化学辞典 第2版 「回転スペクトル」の解説
回転スペクトル
カイテンスペクトル
rotation spectrum
分子回転の量子化されたエネルギー状態.すなわち,回転準位の間で起こる遷移によるスペクトルをいう.遠赤外領域からマイクロ波領域,まれにはラジオ波領域で観測される.分子の主慣性モーメントを Ia,Ib,Ic(Ia ≦ Ib ≦ Ic)とし,回転角運動量の慣性主軸成分を Pa,Pb,Pc とすると,回転エネルギーは
Pa2/2Ia + Pb2/2Ib + Pc2/2Ic
と表される.回転定数
A = h/8π2Ia,
B = h/8π2Ib,
C = h/8π2Ic(hはプランク定数)
を導入すると,直線分子
(Ia = 0,Ib = Ic)
の回転エネルギーは
hBJ(J + 1)
となり,対称こま分子では Ia = Ib または Ib = Ic であるが,後者では
hBJ(J + 1) + h(A - B)K 2
が量子化されたエネルギーである.ここで,Jは回転量子数,Kは分子軸方向の回転量子数で,J = 0,1,2,…,K = 0,±1,…,±Jである.これらの分子では
ΔJ = ±1,ΔK = 0
の選択律が成立するから,J - 1からJの準位への遷移スペクトルの周波数は2BJとなるが,実際には遠心力ひずみによる小さな補正項がつけ加わる.非対称こまの回転準位および回転スペクトルは複雑なものとなる.回転スペクトルは,分子の構造や振動回転相互作用に関する知見を与える.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報