁は蓄尿、排尿機能に関係なく、認知症や身体運動障害のためにトイレにたどり着けず、尿を漏らす状態をいいます。
 反射性尿失禁は尿意がないのに、膀胱内に尿がたまると不随意(ふずいい)に膀胱が収縮し、尿が漏れるためにおこります。頸髄損傷など上位の脊髄損傷などでみられます。

●病気の特徴
 腹圧性尿失禁は40歳代、50歳代の女性の3人に1人は経験しているともいわれています。男性では年齢とともに前立腺疾患が増加することもあり、患者数が増えます。切迫性尿失禁は高齢者に多くみられます。溢流性尿失禁は子宮体がん子宮頸がん直腸がんなどの手術のあとで膀胱の末梢神経(まっしょうしんけい)が障害を受けた場合などにみられるものです。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

[治療とケア]排泄介助(下部尿路リハビリテーション)を行う
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] あらかじめ決めておいた時間ごとに、あるいは本人の排尿パターンを検討して適切な時間にトイレに誘導する時間排尿誘導や、排尿習慣の再学習は、切迫性尿失禁、腹圧性尿失禁に有効であることが比較的信頼性の高い臨床研究によって報告されています。(1)

[治療とケア]膀胱訓練(下部尿路リハビリテーション)を行う
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 尿意があってから排尿をがまんする練習や、時間帯を決めて排尿する練習などを行う膀胱訓練は、切迫性尿失禁や腹圧性尿失禁、混合性尿失禁に有効であることが非常に信頼性の高い臨床研究によって報告されています。(2)

[治療とケア]骨盤底筋訓練(こつばんていきんくんれん)(下部尿路リハビリテーション)を行う 
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] ケーゲル法と呼ばれる骨盤底筋体操を正しく行うと、腹圧性尿失禁の症状が改善します。このことは非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。(3)

[治療とケア]抗コリン作用薬を用いる
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 抗コリン作用薬は膀胱排尿筋の収縮を直接抑制する作用があり、切迫性尿失禁に効果があることが非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。(4)

[治療とケア]フラボキサート塩酸塩を使用する
[評価]☆☆
[評価のポイント] 有効性ははっきりとは確認されていませんが、専門家の意見や経験により切迫性尿失禁に使用されています。

[治療とケア]三環系抗うつ薬を使用する
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 切迫性尿失禁で効果がみられることが、比較的信頼性の高い臨床研究で報告されています。(5)

[治療とケア]α刺激薬を用いる
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 一部のα交感神経刺激薬は、症状だけでなく排尿状態の検査所見も改善する効果があり、腹圧性尿失禁に有効であることが非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されていますが、日本では尿失禁に保険適用が認められている薬剤はありません。(6)

[治療とケア]α遮断薬(しゃだんやく)を用いる
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 溢流性尿失禁に有効であることが、非常に信頼性の高い臨床研究によって報告されています。(7)

[治療とケア]エストロゲンを使用する
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 閉経後の女性の場合、経口・経腟的(けいちつてき)・膀胱内注入などの方法でエストロゲンを補充することで、切迫性尿失禁、混合性尿失禁で症状が有意に改善することが報告されています。(8)

[治療とケア]β刺激薬を使用する
[評価]☆☆
[評価のポイント] 有効性を示すデータはありませんが、専門家の意見や経験から支持されています。

[治療とケア]コラーゲン注入療法を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 尿道の周囲にコラーゲンを注入して尿道を締める力を強くします。約50パーセントで治癒し、67パーセントで症状が改善されたという報告があります。再発率が高く、長期成績は不明です。(8)

[治療とケア]膀胱頸部挙上術を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 女性の場合、膀胱頸部を吊り上げて固定する膀胱頸部挙上術が多く行われています。開腹術、腹腔鏡、経腟による方法があります。一定の効果を有していることが、臨床研究によって確認されています。(9)

[治療とケア]スリング手術を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] ポリプロピレン製の特殊なメッシュテープを用い、瞬間的に腹圧が上がったときだけ尿道がうしろに動かないように支えます。これを埋め込む手術をした女性の腹圧性尿失禁の患者さんの90パーセントは症状が改善したことが、臨床研究によって確認されています。(10)

[治療とケア]自己導尿を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 自己導尿とは、自分でカテーテル(ゴム製の管)を尿道から挿入し、膀胱から尿をとりだす方法です。溢流性尿失禁で患者さん本人あるいは介護者が行える場合は検討の対象となります。(6)


よく使われている薬をEBMでチェック

抗コリン作用薬
[薬名]ポラキス(オキシブチニン塩酸塩)(4)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]バップフォー(プロピベリン塩酸塩)(8)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]プロ・バンサイン(プロパンテリン臭化物)(10)
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] オキシブチニン塩酸塩、プロピベリン塩酸塩は、切迫性尿失禁、腹圧性尿失禁に有効であるということが非常に信頼できる臨床研究によって確認されています。プロパンテリン臭化物については、信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。

フラボキサート塩酸塩
[薬名]ブラダロン(フラボキサート塩酸塩)
[評価]☆☆
[評価のポイント] 有効性ははっきりとは確認されていませんが、専門家の意見や経験より切迫性尿失禁に使用されています。

三環系抗うつ薬
[薬名]トフラニール(イミプラミン塩酸塩)(5)
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 切迫性尿失禁で効果がみられることが、比較的信頼性の高い臨床研究で報告されています。

α刺激薬
[薬名]フェニルプロパノールアミン(日本未発売)(6)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 腹圧性尿失禁に有効であることが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。

α遮断薬
[薬名]ハルナール(タムスロシン塩酸塩)(7)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]フリバス(ナフトピジル)(7)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]エブランチル(ウラピジル)(7)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 前立腺肥大症などにともなう溢流性尿失禁に効果があることは信頼性の高い臨床研究によって報告されています。

エストロゲン
[薬名]プレマリン(結合型エストロゲン)(8)
[評価]☆☆☆
[薬名]エストリール/ホーリン(経口、経腟エストリオール)(8)
[評価]☆☆☆
[薬名]エストラーナ/ディビゲル/ジュリナ(経皮、経口エストラジオール)(8)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 閉経後の女性の場合、経口・経腟的・膀胱内注入などの方法でエストロゲンを補充することで、切迫性尿失禁、混合性尿失禁で症状が改善することが報告されていますが、長期の使用により、子宮体がんや乳がんなどのリスクが高くなるため注意が必要です。

β刺激薬
[薬名]スピロペント(クレンブテロール塩酸塩)
[評価]☆☆
[評価のポイント] クレンブテロール塩酸塩の効果は、専門家の意見や経験から支持されています。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
軽い腹圧性には体操と薬物療法
 女性の腹圧性尿失禁は、比較的軽症であれば、まず骨盤底筋体操などの下部尿路リハビリテーションを行い、症状が持続するようであればβ刺激薬を使用します。それでも症状が改善しない場合や、中等度~高度の失禁で日常生活に支障がでる場合にのみ、スリング手術や膀胱頸部挙上術などの手術を考慮するのが一般的です。

切迫性には抗コリン作用薬が有効
 切迫性尿失禁については、意思でコントロールできない膀胱の収縮を抑制する目的で、膀胱平滑筋(へいかつきん)に作用するポラキス(オキシブチニン塩酸塩)がよく用いられます。これらの抗コリン作用薬は有効ですが、口渇感(こうかつかん)(口の渇き)、便秘、眼のかすみなどの副作用のためにしばしば使用が困難になります。

溢流性にはα遮断薬と自己導尿
 溢流性尿失禁の治療には、α遮断薬などを用い、必要に応じて導尿を行います。
 導尿は以前考えられていたほど厳密に無菌操作が必要というわけでなく、カテーテルを流水で洗って行っても尿路感染の頻度(ひんど)は上がらないと考えられるようになってきました。やり方さえマスターすれば、家庭でも比較的簡単にできるでしょう。
 もちろん、原因となる糖尿病性ニューロパチーや脳梗塞、脊柱管狭窄症、パーキンソン病などに対する治療は、同時に行う必要があります。

(1)Colling J, Ouslander J, et al. The effects of patterned urge-response toileting(PURT) on urinary in continence among nursing home residents. J Am Geriatr Soc. 1992;40:135-141.
(2)Fantl JA, Wyman JF, et al. Efficacy of bladder training in older women with urinary incontinence. JAMA. 1991;265:609-613.
(3)Hay-Smith EJ, Bo K, Berghmans LC, et al. Pelvic floor muscle training for urinary incontinence in women (Cochrane Review). Cochrane Database Syst Rev. 2001;(1):CD001407.
(4)Tapp AJ, Cardozo LD, et al. The treatment of detrusor instability in post-menopausal women with oxybutynin chloride: a double blind placebo controlled study. Br J Obstet Gynaecol. 1990;97:521-526.
(5)Castleden CM, Duffin HM, et al. Double-blind study of imipramine and placebo for incontinence due to bladder instability. Age Ageing. 1986;15:299-303.
(6)泌尿器科領域の治療標準化に関する研究班. EBMに基づく尿失禁診療ガイドライン2004. じほう. 2004.
(7)Madersbacher S, Alivizatos G, Nordling J, et al. EAU 2004 guidelines on assessment, therapy and follow-up of men with lower urinary tract symptoms suggestive of benign prostatic obstruction. Eur Urol. 2004 Nov;46:547-554.
(8)日本排尿機能学会女性下部尿路症状診療ガイドライン作成委員会:女性下部尿路症状診療ガイドライン2013.リッチヒルメディカル. 2013.
(9)Persson J, Wolner-Hanssen P, et al. Laparoscopic Burch colposuspension for stress urinary incontinence: a randomized comparison of one or two sutures on each side of the urethra. Obstet Gynecol. 2000;95:151-155.
(10)Liapis A, Bakas P, Creatsas G. Management of stress urinary incontinence in women with the use of tension-free vaginal tape. Eur Urol. 2001;40:548-551.

出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報

世界大百科事典内の尿失禁の言及

【失禁】より

…不随意に尿や便をもらす状態をいう。尿をもらすものを尿失禁,便をもらすものを大便失禁という。尿失禁には以下のものがある。…

※「尿失禁」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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