無名抄(読み)ムミョウショウ

デジタル大辞泉 「無名抄」の意味・読み・例文・類語

むみょうしょう〔ムミヤウセウ〕【無名抄】

鎌倉時代の歌論書。2巻。鴨長明著。建暦元年(1211)ごろの成立。和歌に関する故実歌人逸話語録詠歌心得などを記した随筆風の書。

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精選版 日本国語大辞典 「無名抄」の意味・読み・例文・類語

むみょうしょうムミャウセウ【無名抄】

  1. 鎌倉初期の歌学書。一巻または二巻。鴨長明著。建暦元年(一二一一以後没年の建保四年(一二一六)までの成立。和歌の風体や表現、詠歌の心得、歌人の逸話や思い出などを記した、約八〇段から成る随筆風の書。長明の幽玄論や師の俊恵の歌学思想を知るための貴重な文献。無名秘抄。長明和歌物語。鴨明抄。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「無名抄」の意味・わかりやすい解説

無名抄
むみょうしょう

鎌倉初期の歌論書。一巻。鴨長明(かものちょうめい)作。1211年(建暦1)以後まもなくの成立か。和歌詠作上の注意や技法、あるいは歌、歌論、歌人にまつわる説話など、長短約80の章を収める。藤原俊成(しゅんぜい)、源俊頼(としより)、源頼政(よりまさ)ら歌人たちの話の多くは、他書ではみられない興味深いものが多い。また歌論書ではあるが、随筆的な色合いも濃く、長明の和歌の師俊恵(しゅんえ)、琵琶(びわ)の師中原有安らの思い出や心に残ることばが記しとどめられ、長明の人となりを浮かび上がらせる。当時の歌壇状況、鴨長明の人間像を探るうえで好個の資料であり、さらに代表作『方丈記』(1212成立)を理解するうえでもきわめて重要な作品である。

[浅見和彦]

『久松潜一・西尾実校注『日本古典文学大系65 歌論集・能楽論集』(1961・岩波書店)』『細野哲雄校注『無名抄』(『日本古典全書 方丈記』所収・1970・朝日新聞社)』


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百科事典マイペディア 「無名抄」の意味・わかりやすい解説

無名抄【むみょうしょう】

鎌倉前期,晩年鴨長明が書いた歌論書。《方丈記》との先後関係は不明。約80段からなり,同時代の歌論書の中でももっとも説話的である。〈ますほのすすき〉の話は《徒然草》188段にも引かれ著名。自身の回想を述べて,長明伝の参考となるところも多い。歌論としては,和歌の師である源俊恵(歌林苑)によるところが大きいが,〈近代古体〉を論じた問答形式の段で,〈幽玄〉について説いている部分など注目される。

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改訂新版 世界大百科事典 「無名抄」の意味・わかりやすい解説

無名抄 (むみょうしょう)

鴨長明が1211年(建暦1)以後に書いた晩年の歌論書。別名《無名秘抄》《長明無名抄》など。彼の師事した俊恵(しゆんえ)とその歌林苑での詠歌活動,《新古今和歌集》撰進期の和歌所寄人として新風に衝撃を受けた体験などを通じて,随想ふうに和歌観を展開している。主題も詠歌心得,和歌故実から和歌説話に及び,御子左家(みこひだりけ)・六条家の対立期,そのはざまを生きた穏健な老練歌人の証言として,重要な意義が認められる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「無名抄」の意味・わかりやすい解説

無名抄
むみょうしょう

鎌倉時代前期の歌論書。鴨長明著。2巻。承元4 (1210) 年頃成立か。源俊頼の歌学書『俊頼髄脳』の別名と区別するために,『長明無名抄』ということもある。別名『無名秘抄』『長明和歌物語』『鴨明抄』。和歌に関する評論や教訓,歌人や名歌に関する逸話など,長短約 80項を収める。歌論では幽玄を論じている歌体論の条が最も著名。説話的なものでは,俊頼と藤原基俊の対立を物語る諸項が興味深い。「三体和歌」のこと,藤原俊成女 (としなりのむすめ) と宮内卿のことなど,『新古今和歌集』時代を物語る挿話や,せみの小川のこと,長明の歌1首が『千載集』に入ったときのことなど,作者の自伝的要素を含む項もある。

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世界大百科事典(旧版)内の無名抄の言及

【歌論】より

…ただ,平安朝時代の美的理念をあらわす批評語であった〈あはれ〉〈たけ高し〉〈をかし〉等と比べると,〈幽玄〉〈有心〉はいちじるしく内面化の傾向を強め,思想性を濃厚にもつ点で中世的理念としての特色をもつのであって,その点を考慮に入れれば,鵜鷺系歌論書に論じられた〈幽玄〉〈有心〉もまた,歌論史の大筋をたどる上で重要な意義をもったのであった。《後鳥羽院御口伝(ごくでん)》,順徳院《八雲御抄(やくもみしよう)》は,俊成,定家の論を踏まえつつ,歌人論,作品論にあらたなる展開を示している点で注目され,鴨長明《無名抄(むみようしよう)》も,〈幽玄〉に言及している。 その後,定家の子の為家の《詠歌一体(えいがいつてい)》(偽書説もある)が平淡美を主唱し,京極為兼の《為兼卿和歌抄》が〈心のままに詞の匂ひゆく〉表現をよしとして,いっそうの心の重視を説いた。…

※「無名抄」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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