日本大百科全書(ニッポニカ) 「嘆きのテレーズ」の意味・わかりやすい解説
嘆きのテレーズ
なげきのてれーず
Thérèse Raquin
フランス・イタリア合作映画。1952年作品。監督マルセル・カルネ。エミール・ゾラの原作『テレーズ・ラカン』をシャルル・スパークCharles Spaak(1903―1975)とカルネが現代に置き換えて脚色。原作にはない目撃者の水兵を創造し、サスペンス味を加えている。病弱な夫と冷淡な姑(しゅうとめ)とともに喜びのない結婚生活を送る人妻が、トラック運転手の男と恋に落ち、二人は夫を殺害。この犯罪を機に意外な結末へと至る残酷な運命の顛末(てんまつ)を描く。主演のシモーヌ・シニョレSimone Signoret(1921―1985)が抑制した演技と表情のなかに、陰鬱(いんうつ)、激情、悲しみ、怒り、幻滅など、さまざまな感情の微妙な変化を見せる。カルネの戦後の代表作で、ベネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した。日本でも人気が高く、キネマ旬報ベストテン第1位。
[伊津野知多]