日本大百科全書(ニッポニカ) 「千歯扱」の意味・わかりやすい解説
千歯扱
せんばこき
稲・麦の脱穀機。竹とかカシや鉄製の歯を櫛(くし)の歯のように並べて木の台に固定し、それに穂をかけて穀粒を扱(こ)き落とす。古くから脱穀には扱箸(こきはし)が用いられてきたが、江戸中期にこの道具が発明されてから、およそ2倍半も能率がよくなった。このため脱穀に要する労働力が省かれ、後家(ごけ)が生業の手段を失うようになったとして、「後家倒し」の異名も生まれた。幕末から明治にかけて伯耆(ほうき)の倉吉、若狭(わかさ)の早瀬、佐渡(さど)の羽茂(はもち)などの鍛冶(かじ)集落が千歯扱の著名な産地を形成し、行商や出職(でしょく)の形をとって全国に販路を広げた。近代になって足踏み・動力脱穀機が普及してからも、穀粒を傷めないといって種籾(もみ)をとるのには千歯扱を用いる農家もあった。
[木下 忠]
『日本常民文化研究所編・刊『紀年銘民具・農具調査 東日本編・西日本編』(1980、81)』