改訂新版 世界大百科事典 「加法過程」の意味・わかりやすい解説
加法過程 (かほうかてい)
additive processes
時間の推移とともに変化していく偶然現象を数量的に記述する確率過程の一種である。ランダムウォークのように時刻nでその値がXnであるとき,次の時刻までに変化した量Xn+1-Xnはn+1回目の試行のみによって定まるので,Xnも含めそれ以前の値と独立になる。このように増分が過去と独立になるような確率過程を加法過程,または独立増分過程と呼ぶ。連続時間をもつ確率過程X(t)についても同様にして,時刻tから後の時刻t+h(h>0)までの変移X(t+h)-X(t)がt以前の値{X(s);s≦t}と独立になるものを加法過程と呼び,応用面では,理想的なゆらぎやノイズなどの数学的記述と考えられている。とくにX(t+h)-X(t)の分布がtに無関係なとき時間的に一様であるという。ウィーナー過程(ブラウン運動)やポアソン過程はそのような加法過程の例であり,前者は見本関数が連続なものとして特徴づけられる。互いに独立なk個のポアソン過程P1(t),P2(t),……,Pk(t)があるとき,その一次結合X(t)=u1P1(t)+u2P2(t)+……+ukPk(t)をとってもやはり加法過程であり,その見本関数は階段関数で跳びはu1,u2,……,ukの組合せである。X(t)の平均値はtの一次関数でX(t)からこれを減じても,見本関数が跳びのみで特徴づけられることに変りはない。一般の時間的に一様な加法過程が,このような過程のある意味での極限と,それに独立なウィーナー過程の定数倍とに分解されることが知られており,これを伊藤=レビの分解定理と呼ぶ。
執筆者:飛田 武幸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報