唄浄瑠璃(読み)ウタジョウルリ

デジタル大辞泉 「唄浄瑠璃」の意味・読み・例文・類語

うた‐じょうるり〔‐ジヤウルリ〕【唄浄瑠璃】

浄瑠璃分類の一。語り物である義太夫節に対して、歌い物要素を加味した浄瑠璃。大薩摩おおざつま一中いっちゅう河東かとう薗八そのはち富本常磐津ときわず清元新内などをいう。
長唄一種で、浄瑠璃の語り物の要素を加味したもの。明和(1764~1772)のころ富士田吉治が始めた。

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精選版 日本国語大辞典 「唄浄瑠璃」の意味・読み・例文・類語

うた‐じょうるり ‥ジャウルリ【唄浄瑠璃】

〘名〙
① 浄瑠璃の様式による分類名。唄がかった浄瑠璃の意で、大薩摩、一中、河東、薗八(そのはち)など、謡い物に近づいた浄瑠璃を、語りの要素の強い義太夫節と区別して呼ぶ。
歌舞伎・吹雪花小町於静(お静礼三)(1867)三幕「眼が悪いのも厭はずに仲間の子供を呼集め、唄浄瑠璃の稽古して」
俗曲の一種。長唄に浄瑠璃の節を加味したもの。宝暦(一七五一‐六四)ごろ、富士田吉治(次)に始まる。
※絵本戯場年中鑑(1803)上「富士田吉次 楓江と世によぶ〈略〉世に長唄といえるを流行(はやら)せし人にて、その中にも唄ぜうるりといふ有」
③ 歌舞伎の下座音楽で、浄瑠璃味を唄に加えたもの。
※歌舞伎・桜姫東文章(1817)発端「時の鐘、波の音にて幕明く。と直に唄浄瑠璃になる」

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改訂新版 世界大百科事典 「唄浄瑠璃」の意味・わかりやすい解説

唄浄瑠璃 (うたじょうるり)

三味線音楽の一種。浄瑠璃の味を持たせて歌う長唄。明和(1764-72)のころ富士田吉次(治)が歌い出した新傾向の長唄。それまでの長唄は二上りか三下りを基調としていたのに対し,浄瑠璃の基本である本調子で歌った長唄をさす。内容にも物語的要素が強い。しかし今日のふつうの長唄との区別はつけにくい。代表曲に《吉原雀》(1768),《隈取安宅松(くまどりあたかのまつ)》(1769)がある。その後の長唄の多様化は,唄浄瑠璃の部分を発展させ,また浄瑠璃系でも二上りや三下りを採り入れ,語り方を唄に近づけたので,今日の三味線音楽はすべて唄浄瑠璃的である。なお,〈歌浄瑠璃〉と書いて〈肴(さかな)浄瑠璃〉の別名とする説もあるが,これでは《宮薗新曲集》の作品だけをさすことになる。また遊里で演奏された浄瑠璃をいうとの考えもあるが,そうなると音楽上の分類ではなく演奏形式あるいは場所による分類となって正確ではない。
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百科事典マイペディア 「唄浄瑠璃」の意味・わかりやすい解説

唄浄瑠璃【うたじょうるり】

浄瑠璃の中で演劇の場に用いられず,宴席などを主たる演奏の場とするものの呼び名。一中節,河東節,宮薗節,常磐津節,富本節清元節,新内節などをさし,義太夫節に対立する。また長唄の一種の名称でもあり,浄瑠璃を加味した長唄をさす。

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世界大百科事典(旧版)内の唄浄瑠璃の言及

【長唄】より

…この時期の長唄唄方には坂田兵四郎,初世松島庄五郎,初世吉住小三郎,三味線方には7代目杵屋喜三郎,初世杵屋新右衛門,初世杵屋弥三郎,初世杵屋忠次郎,囃子方には宇野長七などがいる。明和期(1764‐72)になると,一中節の太夫から転向した初世富士田吉次(治)によって長唄に浄瑠璃の曲節を加えた唄浄瑠璃(例《吉原雀(よしわらすずめ)》《安宅松(あたかのまつ)》)が創始されたり,大薩摩節(おおざつまぶし)との掛合(《鞭桜宇佐幣(むちざくらうさのみてぐら)》)も開始されて,長唄に新機軸を生みだした。また,この時期には9代目市村羽左衛門など立役(男役)にも舞踊の名手が現れ,舞踊は女形の独占芸という慣行が打破された結果,男性的な曲も生まれた。…

【富士田吉次(富士田吉治)】より

…俳名は楓江(ふうこう)。長唄に一中節,豊後節,義太夫節などの曲節を加味した唄浄瑠璃を創始し,さらに大薩摩節(おおざつまぶし)との掛合を始めるなど長唄に新機軸を生み出す。天性の美声で好評を博し,彼の長唄を聞くために観客が集まり,〈見物を呼ぶ唄うたひ古今稀れのものなり〉といわれた。…

※「唄浄瑠璃」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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