固体電子論(読み)こたいでんしろん(その他表記)electron theory of solids

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「固体電子論」の意味・わかりやすい解説

固体電子論
こたいでんしろん
electron theory of solids

固体では原子が近接して存在するため,原子1個の場合の鋭いエネルギー準位と違って,近接原子の外殻電子が相互作用して,幅をもったエネルギー帯をいくつか形成する。固体の結晶構造などによってエネルギー帯の構造が異なり,電子の行動が違ってくる。固体の電磁的性質などを,電子のエネルギー帯の構造,電子と格子振動との相互作用などによって説明するのが固体電子論または固体のバンド (帯) 理論である。完全に電子で満たされたエネルギー帯を充満帯,電子がある程度満たしているか,またはまったく存在しないエネルギー帯を伝導帯といい,エネルギー帯の中間で電子が存在できないエネルギー領域を禁止帯という。たとえば,図に示すように,金属(a)では 伝導帯にある程度の電子が存在し,電場を加えるとこれらが自由に動くと考えれば電気伝導が説明される。これらの電子を量子論的に扱って比熱や磁性など金属の諸性質を論じるのが金属電子論である。これに対し,絶縁体 (b) では伝導帯に電子がまったく存在せず,充満帯を満たした電子はあいた状態がないので電場を加えてもまったく動くことができず,電気伝導は起らない。絶縁体が電場によって誘電分極する性質などを,このような電子と格子振動との相互作用によって論じるのが絶縁体の理論 (誘電体論) である。絶縁体と同様に,真性半導体 (c) でも伝導帯には電子がまったく存在しないが,充満帯との間のエネルギーギャップが小さいので,光または熱に刺激されて充満帯の電子の一部分が容易に伝導帯に移って弱い電気伝導を生じる。このとき充満帯の電子が抜けてあいた状態を正孔といい,正孔はあたかも正電荷の粒子のように行動して電気伝導に寄与する。また極微量の不純物を含む不純物半導体 (d),(e) では,これらの不純物が伝導帯または充満帯に接近した不純物準位をつくり,この準位の電子が真性半導体の場合と同様な作用をしてn型またはp型半導体となる。前記描像に従って種々の半導体の諸性質を論じるのが半導体の理論である。

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世界大百科事典(旧版)内の固体電子論の言及

【固体物理学】より

…現在ではX線,電子線,中性子線を用いて固体内および固体表面の原子配列あるいはスピン配列を調べる方法は,固体物理学における重要な研究手段の一つとなっている。固体内の電子状態を理論的に明らかにする固体電子論も固体物理学の重要な分野の一つであるが,この分野は量子力学誕生後の30年代にその基礎が作り上げられた。今日では固体内電子,原子を,一体近似を越えた多体系として取り扱う理論体系も発展し,超伝導の機構を明らかにしたJ.バーディーンらの理論,ジョセフソン効果,近藤効果,線形応答理論やグリーン関数法などの量子統計力学の解析的方法などの輝かしい成果を生むとともに,固体物理学のあらゆる分野に大きな刺激を与えている。…

※「固体電子論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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