日本大百科全書(ニッポニカ) 「口底炎」の意味・わかりやすい解説
口底炎
こうていえん
下顎(かがく)の歯の歯周炎、抜歯創、下顎骨骨折、顎下腺(せん)炎、舌下腺炎、下顎骨骨膜炎あるいは骨髄炎などから感染が広がって口底部に炎症が波及した症状をいう。
口底部にはさまざまな解剖上での隙(げき)(空洞的な部位)が存在し、相互に連絡しながら胸部にまで達している。そのため、口底に炎症を生じると口底部全体に広がりやすく、重篤な症状を呈することが多い。初めに舌下部あるいは顎下部の腫脹(しゅちょう)、疼痛(とうつう)、発熱がみられ、さらに舌の挙上の際の痛み、嚥下(えんげ)痛、談話障害などを生じ、全身状態も悪化する。治療法は、まず局所および全身の安静を保ち、化学療法剤の投与を行う。膿瘍(のうよう)が形成されれば、切開して膿を排出させる。炎症が限局せずに他部位の隙に波及した場合には早めに切開し病巣を開放にする。口腔(こうくう)にみられる重篤な炎症性疾患であるが、近年、抗生物質の発達により発現頻度は小さくなっている。
[土谷尚之]