平安時代の歌人。六歌仙の一人。生没年,伝ともに不詳。《古今集》巻十八雑下に〈題しらず 喜撰法師〉として〈わがいほは都の辰巳(たつみ)しかぞ住む世を宇治山と人はいふなり〉があり,〈百人一首〉にも入って著名だが,たしかなのはこの作だけである。《古今集》仮名序に〈宇治山の僧喜撰は言葉かすかにして初め終りたしかならず。いはば秋の月を見るに暁(あかつき)の雲にあへるが如し〉〈よめる歌多くきこえねば,かれこれかよはしてよく知らず〉という。宇治山(現,喜撰山)は京都府宇治市にあり,標高416m。鴨長明の《無名抄》に〈喜撰ガアトノ事〉として〈堂ノ石ズヱナドサダカニアリ〉とする。今,〈喜撰洞〉と呼ぶ岩窟があり,喜撰が住んだ所という。これは近世の地誌類に記されている。喜撰の著書という歌論書に《喜撰式》がある。勅を奉じて撰したというが定かでない。内容はかなり特色があり,後世に広く流布し,重んじられた。
執筆者:奥村 恒哉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…《万葉集》の後,和歌の道はまったくおとろえていたが,その時期に〈いにしへの事をも歌をも知れる人,よむ人多からず。……近き世にその名きこえたる人〉としてあげられた僧正遍昭,在原業平,文屋康秀,喜撰法師,小野小町,大友黒主,の6人のこと。序の筆者紀貫之より1世代前の人々で《古今集》前夜の代表的歌人として《古今集》時代の和歌の隆盛を導いた先駆者たちである。…
※「喜撰法師」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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