厳・慈・美(読み)いつくし

精選版 日本国語大辞典 「厳・慈・美」の意味・読み・例文・類語

いつくし【厳・慈・美】

〘形シク〙
① 霊妙である。威力に満ちている。荘厳である。神や現人神(あらひとがみ)としての天皇および仏などに関していう。
万葉(8C後)五・八九四「そらみつ 大和(やまと)の国は 皇神(すめかみ)の 伊都久志吉(イツクシキ)国」
源氏(1001‐14頃)澪標「いつくしき神宝(かむだから)をもて続けたり」
② いかめしい。威厳がある。高貴だ。また、気品や威厳のある美しさである。もとは天皇家の血筋の人にいうことが多い。
※源氏(1001‐14頃)若菜上「いつくしくあざやかに、目も及ばぬここちするを」
※太平記(14C後)五「さしも厳(イツク)しかりつる女房、忽ちに伏長(ふしたけ)二十丈ばかりの大蛇と成て」
③ 人や事物が美しい。美麗だ。
※応永本論語抄(1420)八佾「哀窈窕とは、常に女の色のいつくしきを窈窕と云が其義に非ず」
俳諧・新花摘(1784)「いつくしききぬをたち縫て有りけるが」
[語誌](1)「いつ(厳)」の派生語で、本来は神や天皇の威厳を示し、平安朝においても皇族に用いられる例が多い。元来は美麗の意味はなく、「源氏物語」においても基本的にはそれが守られているが、端麗な女性美としても通用する一面も生じている。
(2)室町時代以降、大切にする「いつく」や慈愛の「うつくし」との混同が生じ、更にそれが進むと「いつくしむ」という動詞まで派生し、逆に本来的な霊威概念は後退する。
いつくし‐が・る
〘他ラ四〙
いつくし‐げ
〘形動〙
いつくし‐さ
〘名〙

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

今日のキーワード

自動車税・軽自動車税

自動車税は自動車(軽自動車税の対象となる軽自動車等および固定資産税の対象となる大型特殊自動車を除く)の所有者に対し都道府県が課する税であり、軽自動車税は軽自動車等(原動機付自転車、軽自動車、小型特殊自...

自動車税・軽自動車税の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android