国立図書館(読み)こくりつとしょかん(英語表記)national libraries

日本大百科全書(ニッポニカ) 「国立図書館」の意味・わかりやすい解説

国立図書館
こくりつとしょかん
national libraries

国立の図書館を意味するが、国の中心的役割を受け持つ図書館をさす場合が多い。1950年代から1960年代にかけて、国際図書館連盟International Federation of Library Associations and Institutions(IFLA(イフラ))を中心に、国立図書館の機能が論じられ始めた。それはアジア・アフリカ諸国に国の中央図書館が設立されたことと、出版物の書誌面、利用面で国際間の協力が必要になってきたことを示している。

[藤野幸雄・野口武悟 2021年1月21日]

機能

国立図書館の機能は、(1)その国の出版物を網羅的に収集、保存する。そのため各国は、出版物の納本義務を法律で定めている。納本の仕方、部数は国によって異なる、(2)国内出版物のよりどころとなる目録記述を「全国書誌」の形で提供する、(3)「国内図書館の図書館」の役割を果たす、などである。

 (1)の場合、自国について外国語で書かれたものを含める国もあり、(3)については国民の直接利用、貸出しを含める国もある。さらに、外国語文献の大型コレクションをもつこと、国内図書館の所蔵総合目録をつくることもあげられているが、これらはかならずしも一致した見解とはなっていない。

 IFLAでは、こうした機能に基づいて、以下のような取組みをしている。

〔1〕世界的な書誌記述の標準化universal bibliographic controlを図る。これによって、どの国の出版物情報も統一した姿で使えるようにする。1960年代以後、各国の国立図書館は自国の機械可読目録MARC(マーク))の開発に取り組み、出版物の書誌情報がコンピュータに記録されるようになった。この結果、コンピュータがネットワークに接続されていれば、どの国の出版情報も検索が可能となった。こうした状況を踏まえて記述の標準化が進められている。

〔2〕出版物の相互貸借universal availability of publicationsに取り組んでいる。大英図書館貸出局やアメリカ議会図書館では自国内の図書館はもとより他国からの資料複写要求にも積極的に応じている。ただし、各国の政治・経済事情が絡み、また図書館の規模の差もあるため、現在のところ相互貸借とはいっても、一部の大図書館からその他の多くの図書館への貸出しという一方向の提供の段階である。

 次に代表的な世界の国立図書館をあげてみる(日本の国立図書館は、「国立国会図書館」の項参照)。

[藤野幸雄・野口武悟 2021年1月21日]

イギリス

1973年に発足した大英図書館The British Libraryは、歴史の古い大英博物館の図書館部門、国立科学技術貸出図書館、『英国全国書誌』を刊行していた同名称の法人組織、ならびに公共図書館の全国ネットワークの中心にあった国立中央図書館などが合併してできた。2019年の時点で、資料総数は1億7000万点を超える。現代の国立図書館の機能を、(1)保存と研究、(2)図書館への貸出し、(3)全国書誌の作成・刊行、の三つと考え、大英図書館はそれぞれを受け持つ3部局からなっている。その一つロンドンにある参考局は、大英博物館の蔵書をそっくり受け継いでいる。独立の新館はカムデン地区(セント・パンクラス駅の隣)に完成した。また貸出局はヨークシャーボストン・スパにあり、貸出しはすべて郵送により、国内は1日半、アメリカ、ヨーロッパには2日半でサービスできるようになっている。さらに、インターネット上で図書館サービスに関する情報提供をするとともに、所蔵資料の目録を公開し、外部からの検索を可能にしている。

[藤野幸雄・野口武悟 2021年1月21日]

アメリカ

1800年発足のアメリカ議会図書館U. S. Library of Congressは、学術図書館ネットワークの中心でもある。アメリカ、カナダの図書館総合目録を編纂(へんさん)し、世界に先駆けてMARCシステムを開発した。外国各地に事務所を開設し、その国の国立図書館の協力を得て目録データを作成、国内の学術図書館に提供している。資料総数は、約1億7000万点を超える(2019年時点)。旧ソ連圏諸国以外での最大のロシア語コレクションをもつ。所蔵資料のうち、歴史的・文化的価値の高いものはデジタル化を進めており、すでにデジタル化されたものについてはインターネット上で見ることができるようになっている。常勤職員数は3210人(2019年時点)。不要出版物斡旋(あっせん)のアメリカ図書交換局もここに置かれている。

 アメリカには議会図書館のほかに、国立医学図書館National Library of Medicine(1836年設立。医学文献情報検索サービスを行う)、国立農学図書館National Agricultural Library(1862年設立)があり、それぞれの領域の専門中央図書館となっている。

[藤野幸雄・野口武悟 2021年1月21日]

ドイツ

1990年10月の東西ドイツ統一の結果、フランクフルト・アム・マインの旧ドイツ図書館Deutsche Bibliothekおよびライプツィヒの旧ドイッチェ・ビュッヘライDeutsche Büchereiが統合して実現したドイツ国立図書館Deutsche Nationalbibliothekのほかに、ベルリン国立図書館Staatsbibliothek zu Berlin(旧、国立プロイセン文化財団図書館)およびバイエルン州立図書館Bayerische Staatsbibliothekがその役割を担っている。

 ドイツ国立図書館はドイツ語図書の納本図書館で、蔵書は4000万冊(2020年時点)あり、全国書誌の機械化の実績がある。ベルリン国立図書館は外国研究の中央図書館であり、また、バイエルン州立図書館は戦災を免れたみごとな古書コレクションをもつ。

[藤野幸雄・野口武悟 2021年1月21日]

フランス

歴史的に中央集権の体制をとってきたフランスでは、パリの国立図書館Bibliothèque nationale de France(BNF)が、すべての図書館活動の中心である。起源は15世紀にさかのぼることができ、納本制度を実施し、「全国書誌」を始めたのも世界でもっとも古い。アルスナル図書館Bibliothèque de l'Arsenal、オペラ座図書館Bibliothèque de l'Opéraも組織としては国立図書館に属す。蔵書は約1300万冊(2013年)。

[藤野幸雄・野口武悟 2021年1月21日]

ロシア

国立中央図書館にあたるのはモスクワのロシア国立図書館Российская Государственная Библиотека/Rossiyskaya Gosudarstvennaya Biblioteka(旧、レーニン図書館)であるが、「全国書誌」の仕事はロシア図書院が行っている。ロシア科学アカデミー図書館は全国的に独自のネットワークをつくっている。また旧ソ連邦を構成していて、1991年に独立した各民族共和国にはそれぞれ中央図書館がある。国立図書館は全国の大衆図書館の指導本部で、図書館学の研究機関でもある。複数部の納本を受け取り、その一部は国際交換にあて、外国資料を収集する。蔵書は約2000万冊(2012年)。図書館は全国民に開かれるとのたてまえから、18歳以上であれば、だれでも利用できる。またサンクト・ペテルブルグには、歴史が古く蔵書数1500万冊(2012年)のロシア国立図書館(旧、シチェドリン図書館)がある。

[藤野幸雄・野口武悟 2021年1月21日]

中国

蔵書数約3000万冊(2013年)といわれる中国国家図書館は北京(ぺキン)にある。ここには古書や貴重書を扱う古籍館が設置されている。出版物の納本を受け、「全国書誌」を提供している。セミナーの開催等を通じて、全国の図書館員の養成にもあたっている。

[藤野幸雄・野口武悟 2021年1月21日]

その他

歴史と現在の事情により各国は自分の国にあった国立図書館を設けている。フィンランドでは、ヘルシンキ大学図書館が国立図書館の役目を果たしている。また各国の国立図書館では、国内の図書館ネットワークをいかに組み立てるか、隣接地域または国際的な協力をいかに実現するかが課題である。そのためにチェコでは、首都プラハにあるカレル大学、経済中央研究所図書館等を合体させ、1959年国立図書館を設立。またスカンジナビア四国の図書館の中央事務局であり、地域図書館協力の実をあげているストックホルム(スウェーデン)の王立図書館の例もある。言語を同じくするラテンアメリカ諸国では、書誌刊行、図書館員養成の相互協力も図っている。

[藤野幸雄・野口武悟 2021年1月21日]

国立図書館のコンピュータ化

1990年代に入ると、インターネット上にホームページを設け、どの国からでも情報や目録検索などを可能にしている国立図書館が増えてきた。2000年代以降は、資料そのものを画面上で見ることができる電子図書館サービスの提供も広がっている。情報化の進むなか、出版物のデジタル化やオンラインでの情報検索システムの拡大において、各国の国立図書館の果たす役割は、いっそう増大していくことになろう。

[藤野幸雄・野口武悟 2021年1月21日]

『鈴木平八郎著『国立図書館』(1984・丸善)』『藤野幸雄著『現代の図書館――図書館概説』(1998・勉誠社)』『国立国会図書館訳・編『21世紀の国立図書館――国際シンポジウム記録集』(1997・日本図書館協会)』『藤野幸雄著『アメリカ議会図書館――世界最大の情報センター』(中公新書)』


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

図書館情報学用語辞典 第5版 「国立図書館」の解説

国立図書館

(1)一般に国家が設置し,経営する図書館.通常国立であっても官庁図書館や国立大学などの図書館は指さず,国の中央図書館を指す.「図書館の図書館」としての機能を発揮しているが,国民に開かれた公共図書館的な役割を担うところ(発展途上国など)もある.国立図書館の機能は,ユネスコの定義によれば,自国の資料の網羅的収集と保存,自国資料の書誌情報の提供,全国ネットワークの中心の役割があげられているが,国により活動範囲はさまざまである.(2)日本の国立中央図書館の1947(昭和22)年12月4日から1949(昭和24)年3月31日までの名称.帝国図書館では,帝国主義を連想させると忌まれ,国立図書館と改称した.同図書館は,連合国軍総司令部の意向で国会の立法調査能力を高めるため新設の国立国会図書館に吸収された.

出典 図書館情報学用語辞典 第4版図書館情報学用語辞典 第5版について 情報

今日のキーワード

プラチナキャリア

年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

プラチナキャリアの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android