改訂新版 世界大百科事典 「国民文化」の意味・わかりやすい解説
国民文化 (こくみんぶんか)
一つの国家の国民の多くが共通の知識としてもち,国民全部にとって妥当性があるとされる文化をいう。国民文化の創出は,アジア,アフリカなどの新興諸国,とりわけ多民族国家における国民形成nation buildingの過程において重要な課題となる。国家をつくっている段階の文化(人類学で文明と呼ぶもの)においては,文化的伝統は単一でなく,学校,神殿などにおいて,文字を媒介として少数のエリートに伝えられる大伝統と,一般民衆に家庭や共同体において口承によって伝えられる小伝統とが並存している。いわゆる国民国家においては,普通教育の普及に伴い,文字を媒介としつつも,少数のエリートのための洗練された大伝統ばかりでなく,平易な実用的知識を中心にした国民文化という新しい形の文化伝統が生まれる。
執筆者:大林 太良
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報