日本大百科全書(ニッポニカ) 「あかつき」の意味・わかりやすい解説
あかつき
宇宙航空研究開発機構(JAXA(ジャクサ))が2010年(平成22)にH-ⅡAロケットにより打ち上げた、日本初の金星探査衛星。計画名は「PLANET-C」または「VCO(Venus Climate Orbiter、金星気候観測オービター)」。計画当初は2007年にM-Ⅴロケットで打ち上げる予定であったが、計画の遅れでロケットがH-ⅡAに変更された。「あかつき」の打上げは成功したものの、軌道投入用エンジンであるスラスターの異常燃焼により金星周回軌道への投入に失敗し、金星に近い軌道で太陽を周回していた。2015年に金星周回軌道への再投入が行われ、成功が確認された。「あかつき」の軌道は金星からもっとも遠い距離(遠金点)が約44万キロメートル、金星からもっとも近い距離(近金点)が約400キロメートルで、周期が約13.6日の楕円軌道となった。「あかつき」はスーパーローテーションとよばれる惑星規模の高速風(毎秒100メートル)など、従来の気象学では説明ができない金星の大気現象のメカニズムの解明を主目的としている。加えて、赤外線により金星の地表面の物性や火山活動を調べ、また地球出発から金星到着までの間に存在する惑星間の塵(ちり)の分布(黄道光)を観測する。衛星本体の重量は500キログラムで、小惑星探査機「はやぶさ」の基本システムを活用している。観測機器とミッションは以下の通り。
(1)金星表面からの赤外線をとらえる観測波長1マイクロメートルの赤外線カメラ(IR1)により、金星表面、低層雲や水蒸気、火山の観測などを行う。
(2)雲層より下の大気からの赤外線をとらえる観測波長2マイクロメートルの赤外線カメラ(IR2)により、雲や一酸化炭素の分布、動態を観測する。
(3)雲が発する中間赤外線をとらえる中間赤外カメラ(LIR)により、雲の温度分布と動きを観測する。
(4)太陽からの紫外線が雲に散乱される光をとらえる紫外線イメージャー(UVI)により、雲頂にある二酸化炭素などを観測する。
(5)雷などからの発光をとらえる雷・大気カメラ(LAC)により、雷や大気の化学的発光を観測する。
「あかつき」は、2016年4月から本格観測を開始した。UVIセンサーでは、雲頂の吸収物質の分布、細かな雲構造が鮮明に映し出され、高精度で雲頂高度における風速分布を導出することができた。また、同時に撮像したUVIの波長283ナノメートルの画像では、二酸化硫黄(SO2)の分布を示しており、雲の形成・消失にかかわる物理プロセスが推定できることを期待させる。
[森山 隆 2017年3月21日]