改訂新版 世界大百科事典 「十便十宜図」の意味・わかりやすい解説
十便十宜図 (じゅうべんじゅうぎず)
日本文人画の大成者といわれる池大雅,与謝蕪村の合作。清初の文人李漁の別荘であった伊園での生活の良さ,便利さを賞賛した詩《十便十二宜詩》の詩意をくんで描いたもので,十便を大雅が,十二宜のうちの十宜を蕪村が描いている。十便は,伊園での隠遁生活の不便さを問う訪客に,巷間での生活よりもこんなに便利な点があると答えた内容を描いたもので,大雅は自然に対する人間の営み,その触れ合いの機微を個性豊かに,かつ大きくゆったりと描いている。これに対し蕪村は,千変万化する自然の妙を詠じた十宜詩の詩意を十分にくみ取り,微妙に変化する自然を大観的かつ忠実に描いている。蕪村の手になる十宜図中の一つに記された款記により,明和8年(1771)大雅49歳,蕪村56歳の時の制作であることがわかる。国宝。
執筆者:佐々木 丞平
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報