多民族国家(読み)たみんぞくこっか

日本大百科全書(ニッポニカ) 「多民族国家」の意味・わかりやすい解説

多民族国家
たみんぞくこっか

多く民族を包含する国家。この場合、支配的な民族(あるいは諸民族)が他の民族(あるいは諸民族)を軍事力によって従属させる植民地支配は、多民族がその領域内に居住しているが、帝国または植民地帝国とよんで、多民族国家とはいわない。たとえば、スペインのように国内にカタルーニャバスクといった民族を抱えている国を多民族国家とよぶ場合もある。民族の定義の仕方にもよるが、種族言語宗教などの異なる住民(エスニシティ集団)を抱えた国を多民族国家とよぶならば、アジアやアフリカおよび中南米諸国はたいてい多民族国家といってもよいかもしれない。このように多民族国家ということば自体は、はなはだあいまいであり、社会科学的な範疇(はんちゅう)ではない。

 しかし、一般的には現代において、多民族国家としてあげられるのは、ロシア連邦アメリカ合衆国および中国インドである。中国は少数民族の種類が多いが、その人口の絶対数はさして多いものではなく、チベット自治管区など五つの自治区および自治州・自治県をつくっている。アメリカは人種的に複雑な構成をもっており、白人が人口の8割以上を占めるが、その系統はさまざまである。人口の1割程度を占めるのが黒人で、さらに先住民およびアジア系が約1%を占める。多民族国家としてのアメリカは、言語的にほぼ一様で、諸エスニシティの混在特徴とし、ロシアや中国とは異なっている。インドでは言語別に州が分かれ、各州では異なった言語が存在する。

[斉藤 孝]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

山川 世界史小辞典 改訂新版 「多民族国家」の解説

多民族国家(たみんぞくこっか)

いくつもの民族から構成される国家。支配的な多数民族と多くの少数民族からなる場合が多い。単一の民族から国民が形成されている国家,国民国家と異なる国家である。歴史的には多民族国家のありふれた形態は帝国であった。帝国とは異なる編成を持つ多民族国家としてはアメリカ合衆国とソヴィエト連邦が代表的である。しかし,これらも拡張された定義で帝国と呼ばれる場合がある。そもそも単一民族から国民が形成されている国家は例外であり,単一民族国家とみられていても実際には多民族(複数民族)国家であるのがふつうだといわねばならない。

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

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